市川由紀乃、新曲「花わずらい」で目指した演歌の新しい形 これからの理想の歌手像も語る

市川由紀乃、演歌の新しい形

今年のテーマは「面白おかしい1年にすること」

ーーもう1曲の「名前」は、メランコリックで洋な感じのサウンドです。名前を呼ばれるというのは、特別なことですね。

市川:やっぱり愛しい人には、名前で呼ばれたいですよね、それも呼び捨てで。名前で呼ばれるのは、とても特別な感じがします。その人との近しい距離感が表れるというか。私もこの仕事をしていると「市川さん」や「由紀乃さん」「由紀乃ちゃん」と呼ばれることはあっても、「由紀乃!」と呼び捨てで呼んでくれる方は本当にわずかです。ましてや自分の本名を呼び捨てで呼んでくれるのは、自分の親くらいですから。女性なら誰でも、名前で呼ばれたい願望があると思います。そんな心情をも表した1曲です。

ーーこの歌詞も「花わずらい」と同じく、表裏一体の気持ちが表現されているように感じました。

市川:この曲も松井五郎先生の作詞です。冒頭で〈帰してください気持ちがないなら〉と歌っているのですが、本当は名前で呼んでほしいんですよ。しかも〈好きだと言わずに いられるわけがない〉と、とても遠回しな言い方をしていて、このフレーズから好きで好きでたまらないのだということを感じます。大好きだからこそストレートには言えず、こういう遠回しな言い方でしか気持ちを伝えることのできない主人公像が見えてきます。

ーーポップス調の楽曲ですが、こういうサウンドと曲調を歌われていかがでしたか?

市川:ステージでポップスのカバーを歌わせていただくことはありましたけど、オリジナル曲でこういう曲調はなかったのでとても新鮮でした。昨年自分の舞台でシャンソンの曲をいくつか歌ったのですが、シャンソンはメロディはあるけれど、自分のタイミングでボソボソと話すようなイメージで歌うんですね。そういう曲もオリジナルでほしいと思っていて、そんな時に幸先生から「カップリング曲は“音頭もの”と“オシャレな歌謡曲”のどっちがいいか?」と聞かれ、迷わず「オシャレな歌謡曲のほうでお願いします!」と返答して、できたのがこの曲です。実際に歌うととてもイメージが広がる曲で、「いつかピアノ1本で歌ってみたいな」と思いましたし、着物姿だけじゃなく洋装やラフな格好で歌っても合いそうだなと思いました。

ーー最後サビで〈名前を呼んでいいですか〉と歌っているところが、優しく語りかけるような雰囲気で素敵だと思いました。

市川:いつも事前に幸先生がレッスンをしてくださるのですが、この曲に関しては「優しい女性で歌ってほしい」と。声から優しい女性像が伝わってくるように、そういう気持ちで歌っています。

ーーちなみに「花わずらい」と「名前」の女性像は、似ているのかなと思ったのですが?

市川:そうですね。私の中では同じ人で、「花わずらい」のアンサーソングが「名前」のようなイメージを持っています。2曲がつながっているような、気がしてならないというか。そこは松井先生に確認しているわけではないのですが、もしかするとそういう意図で作られた2曲なのではないかと思っています。聴いた方によってもいろいろな解釈があると思うので、そこはあえて松井先生には聞かないようにしようと思いますけど(笑)。

ーー今年は30周年ということですが、振り返って一番大きかったできごとは何ですか?

市川:2019年に初めて大阪で座長公演が開催できたことです。歌手になって叶えたい夢はいくつかあり、一つが『紅白歌合戦』に出場すること、もう一つが座長公演を開催することでした。その夢が両方叶えられた時は、とても嬉しかったです。

ーー公演の時の楽屋のれんは、先輩に作っていただくんですよね。

市川:はい。それが習わしで、初めて舞台のお仕事をした時に、私は伍代夏子さんに作っていただいて、座長公演の時もそののれんをかけさせていただきました。大阪では公演中、出演者の名前が入ったのぼり旗が立つのですが、それを観た時は思わず泣いてしまいましたね。「ここまでいろいろあったけど、ようやく夢が叶えられたな」という実感がありました。のぼり旗の写真や自撮り写真をたくさん撮ってブログにあげて、母親も観に来てくれたので、母親とも一緒に撮りました。親孝行ができたと思ったし、ファンの皆さんに対しても何か一つご恩返しができたなと思った瞬間です。もちろんその舞台に連れて来てくださったのは、応援してくださった皆さんですけど、目に見える感謝というものをできるのがこのお仕事なので、この時はとても嬉しかったです。

ーー『紅白歌合戦』も2016年と2017年に叶いました。

市川:はい。最初が40歳の時で、その時は涙との戦いで、座長公演の時のように自撮り写真を撮っている余裕はあまりありませんでした。その場にいられることが感動でしたし、演歌チームじゃないですけど諸先輩方が「絶対に泣くんじゃない」と、歌う前に背中を押してくださって。「歌い終わったらいくらでも泣いていい、だけど歌はしっかり歌いなさい。泣いて歌えなくなったら一生後悔するから」と。それで無事に歌い終え、舞台袖に引っ込んだ瞬間からブワ~ッと。

ーー2回目の時は、少しは違いましたか? 慣れるというか。

市川:いえ、慣れるということは全くありませんでした。2回目の時は美空ひばりさんの「人生一路」という曲をカバーさせていただいたのですが、自分の曲を歌うこと以上の責任を感じましたし、ひばりさんとその楽曲の偉大さを分かっているからこそ、そのプレッシャーが重くのしかかりました。

ーー大役だったわけですね。

市川:貴重な経験をさせていただきました。

ーー現在は11月まで開催される『市川由紀乃30周年コンサート ソノサキノユキノ』という公演の真っ最中です。『紅白』と座長公演という夢を叶えた、ソノサキで叶えたい今の夢は何ですか?

