BUMP OF CHICKENの音楽が果たしてきたリスナーの力を引き出す手助け 『be there』ツアーで取り戻された多くのもの

「歌声ありがとな」

 会場全体を渦巻く観客たちのシンガロングを受けて、満足そうに藤原基央(Vo/Gt)が呟く。BUMP OF CHICKENの約3年3カ月ぶりの声出し解禁となったライブツアー『BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there』が、5月28日のさいたまスーパーアリーナ公演でフィナーレを迎えた。

 オープニング、会場の待ちきれない想いが溢れ出すような温度感のある拍手に包まれ、センターステージへ歩いていく升秀夫(Dr)、増川弘明(Gt)、直井由文(Ba)。最後に藤原が現れ、ギターを掲げると、拍手はより一層力強いものになった。

 ライブの開幕を飾るのは、「アカシア」。「こんばんはBUMP OF CHICKENです! 今日が最後だぜ! 聞かせてくれよ埼玉、ここにきた証拠をさ」という藤原の煽りに応える会場の声は、開幕直後とは思えないほどのパワーをもってステージへと返された。

 BUMPの楽曲には、ライブにおけるコールアンドレスポンスやシンガロングをもって完成するものが多くある。例えば、3曲目の「天体観測」。観客に委ねる〈君と二人追いかけている〉のシンガロング、お決まりの「オーイェーアハーン」の声も力強く揃い、銀テープが舞うなか、客席からはメンバーの名を呼ぶ声や指笛の音が飛び交う。「好き勝手色々言ってたな。嫌いじゃないぜ、悪い気はしないぜ。ありがとな。もう僕たちは声出していいんです。ライブに君の声が返ってきたんです、やった!」と興奮冷めやらぬ様子で一息に語る藤原の姿に、「ああ、ようやく元の世界に戻ってきたのだ」という感慨を抱く。

 あるいは、幸福感溢れる「新世界」。会場から湧く完璧なリズムのクラップとメロディアスなギターが彩ったこの曲は、〈ベイビーアイラブユーだぜ〉という世界一チャーミングなフレーズのコールアンドレスポンスが観客との間で何度も繰り返される。途中からは藤原の遊び心で吐息交じりに、ついには無声になりながら、愛情でいっぱいに会場を満たした。センターステージからメインステージに跳ねるように駆け戻りながら、藤原は嬉しそうに「ありがとよー!」と叫ぶ。

 「窓の中から」は、2023年3月に放送されたNHK『BUMP OF CHICKEN 18祭(フェス)』で、1000人の18歳世代との合唱や合奏のために書き下ろされた、バンドのみで完結しない「一緒に奏でる」ことを前提とした楽曲だ。サビのコーラスで一気にスケール感を増し、多層的な声の音色が美しい。それを会場全体で奏でる空間は、アーティスト対観客というよりも、この曲を一緒に歌い、完成させるために集まった仲間かのような一体感があった。曲を終えた藤原が「この曲書いてよかった」とこぼしたが、アリーナ1万8千人で歌う「窓の中から」は、きっとこの曲の「あるべき姿」だったのだろう。

 そんなふうに、客席の歌声を借りながら花開くように魅力を増していく数々の楽曲に、何よりもメンバー自身が高揚しているようで、4人ともいつになくはしゃいでいたように思う。観客に「がんばれ!」と応援されながら、藤原とかけあいをしつつツアーの感想を語る増川は、結局うまく話が着地できず、藤原と一緒に膝から崩れ落ちてみせる。直井は発声練習として、手拍子に合わせて「be thereたまアリ」と声を上げることを提案。「be thereは声が高めの人、たまアリは低めのやつがいこう」と指示し、しばし高音の「be there」と低音の「たまアリ」が繰り返された。

 そして、ライブでは決してマイクを通して話さないことでおなじみの升も、「こんばんは! BUMP OF CHICKENの升です! ツアーファイナル! ツアーファイナル! 大事なことなので2回言いました! 最後まで楽しみましょう!」と、会場全体にしっかり届く力強い地声を届けた。

 コロナ禍によってライブの開催、声出しが制限され、音楽アーティストとファンは約3年もの間、多くのものを奪われることになった。だが、こうしてライブの現場に赴き、耳だけではなく体全部で味わう音楽の幸福を深く感じられるのは、空白期間があったおかげとも言える。シンガロングを重視し、「この曲のこのパートは観客が歌う」と定番化しているパートも多く、観客の参加を前提としたライブ作りをしているBUMPにとっても当然、このツアーは特別なものだっただろう。

 そして、この場が特別なのはもちろんファンも同じ。ただ聴くだけではなく、自分自身で歌うことにこんなにも意味があるのだと思い知らされたのは、「HAPPY」から「ray」への流れの中だ。サビで〈Happy Birthday〉と繰り返す「HAPPY」は、BUMPならではのバースデーソング。藤原が「会えて嬉しいぜ。お互い生まれてこなかったらこんな夜はなかったんだよ。君の声で歌うんだ。俺が手伝ってやる。27年ステージ立ってんだ、任せとけ!」と後押しすると、自分自身の誕生を祝う歌声は、徐々に力強く確かなものになっていく。そこからさらに「ray」で「せっかく今日会えたんだ、君の声で聴かせてくれ! 生きるのは?」の言葉に応えて全力で叫ぶ「最高だ!」である。こんなものを続けざまに歌ったら、もう前を向かないわけにはいかなくなるではないか。

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