矢吹奈子、アイドル人生の集大成として“HKT48の未来”に託した想い 指原莉乃、村重杏奈らも駆けつけた卒業コンサート

 3437日。それは2013年8月に小学6年生、12歳でHKT48に加入した矢吹奈子が、約10年間のアイドル人生に幕を閉じるまでの日数だ。

 早くからシングルの選抜入りを果たし、表題曲のセンター、悲願だった選抜総選挙での選抜入り、さらにはIZ*ONEでのグローバルな活動を2年半経験してきた輝かしい軌跡を振り返ると、彼女はいつも野心に満ちていたのだと強く実感する。3月29日に矢吹が初パーソナリティを務めた『レコメン!』(文化放送)にゲストで出演した指原莉乃は「クールだけど野心家」と話し、秋元康は矢吹にとってのラストシングルに『君はもっとできる』というタイトルをつけた。4月1日にパシフィコ横浜 国立大ホールで開催された『矢吹奈子 卒業コンサート〜未来への翼〜』もまた、ここが彼女にとってのゴールではなくスタートなのだと感じさせる内容だった。

 IZ*ONEでの専任を終え、HKT48としての活動が再びスタートした2021年5月。指原をはじめ、兒玉遥や朝長美桜など、グループの顔として先頭に立ってきたメンバーが続々と卒業していた一方で、運上弘菜や地頭江音々、豊永阿紀といった4期生やドラフト3期生、矢吹が韓国に渡ったのと入れ替わるようにしてHKT48に入ってきた5期生といった後輩メンバーが頼もしく成長していた。さらに2022年5月に加入してきた6期生。『君はもっとできる』で初選抜入りを果たし、矢吹から「0(ゼロ)=センターポジション」を継承した最上奈那華を筆頭とした6期生メンバーにも、10月の卒業発表以降の半年間で「未来への継承」をテーマに意志が継がれてきた。卒業コンサート同日の昼公演が『私たちの現在地』というタイトルだったこともあり、その夜公演となった『未来への翼』は、始まりの3曲こそ「君はもっとできる」「ビーサンはなぜなくなるのか?」「突然 Do love me!」といった矢吹が韓国から帰国して以降のセンター曲であるが、4曲目の「ウインクは3回」からはまさに加入からの約10年間の軌跡を辿っていくようなセットリストだ。

 終演後に開かれた記者会見で、ずっと前からアイドル人生はHKT48で終わりたいと決めていたと話す矢吹。IZ*ONEとHKT48は別のグループであり、それぞれの良さがあるからこそ、今回の卒業コンサートは自身が大好きで憧れだったAKB48グループの楽曲のみで構成されている(ももいろクローバーZ「行くぜっ!怪盗少女」、乃木坂46「君の名は希望」はHKT48として披露したことのある楽曲)。後述するサプライズゲストの登場が本編後半からだと考えると、前半は現メンバーとのユニットが色濃く演出されたブロックでもある。

 6期生が1年前のオーディション合宿審査で練習していた「Make noise」という選曲、矢吹の歌唱力を知らしめた楽曲であり、“AKB48クラシック”とも言うべき「月と水鏡」のピアノ演奏には梁瀬鈴雅が、その流れから「生意気リップス」までの“なこみく”寸劇を安井妃奈と猪原絆愛の6期生メンバーが担っていた。HKT48の中でも憧れのメンバーに名前が挙がることの多かった矢吹。卒業という晴れの舞台であるからこそ、後輩メンバーにもしっかりとスポットライトを当てる。そのことが“未来への継承”であり、“未来への翼”でもあるのだというメッセージに受け取れた。

 田中美久との“なこみく”コンビでの「生意気リップス」「友達でいられるなら」は多くのファンの胸を打つ感涙ポイントだったのではないだろうか。3期生の同期であり、「桜、みんなで食べた」で揃って初選抜入り、2018年の選抜総選挙では田中が10位、矢吹が9位と常に“なこみく”として比べられることの多かった2人。この10年の間にはきっと仲の良い時期だけではない、2人しか知り得ない距離感があったのだと想像できる。それでもライバルという存在がいたからこそ、ここまで頑張ることができたと語る矢吹。感情が込み上げ歌えなくなるほどに涙していた田中にもまた様々な葛藤があったと思うが、固く握られた2人の手がおばあちゃんになっても“なこみく”の関係性は続いていくことを約束している。「早送りカレンダー」でカメラからフレームアウトした2人がステージの上で笑いながら抱き合っているのを見て微笑ましい気持ちにもなった。

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