ホロライブからの影響も K-POPシーンにおけるバーチャルアイドル最新事情

 近年、存在感を増しているインターネット上に構成された3次元の仮想空間、メタバース。K-POPでは、韓国のゲームメーカーであるNetmarble F&Cの子会社・メタバースエンターテインメントと、カカオエンターテインメントが共に「Unreal Engine」と「MetaHuman Creator」を活用して制作、2023年1月25日にデビューした4人組AIガールズグループ・MAVE:が話題に。出演した音楽番組『THE SHOW』の映像がYouTubeで300万回を超える再生数を獲得している。

MAVE: (메이브) - PANDORA (판도라) | Show! MusicCore | MBC230128방송

 同じくCGによる外見を持つアイドルの中でも、主にAIで作られているバーチャルアイドル達とは異なる「バーチャル的」なアプローチで注目を受けるのが、韓国の有名配信者・우왁굳(ウワクグッド)によるTwitchストリーマー育成オーディション番組を通じて2021年に誕生したガールズグループ、ISEGYE IDOLL(異世界アイドル)だ。YouTubeで約5000万人以上のファンを確保している日本のVTuber事務所「ホロライブプロダクション」に影響を受けて制作されたという。

 アイネ、ジンバーガー、リルパ、ジュルル、ゴセグ、ゔぃちゃんの6人によるISEGYE IDOLLは主にVRChatで活動しており、デビュー曲「RE:WIND」のMVもVRChat上で撮影された。外見がCGによるバーチャルキャラクターなだけで、いわゆる「中の人」がいるVTuberやバーチャルストリーマーなどのバーチャル配信主に近い存在というのが、MAVE:のようなAIによるアイドル達とは大きく異なる点だ。特にISEGYE IDOLLに関しては、1人の人気ストリーマーの企画が発展して、作曲、編曲など専門性が必要な分野にはそれに詳しいファンが制作に参加するという、まさに“ファンの手によって作られるアイドル”という部分も特異的と言えるだろう。

이세계아이돌 (ISEGYE IDOL) - 리와인드 (RE:WIND) Official MV

 2枚目のシングル「겨울봄(Winter Spring) 」は韓国の最大手音源配信サービス・MelOnのTOP100で36位・リアルタイム14位・デイリー137位、Gaonではデジタル総合85位、DLでは週間1位と、3次元の新人アイドルと比較してもなかなかの好成績を残している。

【싱여】 겨울봄 (Winter Spring) - 이세계아이돌 (ISEGYE IDOL) / 남자 커버

 また、今年から韓国の大手ウェブ小説/ウェブトゥーンプラットフォームのカカオページ・カカオウェブトゥーンにて「魔法少女異世界アイドル」というウェブトゥーンも連載中。6月22日にOSTとして発売された「LOCKDOWN」はMelOnのHOT100(発売30日以内)で2位にランクインし、24時間以内に100万ストリームを達成した曲が入ることができる「MelOnの殿堂」入りを果たした(※1)。これは国内バーチャルグループ初で、音楽番組『ショー! 音楽中心(K-POPの中心)』でも10位内に入る成績を上げた。NAVERのファンカフェ(ウェブ上のファンクラブ)では全体の中で2番目にメンバーが多く、韓国コンテンツ振興院が製作した2022年コンテンツ産業決算セミナー資料にも登場するなど、韓国のバーチャルアイドルの中では現在最も目に見える成果を残していると言えるだろう。Mnet/ABEMAで放送されたバーチャルアイドルサバイバル『少女リバース』も、ISEGYE IDOLLの成功がなくては実現しなかったかもしれない。

異世界アイドル (ISEGYE IDOL) - LOCKDOWN (ロックダウン) Official MV (魔法少女異世界アイドルウェブトゥーンOST)【日本語字幕】

 各メンバーは現在はWAKエンターテインメントの社長となったウワクグッドの配信視聴者出身であり、それぞれが配信者として独立して活動をしながらも、同時にWAKに所属するストリーマー兼アイドルでもある。プロデューサー・アイドル・ファンダムがほぼ同等な立場で「ISEGYE IDOLL」というコンテンツを作り上げており、ストリーマー=配信者としての活動が先にあって、それが集まってアイドルとして活動しているという部分が他のバーチャルアイドルとは異なる部分だろう。また、「中の人」のリアルをなるべく見えないようにアバターのキャラクターを別に作り上げる傾向にある日本のアイドル的なVTuberとは異なり、バーチャルなルックスはあるものの、あくまで配信主のアバターにすぎないという点は、日本と韓国の配信文化の違いを表しているようだ。

関連記事