坂本龍一とデヴィッド・ボウイの交流を辿る 互いに言葉をかけ合い続けた2人の特別なリスペクト
2017年3月、坂本龍一は天王洲アイルの寺田倉庫で開催されていたデヴィッド・ボウイの大回顧展『DAVID BOWIE is』の会場で、ボウイを追悼するトークとピアノコンサートで構成された『DAVID BOWIE SPECIAL NIGHT Ryuichi Sakamoto Talk & Live』を行っている。自身の8年ぶりのソロアルバム『async』の発売日でもあった。
ここのトークでは、『DAVID BOWIE is』でもフィーチャーされていた『戦場のメリークリスマス』撮影時の思い出を語るとともに、ボウイの多彩な創作活動とさまざまな面を知るにつけ、自分が知っていたボウイは彼の一面に過ぎなかったのかもしれないと語っている。
そしてトークの後のピアノソロコンサートでは、『async』収録曲や自身のその他の曲(ボウイに捧げるためにしっとりとした曲を選んだと話している)とともに、バッハ、ショパン、アントニオ・カルロス・ジョビン、フェデリコ・モンポウなどの曲も演奏。さらには約30年ぶりの演奏となった『戦場のメリークリスマス』のサウンドトラック「Ride, Ride, Ride (Celliers' Brother's Song)」も。この曲は映画中でボウイが演じたジャック・セリアズの弟が歌う賛美歌風の曲で、セリアズの死の場面にも流れる重要な曲だけに観客の涙を誘った。
そして最後の曲はもちろん「戦場のメリークリスマス(Merry Christmas, Mr. Lawrence)」。会場ではさらにすすり泣きの声が響いた。このコンサートは、結果的に日本で坂本が10曲以上というまとまった曲数のピアノ演奏を、人前で披露した最後の機会となってしまった。
1980年代のいっとき、濃密な関わりをもち、互いに存在を気にしながらもすれ違ったふたり。今になって思うといくつもある共通項を接点として、1990年代以降も何かしらのコラボレーションがあってもおかしくなかったと思う。
現代美術家のフランシス・ベイコンを描いた映画『愛の悪魔』(1998年)の坂本龍一の音楽は欧米で高く評価された。ベイコンの作品も収集していたとされるアート愛好家のボウイはほぼ同時期の1996年に公開された(日本公開は1997年)、ジャン=ミシェル・バスキアを主人公にした映画『バスキア』でアンディ・ウォーホル役を演じた。ニューヨークの坂本の自宅には、ウォーホルによる坂本龍一の肖像画が飾られていたことは有名だ。きっかけがひとつあれば、この時期に何かが起きていたのかもしれない。
また、ボウイは2000年代初めにニューヨークで毎年行われていたチベットを支援するチャリティコンサートに3回出演している(2001〜2003年)。ルー・リードやローリー・アンダーソンと共演もしているが、このステージにダライ・ラマを敬愛し、面識もある坂本がボウイとともに立っていたとしてもなんの不思議もない。
そうした本格的なコラボレーションでなくても、ダウンタウンのお気に入りのレストランをたまたま同じ日、同じ時間に訪れていたら? 歴史のIFを想像するのは楽しくも悲しい。
2016年1月10日にボウイが死去した翌日、坂本龍一は映画『レヴェナント:蘇えりし者』の音楽がノミネートされていた『ゴールデングローブ賞』の授賞式に出席するためロサンゼルスにいた。坂本は会場に向かう車の中から、かつてボウイが出演したこともある同地の名門ライブハウスのロキシーに掲げられたボウイへの弔辞を目にして、思わず写真に撮っている(『評伝デヴィッド・ボウイ 日本に降り立った異星人』掲載)。
そろそろふたりでの2回目のセッションが遠いどこかで行われている頃だろうか。
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