市川:私は面白いことが大好きで、今年のテーマが「面白おかしい1年にすること」なんです。お客様に感動してもらって涙を流してもらうことはもちろん、お客様にいっぱい笑ってもらいたいという思いが強くあります。「笑う門には福来たる」と言うように、口角を上げていればいっぱいいいことがあるような気がしていて。もちろん歌はマジメに表現しながらも、その合間には「こんなこともやるの!?」という面白おかしいことをマジメにやっていきたいです。例えば昨年は吉本新喜劇の皆さんとコラボをさせていただいたのですが、コケたりボケたりすることも大好きなので、歌はマジメに、お芝居はめちゃめちゃ三枚目に。でも素の自分が近いのは絶対に三枚目のほうなので、そこをお客様に観ていただいて、「面白いわね、この歌手は」とか「この人に会いに行けば、いっぱい笑える」など、そんな風に思っていただけるように頑張りたいです。ひとつの舞台で、歌とお芝居は全く別の人がやっているんじゃないかと思っていただけるくらい、ギャップがあればあるほど楽しい気がしています。

ーー楽屋や舞台裏でも、周りをいっぱい笑わせているのでしょうね。

市川:モノマネをやったりしていますね(笑)。この人の声はできるかもと思ったら、家で練習したりしています。時々小出しにしているのですが、クレヨンしんちゃんとか、『サザエさん』(フジテレビ系列)のカツオくんとか、『鬼滅の刃』の胡蝶しのぶさんとか(笑)。まずは本当に身近なスタッフに聞いてもらって、「似てるね!」と言われたら舞台でやったりします。今は『市川由紀乃30周年コンサート ソノサキノユキノ』を開催しているのですが、ツアーグッズを紹介するコーナーの時にいろんな声のモノマネを披露していて、例えば通信販売の「夢グループ」の社長のモノマネとか(笑)、皆さんが「ああ~!」って言うような人。私が着替えて出てくるまでの間さえも、皆さんに笑っていただきたいと思っていて。それも「面白おかしく」というテーマがあればこそです。

ーーソノサキノユキノは、どこに向かっているのでしょうか。

市川:「会いたくなる歌手!」でしょうか。会いたいと思ってそれを行動に移すことは、とてもエネルギーのいることです。その人に会いたい、その人の歌が聴きたい、ブログやInstagramなどを見て、今日は何を話してくれるのだろう? と期待してくれる。そんな風に思っていただける歌手になることが夢です。毎日何か違う情報を提供できて、舞台でもその時によって全く違うことを皆さんに伝えられるような、そんな歌手になれたら嬉しいです。演歌界は諸先輩方が王道の道を築いてくださっているので、その道を歩きながらも、自分らしさというか、「こういう歌手もいる」と認知していただけるような活動ができたらと思っています。

ーーちなみに、お笑いはどういうきっかけで好きになったのですか?

市川:母親の夢が、漫才師になることだったんです。人を笑わせることが大好きな人で、一緒に暮らしているのですが、一日中ずっとしゃべっていますし、どこかから音楽が流れてくると踊り始めて、ご飯を作りながらいつも歌っていて。そんな母親に育てられたので、子供の頃から『笑点』(日本テレビ系列)や『吉本新喜劇』(毎日放送)などのお笑い番組が大好きでした。要は、環境によるものが大きいということです。常に明るい家庭でしたので、ステージも私らしく常に明るくありたいです。

ーーお笑いで好きな芸人さんはいますか?

市川:『吉本新喜劇』の皆さん、シソンヌさん、男性ブランコさんです。もともと眼鏡男子が好きで、ネタの角度が他の誰ともかぶらないところや、ネタの時に美しい日本語を話されるところが好きで。今まで忘れかけていたような言葉をチョイスされて、「その言葉をここで使うのか!」とネタを観るたびに目からうろこです。「生であのネタが観たい!」と思って、完全プライベートで京都まで観に行ったことがあるほどです! 休日の朝早くに目が覚めた日は、京都と大阪で『吉本新喜劇』をハシゴして日帰りしたり。そんなしょっちゅうではありませんけど、頑張った日が続いた時のご褒美としてそんな休日を楽しんで、翌日からまた仕事を頑張ることができています。だから自分のステージを観てくださる方にも、そういう気持ちになっていただけたら嬉しいです。

■リリース情報
『花わずらい』
発売:2023年4月26日(水)
価格:¥1,400(税込)

オフィシャルサイト
https://ichikawayukino.com/

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