若林正恭、ゆりやんレトリィバァら芸人はなぜラッパー化するのか お笑いとラップに共通する“三要素”
ラップ/ヒップホップが好きな若手芸人たちによるユニット、若手芸人HIPHOP同好会の楽曲「アピールタイム」のMVがとにかく格好良い。楽曲のクオリティはもちろんのこと、1980年代から1990年代のアメリカのストリートカルチャーへ多大なリスペクトを込めたようなビデオカメラ風映像が、同ユニットのジャンルへの愛情と造詣の深さを感じさせる。
7月19日に配信リリースされた、Awich、NENE、LANA、MaRIによるサイファー「Bad Bitch 美学」のリミックスには、AIと共にゆりやんレトリィバァがゲスト参加。〈一括で買ったベンツで帰宅〉〈Netflixでも主役はるし〉と自身の成功体験をアピールしながら、〈まだおもんないとか言ってんの? 文句があんならトロフィー見せろ〉とアンチに向けた挑発と、〈こちとらまじで覚悟が違う〉〈ふざけ倒すのがわたしの美学〉と自分のあり方を口にするリリックは、ゆりやんのリアルそのものでもあり聴いていて鳥肌が立った。
ダウンタウンのGEISHA GIRLS、ジョイマンのラップネタなどが話題に
2019年10月にバラエティ番組『アメトーーク!』(テレビ朝日系)でラップ大好き芸人が特集され、2020年からはラッパーの指導のもとで芸人らがMCバトルの腕を磨き上げていくラップ番組『フリースタイルティーチャー』(テレビ朝日/ABEMA)も放送されて反響を集めるなど、ラップとお笑い芸人の親和性がどんどん高くなっている。
とは言っても最近湧き上がった動きではない。かいつまんで振り返れば、たとえば1994年から1995年にかけては、坂本龍一(Ryuichi Sakamoto)、テイ・トウワ(Towa Tei)、森俊彦(Toshihiko Mori)がプロデュースしたダウンタウンの別名義ユニット・GEISHA GIRLSが活動。今田耕司と東野幸治はWEST END×YUKI(from OPD)に参加し、1995年発表のヒットナンバー「DA.YO.NE」を大阪バージョンでアレンジした「SO.YA.NA」をリリースした。
2007年にはバラエティ番組『リンカーン』(TBS系)で、D.Oがリーダーをつとめていた練マザファッカーに中川家・中川剛が弟子入りする企画「ウルリン滞在記」が放送。2008年にはジョイマンが「ありがとう オリゴ糖」などのラップネタでブレイクした。その後も、フードをかぶると途端に凄腕ラッパーへと変身するラニーノーズのバトルネタなど、お笑いはさまざまなアプローチでラップを取り込んできた。
そのほか、2018年に大阪で開催された音楽フェス『KOYABU SONIC 2018』ではスチャダラパーが「今夜はブギー・バック」で、ちゃらんぽらん・冨好、バッファロー吾郎Aとコラボ。テレビなどでは、久保田和靖(とろサーモン)、中山功太、盛山晋太郎(見取り図)、酒井貴士(ザ・マミィ)らもラップを披露する機会が増えた。
一方、MC.wakaとして星野源、miwa、梅沢富美男らとコラボしている若林正恭(オードリー)は2021年10月31日放送『ボクらの時代』(フジテレビ系)で「15歳のときから日本語ラップが好き」としながら、「20年前ぐらいは、自分のいた事務所が小さいからなのか、日本語ラップ聞いてるみたいなこというと(先輩に)イジられていた」「太いブラックジーンズにエアフォース1とか履いて漫才やってたら『お前なんなのその格好。カッコつけたいの』みたいな、イジられて」と現在ほどお笑いにラップ要素を持ち込むことは歓迎されていなかったことを明かしている。(※1)
そんな若林が山里亮太(南海キャンディーズ)と組んでいた漫才コンビ、たりないふたりにCreepy Nutsがオマージュを捧げた曲「たりないふたり」(2016年)をリリースしたことはよく知られた話だ。だが、お笑いとラップの親和化は急に進んだものではなく、そういった様々な出来事の積み重ねによる部分が大きい。そのなかでお笑いとラップは互いの共通点を発見しあったり、活かしあったりしていった。