The 1975は今、バンドとして最高の状態にある 極上の音楽と親密なコミュニケーションで魅了した来日公演初日

 The 1975のキャリアを振り返るうえで、日本とそのファンは特別な存在である。そう言ってしまってもさほど大袈裟ではないだろう。今から10年前の2013年に『The 1975』でデビューし、同年8月には『SUMMER SONIC 2013』に出演。翌年2月の来日公演は東京・大阪ともにソールドアウトした。それ以降も作品をリリースするたびに人気と実力を高め、2010年代を代表するロックバンドとしての地位を獲得。しかし、パンデミック下でのリリースとなった4作目『Notes on a Conditional Form(邦題:仮定形に関する注釈)』の後、彼らは長い空白期間に突入する。そして2年半ぶりの表舞台の場として選んだのが昨年『SUMMER SONIC 2022』でのヘッドライナーとしての出演だ。それから約半年後となるワールドツアー『At Their Very Best』の来日公演初日(4月24日/東京ガーデンシアター)は、その名の通りThe 1975がバンドとして最高の状態にあることが示されたステージだったと言えるだろう。

 東京ガーデンシアターにて、ライブは定刻通りスタート。ステージの巨大なスクリーンには、駐車場と思われる場所でマシュー・ヒーリーが一人踊っているモノクロの映像が、エルヴィス・プレスリーの「Love Me Tender」とともに流れる。映像がステージ上を映すカメラの視点に切り替わり、マシューがステージの袖から姿を現す。「ロックスター参上!」というよりは、ひょっこり顔を出したような控え目な登場であった。フロアから大きな歓声と拍手が上がる。自ら運んできた椅子に腰を掛け、赤いフェンダーのストラトキャスターで「Oh Caroline」と「I Couldn’t Be More in Love」をブルージーに演奏する。その姿はスクリーンにモノクロで映し出され、マシューの表情が後ろの方からでもハッキリと確認できる。立ち上がった彼は次いで罪悪感をテーマにした楽曲「Be My Mistake」を弾き語り、バンドメンバーが続々と入場する。

 今回はオリジナルの4人に加え、サックス(John Waugh)、パーカッション(GABI KING)、ピアノ(Jamie Squire)、ギター/ボーカル(Polly Money)というサポートメンバーを合わせた8人体制であった。スタッフがマシューの足元にカーペットを敷き、ロッキンチェアーや観葉植物、フロアライトを配置していく。最終的にマシューの周囲だけが部屋のようになった。曲が終わると暗転し、フロアライトにスイッチを入れると、その常夜灯だけが会場の唯一の光源となる。その直後、性急な「Looking for Somebody (to Love)」のイントロが流れ、The 1975としてのショーが始まった。一気に火のついた会場の勢いに乗るようにして演奏されたのは、最新作からのリードシングル「Happiness」である。ロス・マクドナルドの弾くベースの低音は、音源で聴くよりも身体に重く響く。アダム・ハンは全身でギターソロを弾き、サックスのソロパートは大歓声を巻き起こす。マシューはお猪口に注いだ酒を飲みながら踊っている。ライブに来たのだという実感が湧いてくる。曲中、観客が4バース目で〈Oh-oh〉と陽気に歌うと、彼は嬉しそうに声を上げて笑った。

 この日のマシューは終始コミュニケーションを積極的に取っていた。例えば、韓国から来たというファンが掲げるメッセージを読み上げて質問したり、別のファンには自分が使っていたスキットルをあげたり、可能な限り“個人”とコミュニケーションを取ろうとする場面が何度も見られた。これはサービスであるという以上に、成熟と余裕の表れでもあるのではないかと感じた。

 もちろんその余裕はパフォーマンスにも表れていた。例えば、シンセが唸りを上げることで一気にディープな雰囲気を作り出す「Fallingforyou」は、内容もサウンドもシリアスだが、マシューはお猪口を片手にステージを歩き回りながら歌い、ファンと触れ合ってさえいた。また初期の作品でいうと、イントロを弾きながら期待値を高め、「久しぶりにこの曲やるよ」という掛け声の後に披露した代表曲「Chocolate」もあげられる。瑞々しさのある演奏だが、当時のヒリヒリしたムードよりも、それを演じているような余裕さえ感じさせる。ボーカリストとしての安定感が半端ではないのだ。同じように少しずつリフを「チラ見せ」してから披露された「I'm in Love With You」の盛り上がりも凄まじかった。全体的に音源の再現性が極めて高いステージだったが、ライブ体験として各楽曲の良さが効果的に伝わるように構成されている印象だ。各年代の楽曲を織り交ぜたセットリストを振り返りながら、最新作『Being Funny in a Foreign Language(邦題:外国語での言葉遊び)』は「バンドとは何か?」というテーマと改めて向き合った作品であったことを思い出した。バンドとしての原点に立ち返るというのは、これまでの最高の瞬間をライブで更新し続けることなのかもしれない。

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