sumika、結成10周年の誇りを胸に立った横浜スタジアム 不在を乗り越え、リスナーと共にバンドを続けていく決意

 sumikaが結成10周年を記念し、横浜スタジアムで開催した『sumika 10th Anniversary Live 「Ten to Ten to 10」』。4人の「雨天決行」で始まり、3人の「雨天決行」で終わったライブのラストシーン。止まない雨に打たれながら演奏するsumikaと、全力のシンガロングや手拍子でバンドに寄り添ったオーディエンスが一体となり鳴らした音楽の美しさは、あの場にいた3万3千人によって永く語り継がれるだろう。野外ライブの場合、普通、雨は降らない方が嬉しい。しかしこの日のライブに関しては、まるで自分と一緒に泣いてくれているかのような雨が降り続いていたからこそ、メンバーもファンも、喜びや悲しみ、巡る想いをさらけ出せたのではないだろうか。

 「正直予定してたことと全然違うんだけど、それでも奇跡みたいな夜になったのは、どう考えてもあなたのおかげです。寒いからって心配してた俺がバカみたい。めちゃくちゃいい表情を見せてくれて、音を聞かせてくれて、俺は今日、寂しくない」

 そう語った片岡健太(Vo/Gt)。雨天のため、4時間のライブ中には想定外のことも起きた。例えば、sumika[camp session]としてのアコースティックコーナー。センターステージに行き、「子どもに還ったみたい」と雨に濡れながらキャンプファイヤーを囲んで3曲演奏するも、雨脚が強くなってきたことから一時中断することになった。ここで観客を待たせないよう、片岡がメインステージから1曲やろうと提案。「突然やるから、やれる人はついてきて」とメンバーに伝えた片岡が、セットリストにはなかった「ここから見える景色」をアコースティックギターを弾きながら歌い始めると、荒井智之(Dr/Cho)、小川貴之(Key/Cho)、ゲストメンバーがすぐに合流。会話を重ねるように、アンサンブルが徐々に形作られていく様子に「なんかいいな」「これがsumikaだよな」としみじみ思った。

片岡健太(Vo/Gt)

 ハプニングにも機転を効かせて柔軟に対応。その音楽でみんなを温かく包み込む彼らの姿に、どんな苦難や悲しみもカラフルな音楽と仲間との結束で乗り切ってきたsumikaのバンド人生を見る。ライブを振り返る上で触れなければならないが、彼らにとって想定外の出来事は雨だけではなかった。『sumika Live Tour 2022-2023「Ten to Ten」』完走直後の2月23日、黒田隼之介(Gt/Cho)が急逝。メンバーの心情は計り知れないが、3人はそれでもバンドを続けていこうと決意。4月30日の『ARABAKI ROCK FEST.23』よりライブ活動を再開した。あれから初のワンマン、しかもアニバーサリー公演ということで、集まったファンはそれぞれに様々な感情を抱いていたことだろう。

 バンドを続けていこうという決意は、ライブのオープニングで改めて伝えられた。オーケストラアレンジの「Starting Over」をバックに10年の道のりを感じさせる映像を放映したあと、無音の中、片岡、荒井、小川が登場し、観客に向かって一礼。ドラムのスティックカウント、片岡の「ワン、ツー!」という掛け声をきっかけに始まった1曲目は「雨天決行」だった。結成年に発表されたのに背水の陣の覚悟を感じさせる曲であるのは、sumikaは元々、前身バンドの活動休止後、それでも音楽の道を諦められなかったメンバーによって結成されたバンドだから。ライブで演奏されるたび、その時点でのメンバーの想いが込められたが、この日の「雨天決行」はいつになく力強かった。〈やめない やめないんだよ まだ〉と繰り返すボーカルはもちろん、ドラムのキックや鍵盤のタッチ、コーラスの発声も。いつも黒田がいたステージ下手には黒田が愛用していたレスポールが置かれていて、4分割画面のスクリーンが片岡、小川、荒井、黒田のギターを映している。彼の不在が浮き彫りになる。

 sumikaにはギターソロを含む曲も多いが、中でも“黒田といえば”という印象を多くのファンが持っているであろう初期曲「ふっかつのじゅもん」。4曲目に同曲を披露した際には片岡が黒田のレスポールを手に取り、黒田がいつもそうしていたようにストラップを短くしてギターを構え、あのソロを奏でた。曲が終わると、片岡はこう笑う。「今日は隼(黒田)の代わりをやろうという気持ちは捨てようと思います。1曲やって気づいた。ギターが難しすぎる。あんなすごいギタリストの代わりなんてできるわけがない」と。その上で、今日はスタッフの力を借りながら黒田のギターを同期で流すこと、しかしライブの醍醐味は生の演奏だから自分もメンバーもゲストメンバーも一生懸命演奏し、“悲しい空白”は作らず、ミュージシャンらしく音楽を作ろうと思っていることを観客に報告。さらに、あなたの拍手や歓声、歌声もsumikaの音楽の一部だと伝え、「横浜スタジアムこんなに鳴ったことないなってくらい、とんでもなく大きな音を鳴らして帰りましょう。3万3千人で作るsumikaです。よろしくどうぞ!」と呼びかけた。悲しい空白を作らないという意味では、とりわけ「ソーダ」のアプローチに脱帽。原曲ではギターによるイントロのメロディをストリングスが代わりに担うことで、これまで黒田がギターで表現してきたカントリー/ケルト系のニュアンスを上手く引き継ぎつつ、曲の新しい魅力を引き出していた。つまり、バンドマンとしてメンバーを大切に想う気持ちと、音楽家として一番いい演奏を届けようという矜持、両方が感じられたのだ。

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