703号室、「偽物勇者」ヒットでの葛藤からアルバム『BREAK』に至るまで 岡谷柚奈自身のルーツも明かす

「Sing for me」は本当に自分のためだけに書いた

――アルバムに関しても聞かせてください。基本的にはこれまで配信リリースしてきた曲をまとめた形にしようと作っていった感じでしょうか。

岡谷:そうですね。曲も12、13曲たまって。このタイミングでアルバムを作らないかというお話をいただいて。やっと形にできるんだって思ったんですけど、アルバムのために曲を作るんじゃなくて、今ある曲を形にするっていう作業だったので、アルバムを作る意味をもう一回自分の中で落とし込まないと意味がないなと思って。なんでアルバムを作りたかったのか、何がしたくてアルバムを作るのかとか、そういうこともイチから自分で考え直して作りました。

――たとえば「非釈迦様」とか「egoist」とか、ダークな曲、「偽物勇者」の延長線上にあるような曲もあるわけですが、この辺りはどう作ったんでしょうか。

非釈迦様
egoist

岡谷:「非釈迦様」も「egoist」も、アルバムのために作ったんじゃなく、元々あった曲で。どの曲もそうなんですけど、自分が書きたいって思ったことが浮かんで、そこから書き始めるんです。「Sing for me」だけは本当にアルバムを作るって決まってから、そのために書いたんですけど。

――「人間」と「非釈迦様」は同じ方向性の曲だと思ったんですけど、近い感じで作っていましたか?

703号室『人間』(Music Video)

岡谷:「人間」を作った次の日に「非釈迦様」を作ったんですよ。これはラムシーニさんという「人間」もアレンジしてくださった方と作っていて。本当は去年の10月に出そうって言ってたんですけど、なんか納得いかなくて、ずっと止まっていて。アルバムを作るってなった時に、一回全部壊そうって言って、サビ以外を全部まっさらにして、ラムシーニさんと「まずこの曲で何を言いたいのか、もう一回考えよう」って、2人でにらめっこしながら作りましたね。

――YouTubeの再生回数を見ても「人間」はすごく受け入れられていますよね。こういう内面を掘り下げるような曲、いい意味でエグいものって、自分が作ると結構刺さるんだなという実感もあったのではないかと。

岡谷:ありました。「人間」は、歌詞は本当に自分が思ってることを書いたけど、サウンド感としては、自分が本当にやりたいということよりも「こういうのだったら伸びるだろう」みたいな気持ちで書いた曲だったんですよ。逆に思いっきりそっちに寄せちゃおうかなと考えていたら、やっぱり伸びたから、それがちょっと悔しくて。でもその時はサビしか作ってなかったんで、これだけ注目してくださってるなら歌詞に全部落とし込もうと。自分の言いたいことを全部詰め込んで作りました。

――お話をお伺いしていると、それこそTikTokにおいて今のリスナーがどういうものを求めているのかとか、こうすれば伸びるんじゃないかとか、分析するような発想も持っているんですね。

岡谷:はい。

――それを踏まえての質問ですが、今はTikTokでどんなものがウケる、どういうものが伸びていく傾向があると思いますか?

岡谷:最近はTikTokを分析すればするほどどんどん囚われちゃって、そこから離れようと思っているんですけど。分析していた時は、とにかく人がやってないことをやるっていうのと、意外性、あとはなるべくシンプルにする。完成された音源じゃなくて、家で打ち込んでいたり弾き語りしていたりするのがわかるような絵と音を合わせてました。自分だけの発想に感じてもらえるような、注目してもらえるようなものを考えていました。

――そうやって、ロジカルに「こういうものが喜ばれる」と考えながらやってきた経験って、どういう糧になっていますか?

岡谷:やっぱり知ってもらえる幅が広がったというか。703号室という名前を知ってくださっている方が増えたのと、あとは自分の中で良かったことは、研究というか、すごく調べて「こうかな」って自分なりに解釈して、結果が出た時にめちゃくちゃ嬉しかったのもあります。やっぱこれで合ってたんだ、みたいな。TikTokとかTwitterとか、どういう流れなのかを読む力というか、その楽しさを知れましたと。

――そして、アルバムを作るにあたって書いた曲がラストの「Sing for me」。この曲にはどういう思いを込めましたか?

703号室『Sing for me』×「サイレント・ライオット」(Music Video)

岡谷:「Sing for me」は、アルバムを作る時に自分の曲をイチからもう1回聴き直して書いた曲で。どういう気持ちで書いたか思い出しながら聴いたんですけど、再生回数とか、ライブの集客とか、自分が好きかどうかよりも、ウケるかどうかみたいなことに囚われちゃっていたなって思って。なんで歌を始めたのかを忘れてしまっていたんです。私は本当に歌うことが好きで、曲を書くのも好きで、その「好き」から始まったのに、なんでこんなしんどくなっちゃってるんだろうねって。誰かを元気にしなきゃとか、誰かを助ける曲を作らなきゃとか、そういうことも思ってたけど、そもそも歌を作り始めたのって自分のためだし、歌を歌うのも自分のためだったので。自分は喜怒哀楽が激しいんですけど、プラスの感情に比べると怒りとか悲しみを表に出すのが得意じゃなくて。音楽を始める前は、何をされてもニコニコしているような人間で、音楽にしか自分の嫌な感情をぶつけるところがなかったんです。そういうことも思い出して、もっとシンプルでいいんだなというか。ただ歌が好きで、ただ自分のために歌うこともすごく大事だなと思ったので、「Sing for me」は本当に自分のためだけに書いたというか。久しぶりに何も考えないで書きました。

――紆余曲折があったから、もう一度始まりの曲を書けたような感じがある、と。

岡谷:そうですね。だから本当に書いていてめちゃめちゃ楽しかったですし、すっきりした感じがあります。

――アルバムが出来上がっての実感は?

岡谷:やっぱり形になったのはめちゃめちゃ嬉しいです。それまで、自分の曲が誰かに届いている実感があまりなかったんですよ。SNSの画面上で「いつも聴いてます」って言われるのももちろん嬉しいけど、実際に手に取ってくれている人を見て、誰かの支えになってるんだなって実感できた。ちょっと自分のことが好きになれました。ちょっと認められたかなって。

――最後に聞かせてください。岡谷さんのこの先の目標、実現したいことにはどういうものがありますか?

岡谷:一番大きいのはスタジアムツアーをやりたいということですね。先日スタジアムライブに行ったんですけど、もうすごすぎて。観客全員、7万人が歌う時間があって、スタジアムは天井がないから空まで声が届いて。戦争とか誹謗中傷とか小さい争いから大きい争いまで、人っていつも争ってるのに、こんなに一つになれるんだという感動があった。自分もこういう景色が見たいなって思いました。

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703号室『BREAK』

■リリース情報
703 号室『BREAK』発売中
https://ssm.lnk.to/BREAK
【CD】¥3,000(税込)
<収録曲>
全16曲
01. 非釈迦様
02. 偽物勇者
03. fliP
04. リセットボタン
05. 青星
06. トワイライト
07. 友達未満恋人未満
08. 裸足のシンデレラ
09. 片想いうぉーかー
10. バケモノ。
11. egoist(新曲)
12. 人間
13. 花笑む
14. 朽世主
15. 僕らの未来計画
16. Sing for me(新曲)

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