クラスの端っこにいた文学少女がミュージシャンに 浦小雪(Sundae May Club)が生み出す、誰かの日常に寄り添う音楽

大学時代に付き合っていた人との関係を歌にした「潮風」

ーー大学ではどうなるんでしょうか。

浦:高校に軽音楽部がなかったので、音楽の趣味が合う人を見つけるためにも、大学に行って音楽をやりたいと思って。先輩たちの演奏がかっこよかったから勢いでジャズ研に入って、ウッドベースを始めました。それをやりつつも、やっぱり歌いたいなと思って。長崎の若者が自分の曲を披露する場所みたいな感じでイベントを組んでいる方がいて、その人に連絡して一人でライブに出てみたら、意外といい反応がもらえたんです。「いいじゃん」と言ってくれた方が、「他のイベントにも出てみない?」って誘ってくれて。そのイベントに、同じサークルの友達が観に来てくれて、「バンド組もうよ」と誘ってもらえたんです。そこから同じジャズ研にいたドラムの子も誘って、3人でロックのサークルに異動して始めたのがSundae May Clubです。

ーーそれはいつ頃?

浦:大学2年の春頃です。

ーーじゃあ2019年か。そこからは、浦さん的には、あれよあれよという間に?

浦:はい。2020年の3月、まだコロナの感染拡大がギリギリひどくなる前に、初めて東京に来て、2回ライブをやって。

ーーそれはどうやって?

浦:ライブハウスの方が、Twitterで私たちのことを知って、前から声をかけてくれていたんです。「東京にまで来れたから、私たち、いけるかもしれない」みたいな自信がついたので、「ほかの曲も録って、たくさんの人に聴いてもらいたい」という感じになりました。それで、1stシングルの「春」を出した時に(2021年6月リリース)、連絡をくれる方が一気に増えて活動が少しずつ広がっていきました。

ーー今、バンドとソロの両方で動いていますよね。

浦:バンドメンバーが、大学を卒業して就職したのがきっかけです。メンバーの勤務地がバラバラで、練習とかライブが頻繁にはできなくなってしまったので。でも活動を止めたらいけないな、と思ってバンドが動けない分ソロでしっかり活動をして、浦小雪という名前が知られたら、Sundae May Clubも知ってもらえる、と考えてソロの活動を始めました。

ーー浦さんは就職をしていないんですよね。

浦:はい。

ーー僕がスタッフだったら、「メンバーが就職するならバンドは終わりね。ここからはソロね」と言うと思うんですが。

浦:(笑)。いや、でも、大学を出て定職につかないっていう選択をメンバーにさせるのは、ちょっと自分も荷が重いというか。就職しながらでもバンドができるなら、その方が自分達らしいんじゃないかなと思って。

ーー浦さんが曲を書く上で大事にしていることは何かありますか?

浦:私は歌詞に重きを置いていて、なるべく日常生活の中にあるような歌詞にしたいと思っています。直接的な表現をしたいわけではなく、誰かの生活に寄り添えるものでありたいなと。だから壮大なテーマよりも、小さい出来事や感情を描きたいんです。ただ、共感させようと考えながら書いているわけではなくて、私が勝手に書いたものを置いておくので、誰かが優しく受け取ってくれたらいいな、みたいな気持ちで歌詞を考えることが多いです。

ーー歌詞の表現において小説や作家から影響を受ける部分、インスパイアされることもあるのでは。

浦:例えば、柔らかい雰囲気を残すために漢字は使わずにあえてひらがなにするところとか、婉曲的な表現が好きなのは読んできた作家さんの影響を受けているかもしれないです。曲のモチーフに関しては、実体験と、小説などの他の作品からインスパイアされることは半々くらいですね。電車に乗っているときに取り留めもなく考えていたことが歌詞になることもありますし、日記まではいかないですけど、思ったことをメモしてそれを繋げて歌詞にすることもあります。バンドの方は割とカラッとした曲が多いんですけど、ソロの方は内面剥き出しみたいな曲が多いかもしれません。

ーー6月、7月、8月と、3カ月続けて新曲のデジタルリリースがあります。6月7日リリースの「潮風」は、どんなふうに生まれた曲なのか、教えていただけますか。

浦:はい。「潮風」は、別れが迫ってくる湿った時間のことを歌った曲です。同じ人と、四六時中一緒にいたら、わだかまりが募ってきて。怒らせることでしか、相手の感情を引き出せない、みたいな行くところまで行っちゃった関係。そこまで行ったら、まともに会話もできないし、そんなつらい思いをしてまで、一緒にいるべきなのかなとずっと悩んでるけど、離れられない。今ではそれがただの執着だったとわかるんですけど、その時の自分は「それが運命の人だからだ」とか、「純粋な愛だ」みたいに信じていて。そこから離れるのが、ものすごくきついんですけど、それを手放すための最後の数時間を、湿り気としょっぱい感じで、海……と表現した曲です。

ーー相当身を切る感じで曲を書いているんですね。

浦:そうですね。大学の時に付き合っていた人との関係で悩んだこと、その激しさを消火させるためっていうか、そういう感じで書いた曲でした。だから、自分の中にあるものを、吐き出している感じです。そこで出てきたフレーズを、小説を書くみたいな感じで整える、といった作り方をしました。

ーー傾向としては、そういう曲が多い?

浦:底抜けに明るいみたいな曲は、なかなか書けなくて。たとえば別れとか、死とか、そういうことを考えがちなので、書きやすいですね。感情がガーッと動かされた時に、曲になりやすいので。

ーー浦さんは歌声もはっきりしたカラーがありますよね。耳に刺さるというか。

浦:「まっすぐ伸びる声がいいね」と褒めていただくことが多くて、そこが私の声の個性なのかなと思っています。ビブラートみたいなテクニックは持っていないんですけど、今のところはそういうスキルはなくてもいいのかなって。一時期、可愛い声を出そうとしていた時期もあるんです。でも子供っぽくなりすぎてしまって(笑)。こういう歌い方になったのはバンド活動のおかげかもしれないです。バンドサウンドに負けないように声をはって歌っていたら、まっすぐ大きく声を出すのがクセになって、でもそこが今の強みになっているような気がします。

ーーこれから連続でリリースが控えていますが、音楽性としてはどういうものを目指していきたいですか?

浦:今まで作ってきた曲はSundae May Clubのようなバンド系のサウンドが軸にはなっているんですけど、私が個人的に聴いているのは電子音が中心のフューチャーベースとか、ジャズ、クラシックなどの曲が多いです。これまでに影響を受けた音楽がたくさんあるので、今はどれが自分に一番ハマるのかを模索している段階なんです。これっていうのはまだ決められていないので、色々な音楽に挑戦しながら、浦小雪らしさみたいなものを確立していきたいなって考えています。

ーーまだソロの楽曲自体は少ないですが、まず、ポップミュージックであることは前提になっているような気がします。

浦:どうなんでしょう……ポップなものを意識的に作ろうとしているわけではないんですけど、ジャンルにこだわらずに作った結果、ポップなものができたという感じで。私、『きらりん☆レボリューション』や『プリキュア』世代なんですけど、アニソンも好きでよく聴くんです。そういった音楽の影響から、キャッチーさは大事にしたいと漠然と思っているのかもしれないです(笑)。

■リリース情報
「潮風」
配信中
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