“写植の感覚”で挑んだ新曲のサンプリング秘話

――昨年6月にリリースした7thアルバム『7+』は、近年のモードが地続きで反映されつつ、“バックトゥベーシックス”的な趣もあったと思うんです。今回のベストに収録された2023年制作の3曲（「Take That ! feat. TENDRE」、「夏の亡霊 feat. KIRINJI」、「for YOUR BUDDY」）はモード的にどういう感触が強いですか？

冨田：『7+』は、アルバムのすべてがコロナ禍に作られたことが反映されたと思っていて。やっぱり何人かの人に「昔の冨田ラボな感じがありますよね」って言われたんです。昔からのファンからも「戻った感じがある」って言われたり。最初に作った曲「MAP for LOVE」が、コロナによって中止になった冨田ラボのライブに出演予定だった9人のシンガーやラッパー（坂本真綾、長岡亮介（ペトロールズ）、長塚健斗（WONK）、Naz、bird、藤原さくら、堀込泰行、吉田沙良（モノンクル）、Ryohu）と一緒にやったことも大きい。コロナ禍だからリモートで歌のデータをやり取りする中で、医療従事者を支援するチャリティソングということもあったし、ポップミュージックの伝統的なフォーマットに則った曲にしたんですね。そうすると必然的に自分の原点に近い曲になるし、そういう気分が反映されていると思う。それもあとになって思うことではあるんだけど、自分が社会的な状況に影響されたことが新鮮でもあった。

――こんな自分もいるんだ、みたいな。

冨田：そうそう。僕は社会で何が起きようが音楽制作に関してはそれに影響されることがなかったの。例えば、今でもハワイにいながら極寒のサウンドトラックを作れるって思うし（笑）。それくらい共感性の低い音楽家だと思うんだけど、そんな僕でもコロナ禍や戦争という社会状況には影響されましたからね。事の重大さを思うと共に、自分の人間っぽさを愛おしくも思いましたよ。でも『WORKS BEST 2』に収録した新しい3曲は、社会状況云々とはまた切り離されてますね。さっき『7+』に対して、バックトゥベーシックの要素と『SUPERFINE』以降のモードが混ざった感じと言ってくれたけど、それが今の僕のスタンダードなアプローチになっていると思うんです。生ドラムっぽいアプローチなんだけど、トラック全体にはそんなにオーソドックスな感触はないとか。ソニックとしてのヒップホップは残ってるとかね。

――「夏の亡霊」にしてもそうですよね。

冨田：そう！　そこに気づいてくれるのは嬉しいです。あの曲は（堀込）高樹くんが歌っているということもあって「往年の冨田さんの感じが素晴らしい」って評価をしてくださる方もいるだろうと思いながら作ったけれども、全体的にワウフラッターがすごいかかって歪んでるし、それはソニックとしてのヒップホップからの引用でもあって。その2つの要素が共存することが今の僕のスタンダードなんです。あと「for YOUR BUDDY」のボーカルは、『7+』と2023年の2曲のサンプリングなんですよ。

――え、そうなんですか。

冨田：さっきのAIの話に近いけど、狙ってサンプリングしたわけじゃなくて、不可抗力でもあったんですよ。「Take That !」のTENDREさん、「夏の亡霊」の高樹くんは、今度の20周年イベントに出演してもらう2人でもあって。で、実はもう1組、ライブにお招きしようと思っていたアーティストがいたんだけど、スケジュール調整が上手くいかなくて。当初はその曲をフィーチャリング3部作の3曲目として計画していたんですけど、そこが空いてしまったので、『7+』の収録曲や新曲のボーカルデータがあるから、サンプリングして歌を作ろうとなったんです。ライブとの連動も考えると他のボーカリストを迎えようとはならなくて。

――すごいな（笑）。ビートもかなり刺激的ですよね。

冨田：3曲目はビートが効いてアッパーなものにしようと思って。でも、サンプリングの作業は気が狂うかと思った（笑）。例えば高いミの音で「わ」と歌ってるところをさっき言った全曲から探して、今度は「た」を探すんだけど、「た〜」って伸ばして歌っているのはダメで。次は「し」を探して、やっと繋げて「わたし」になるみたいな。AIじゃなくて、写植の世界ですよ（笑）。

