さだまさしは歌の中で喜怒哀楽を肯定する 50年間の音楽家人生を経て辿り着いた“懐かしくて新しい境地”
「なつかしい未来」と聞いて、あなたはどんな光景を思い描くだろう? 何年も前から想像していた“現在”だろうか。それともイメージとはちょっと違ってしまった“今”の自分自身だろうか。いずれにしても、いろいろな思いが去来する言葉であることは間違いないだろう。
さだまさしからニューアルバム『なつかしい未来』が届けられた。デビュー50周年を記念して制作された本作。過去から現在、そして、現在から過去という両方の視点を軸にした収録曲は、彼自身のキャリアを総括するような作品に仕上がっている。
まずは前作『孤悲』(2022年6月)以降の活動を振り返っておきたい。昨年5月から12月にかけて全国ツアー『さだまさしコンサートツアー2022〜孤悲〜』を開催。アルバム『孤悲』の収録曲を軸にしたこのツアーでさだは、シンガーソングライターとしての現在地を明確に示してみせた(今年7月12日には、東京国際フォーラム ホールAの公演を収録したライブ映像作品、ライブアルバムがリリースされる)。
さらに自身初となる連続ドラマへのレギュラー出演(TBS系『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の語りを担当)を果たし、昨年10月に結成50周年を迎えた、さだまさし・吉田政美によるフォークデュオ“グレープ”名義でじつに47年ぶりとなるオリジナルアルバム『グレープセンセーション』をリリースするなど、精力的な活動を行ってきた。過去と現在を行き来するような活動のなかで、さだ自身にも様々な気づきがあったはず。そのなかで得たインスピレーションは、おそらくニューアルバム『なつかしい未来』にもつながっているのだと思う。
さだの音楽的盟友・渡辺俊幸の作曲・編曲によるインスト曲「序曲『未来へ』〜さださまさしに捧ぐ〜」(ピアノは清塚信也)から始まる本作には、タイトル通り、懐かしさと新しさが重なった楽曲が中心を担っている。
「はてしない恋の歌」(作曲・編曲は倉田信雄)は、いつまでも心の片隅にある〈あの夏の終わりの恋〉を想起する楽曲。切ない抒情性をたたえた旋律とともに描かれるのは、〈君〉の面影、そして、痛みにも似た愛しさ。ガットギター、ウッドベースによるクラシカルな編曲も、〈君〉に語り掛けるようなさだの歌声を際立たせている。特筆すべきは、さだのガットギターのソロ演奏の素晴らしさだ。
ティン・ホイッスルやマリンバを取り入れることで、世界のどこにもないエキゾチズムを表出させた「夢の街」のテーマは〈また帰りたくなる/不思議な街〉。その街で〈僕〉は歌を歌わず、何か別の仕事をしている。大事な友達がいて、それなりに苦労しつつも、居心地よく暮らしている。ぼんやりとした夢想にも近いが、ここではない何処かに思いを馳せたり、“全く違う人生を送っていたら、どうなっただろう”と寄る辺ない想像を巡らせることは誰にでもあるだろう。