tonun、“何気ない親密さ”が倍増させる音楽の快楽性 聴き手のスウィートスポットを射抜く『Intro』を聴いて

 そんな快楽性の要となっているのが、他ならぬtonun自身の歌声だ。耳元をそっと撫でるかのような甘く、優しく響くその質感は心地良い珠玉のトラックとこれ以上ないほどにフィットしており、楽曲の持つ快楽性をさらに増幅させる。それはASMR的な恍惚とも言えるものであり、例えば「how many times」は日常に寄り添うような心地良いグルーヴ感の中でtonunの歌声が聴き手を程よく刺激していく至高の仕上がりだ。特にアタック感のある「k」の音や、吐息を感じられる「h」の音などは際立って美しく、これらの音を巧みに織り交ぜたサビは絶品で、聴けば聴くほどにその声に魅了されていく。

 ループするフレーズをまるで耳元で囁くかのように響かせる「eyes」も、そんなASMR的快楽を象徴する一曲だと言えるだろう。tonunのボーカルスタイルは、ここぞというところで美しいファルセットを響かせる場面があるものの、どれだけ盛り上がっても決して鼓膜を突き刺すような感覚を与えることのない、あくまで親密さを持って優しく寄り添い続けるものだ。本人は意識していないかもしれないが、これは例えばハリー・スタイルズの近作などにも通ずるものであり、まさに世界的なメインストリームの動きとも重なるところがある。ただ生きているだけでどこか疲れてしまうような現代を生きるリスナーにとって、このような何気ない「親密さ」を感じられる音楽は、それ自体がとても貴重だろう。

  日常にそっと寄り添い、特別な存在でいてくれるtonunの音楽だが、そこに描かれているのはやはり何気ない日常の中にある美しさ、あるいは儚さに満ちた瞬間の一つひとつだ。スキップするかのように軽快なピアノの音色や、華やかなホーンの音色が祝祭的なムードを彩る「rendez-vous」では、夢心地の多幸感こそ描かれているものの、〈画面越しの視線/君に一目惚れ/ただの呟きも/お気に入り映画も/頭の中/巡り巡っている〉という言葉が示唆するのは、ただ街中でSNSを眺めている中で素敵な人物を見つけただけの主人公の姿である。そんな誰しもが共感できるような、あまりにも何気ない瞬間を切り取って、ここまでポジティブな世界を描いてしまうのだ。

 一方で、本作のラストを飾る「気持ちの糸」では、まさにそんな何気ない幸福な恋愛の瞬間を描きながら、〈恋してたよ/ときめいてたよ/誰よりも長く君に〉と、美しく、優しく、過去形の感情を歌い上げていく。その歌声には想いの揺らぎが感じられ、聴き手の感情をそっと、だが強く揺さぶるのだ。日常をあまりにも巧みに描くからこそ、僅かな変化が目の前の景色をドラマティックに変貌させる。

 フラっと聴くだけでも日常を鮮やかに彩り、一方でじっくりとその世界に浸ることで親密さや喜び、そして儚さを感じさせてくれるtonunの音楽は、今という時代を生きる私たちにとって、きっと必要なものだろう。それをあまりにも見事に表現しきって見せた本作を聴き終えると、これがあくまで『Intro』であることに、どこか末恐ろしさすら感じる。これはあくまで序章であり、本編はまだ始まってすらいないのだ。

tonun『Intro』

■リリース情報
1st ALBUM『Intro』
発売中
形態:CD
価格:3,300円(税込)
品番:UMCK-1744

収録内容
01 Sugar Magic
02 Friday Night
03 嘘寝
04 君は言うかな
05 how many times
06 rendez-vous
07 真夏の恋は気まぐれ
08 eyes
09 merry-go-round
10 気持ちの糸

■ライブ情報
『1st Full AL Release Party「One-man Live」 @Zepp Shinjuku』
2023年6月24日(土)@Zepp Shinjuku
One-man Live
OPEN/START:17:00/18:00
Ticket:1,500円(D別)
詳細:https://w.pia.jp/t/tonun/

オフィシャルサイト:https://tonun.jp/
YouTube:https://www.youtube.com/c/tonunofficial/featured
Twitter:https://twitter.com/tonun_official
Instagram:https://www.instagram.com/tonun_official/

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