――冨田さんの狂気的で最高のエピソードが聞けてよかったです（笑）。今の段階で、これから冨田さんが追求したいこと、突き詰めたいモードに関して言及できることはありますか？

冨田：具体的に言えることはないんだけど、冨田ラボのフォーマットとしてこの形にできたらいいなというアイデアはひとつ思い浮かんでいて。まずは7月15日の20周年イベントがあるので、それが終わってからいろいろ提案していこうかなと思ってます。まだスタッフにも誰にも言ってない話なので。

――では、また新しく生まれた曲を聴くときに、僕らリスナーが「これだったのか」と答え合わせできるのがベストですね。

冨田：うん。そのときになぜそうなったかもお話できたら楽しいかもしれないです。でも、今の僕はこう言ってるけど、「あのとき思ってたこととは違うわ」と言うかもしれない（笑）。

※1：https://tomitalab.bitfan.id/

■作品情報
『冨田ラボ / 冨田恵一 WORKS BEST 2 〜beautiful songs to remember〜』
通常盤：2CD
2023年6月21日（水）発売／4,950円（税込）

詳細
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VICL-65825.html

＜収録曲＞
Disk 1
01. 冨田ラボ / for YOUR BUDDY
02. 土岐麻子 / Tell Her About It
03. V6 / IN THE WIND – V626 ver.
04. 椎名林檎 / 青春の瞬き
05. 高野寛 / Tokyo Sky Blue
06. 藤原さくら / 茜さす帰路照らされど…
07. VIXX / Last Note～消えた後の蝋燭の香り
08. 冨田ラボ / パスワード feat. 長岡亮介
09. Negicco / 雫の輪
10. kiki vivi lily / Copenhagen
11. bird / Lush
12. 鈴木雅之 / スクランブル交差点
13. JUJU / 人魚
14. Naz / Clear Skies
15. 冨田ラボ / MAP for LOVE (Album Version)

Disk2
01. 冨田ラボ / 夏の亡霊 feat.KIRINJI
02. 冨田ラボ / エイプリルフール feat. 坂本真綾
03. Ryohu / One Way feat. YONCE
04. 牧野由依 / 私と世界
05. 冨田ラボ / 冨田魚店 feat. コムアイ
06. 冨田ラボ / Take That !  feat. TENDRE
07. 森口博子 / Ubugoe
08. 早見沙織 / garden
09. 冨田ラボ / この世は不思議 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう
10. 薬師丸ひろ子 / Come Back To Me ～永遠の横顔
11. 冨田ラボ feat. Emi Meyer / 光あれ
12. スガ シカオ / スターマイン
13. 矢野顕子 / 大丈夫です
14. 秦 基博 / Girl（Tomita Lab. Remix）
15. 冨田ラボ / HOPE for US feat. 磯野くん（YONA YONA WEEKENDERS）,AAAMYYY（Tempalay）, TENDRE, 吉田沙良（モノンクル）& Ryohu

■イベント情報
『冨田ラボ 20th Anniversary Presents “HOPE for US”』
公演日：2023年7月15日（土）
時間：OPEN/14:00 START/15:00
会場：TOKYO DOME CITY HALL
詳細：https://www.red-hot.ne.jp/sp/tomitalab/
出演：冨田ラボ、KIRINJI 、TENDRE、YONA YONA WEEKENDERS
＜冨田ラボゲストシンガー＞
磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS)、AAAMYYY(Tempalay)、TENDRE、長岡亮介(ペトロールズ)、長塚健斗(WONK) 、bird、藤巻亮太、藤原さくら、ぷにぷに電機、堀込高樹(KIRINJI)、吉田沙良(モノンクル)、Ryohu

アリーナS席 ¥11,000（ドリンク代別）※プレミアムNFT付
スタンドS席 ¥11,000（ドリンク代別）※プレミアムNFT付
A席 ¥6,600（ドリンク代別）※”HOPE for US”アートワークNFT付
※S席購入のお客様には、本イベント限定の冨田ラボオリジナル音源をNFTとしてプレゼント

＜チケット一般発売中＞
楽天
https://r-t.jp/tomitalab
ぴあ
https://w.pia.jp/t/tomitalab-20th/
e+
https://eplus.jp/tomitalab/
ローソン
https://l-tike.com/tomitalab/

冨田ラボ／冨田恵一オフィシャルサイト