HoneyWorksならではの楽曲制作の工夫 Gom・shito・ヤマコが語る、J-POPシーンへの広がり

 Gom、shito、ヤマコを中心に様々なクリエイターと協業しながら物語性の高い作品を作り続けてきたクリエイターユニット・HoneyWorks。彼らの最新アルバム『ねぇ、好きって痛いよ。〜告白実行委員会キャラクターソング集〜』が3月15日にリリースされた。

 今回のアルバムには、TVアニメ『ヒロインたるもの!〜嫌われヒロインと内緒のお仕事〜』(TOKYO MXほか)のEDテーマ「東京サニーパーティー」や、涼海ひよりの「ヒロインは平均以下。」、ちゅーたんの「可愛くてごめん」や「同担☆拒否」、「セッション」シリーズの完結編「東京スプリングセッション」、高見沢アリサの「男の子の目的は何?」や柴崎健の「女の子の愛って何?」、明智咲の「元生徒」など、シリーズが続く中で広がってきた様々なキャラクターによる楽曲を収録。HoneyWorksらしいポップなバンドサウンドを基調にしながらも、EDMやトラップを筆頭にエッジの効いた音楽要素が楽曲ごとにブレンドされており、音楽的な工夫とキャッチーさとが絶妙に同居した作品になっている。

 収録曲「可愛くてごめん」がTikTokを中心に大ヒット曲していることも記憶に新しい3人に、HoneyWorksの曲づくりに込められている様々な工夫や、最新作の制作過程について聞いた。(杉山仁)

曲づくりに生かされる「この子たちに幸せになってほしい」という感覚

――前作『好きすぎてやばい。〜告白実行委員会キャラクターソング集』がリリースされたのはHoneyWorksが結成10周年を迎えた2020年のことでした。それ以降の活動で、特に思い出に残っているのはどんなことですか?

shito:自分としては、『ヒロインたるもの!〜嫌われヒロインと内緒のお仕事〜』のTVアニメ化が印象的でした。アニメ化は自分たちが目標としていることのひとつですし、たくさんの方に知ってもらえて、ファンの方にも喜んでいただけたのが嬉しかったです。

ヤマコ:『ヒロインたるもの!』は今までハニワ(HoneyWorks)のことを知らなかったアニメ好きの男性層にも「作品が面白い」と言っていただけて、そこから「これって元は曲なんだ?」とHoneyWorksにたどりついてくれる方もいるので、すごくいい機会になりました。小学生の子が小説をジャケ買いしてくれることも多いそうで、本当にファン層が広がっているな、と感じます。

Gom:『ヒロインたるもの!』は(涼海)ひよりを中心に周囲の関係性を描きながらも、瀬戸口雛が出てきたり、ダンスボーカルユニット・Full Throttle4が出てきたりと、色々な方に楽しんでもらえるような作品になっていて。これは歴史がないとできないと思うので、改めて嬉しかったですね。

shito:あと、個人的にはLIP×LIPが(自身が青春時代を過ごした)島根県の出雲観光大使に選ばれたことも嬉しかったです。自分の場合、HoneyWorksの生放送でも「島根県の観光大使になりたい」と言っていたので、それをLIP×LIPが叶えてくれました。……ある意味では、取られたという感じでもあるんですけど(笑)。

ヤマコ:もともとshitoがなりたい、と言っていたんですよね。それで、結局LIP×LIPに取られてしまったという(笑)。

shito:僕の分も彼らが頑張ってくれるとすごく嬉しいです。

ヤマコ:他に、10周年を越えてからというと……。

Gom;2021年末の中野サンプラザホールでの『LAWSON presents HoneyWorks Premium Live 2021〜ハニフェス〜』は、サポートボーカリストや声優さんのゲスト参加、バーチャルライブなどでHoneyWorksの活動の幅広さも楽しんでもらえたと思いますし、声優さんたちが思い出を語るたびに僕もホロッときたりして、それもすごく印象に残っていますね。

ヤマコ:活動を始めた頃に、ボイスコミックをつくったりミニアニメーションをつくったりする中で「私たち自身が好きな、憧れの声優さんたちにオファーをする」ということから始まっていて。でも、最近は声優さんがハニワの作品をもともと知ってくださっていたり、「もともとファンでした」と言ってくださることがすごく増えているんです。私ももともと声優さんのファンなので、それがすごく嬉しいです。そもそも、HoneyWorksの活動って、最初は「よくわからないもの」だったと思うんですよ。おおもとに歌があって、漫画でもないアニメでもない「これは何なんだ?」というものだったと思うので。でも、それが次第に声優さんにも認知されていって、「曲を歌えることが嬉しい」と言ってもらえるようになったのは、ずっと活動を続けてきたからこそだな、と思っています。

――最近はアイドルシリーズの楽曲が増えたことで、アイドルや歌い手、VTuberの方々がみなさんの曲を自分のファンに向けて歌う機会もすごく増えているように感じます。

Gom:今って結構ファンとの距離が近いと思うので、そこを切り取って歌詞にしたりしていることが共感してもらえている理由なのかな、と思っています。僕ら自身も活動者であるからこそ「みんなこういう曲が好きそうだよな」と考えて楽曲をつくることもあります。

ヤマコ:活動者の気持ちをストレートに歌に乗せているからこそ、歌ってくれる人たちも共感してくれているのかもしれないですね。それに、アイドルが感謝を伝えた後に、ファン視点の曲が出るというのもハニワの特殊なところで、アイドルとしての気持ちも、ファンとしての気持ちもセットに楽しめる部分もあると思っています。

――最近は「可愛くてごめん」がTikTokなどをきっかけに広がっていて、この楽曲を使った動画も毎日のように上がっている状況です。このヒットについてはどんなふうに感じていますか?

shito:単純に嬉しいですし、やっぱり、自分たちは二次創作の文化から入ってきたので、流行っていることが嬉しいというよりも、「二次創作をしてもらっている」ことが嬉しいです。色々な人がこの曲を使って踊ってくれたり、歌ってくれたり、メイクをしてくれたりしていて、それぞれに遊び心を詰め込んで使ってくれているのを観るのは嬉しいです。

Gom:同級生や親戚からLINEが来たり、甥っ子が踊っているのを見たりすると「広がっているんだな」と実感したりしますね。

ヤマコ:私はもう、毎日動画を目にするので、逆に他人事のように感じてきました(笑)。でも、メイク動画だったり踊ってみただったりと、色々な動画を上げてくれているのは、曲から何かを感じて「ここから何かをつくりたい」と感じてくれたということだと思っていて。「それってすごいことだな」と思いながら観ていますね。

――Stray KidsやNiziU、TWICEといったK-POP系グループやアイドルグループの方々、昨年の同人アルバムにも参加していた湊あくあさんや星川サラさんのようなVTuberの方々まで、カバー曲ひとつを取っても話題になっている範囲がとても広いですね。

ヤマコ:男性も結構使ってくださっているんですよね。ジャニーズのみなさんも踊ってくれていましたし。

shito:ネットってすごいな、と改めて思いますね。

可愛くてごめん feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)/HoneyWorks

――HoneyWorksさんの場合、楽曲の中でキャラクターたちが成長していって、その成長から刺激を受けて新しい楽曲が生まれるという部分もあると思うのですが、このあたりについてはいかがですか?

ヤマコ:曲をつくった後に、ファンのみなさんの反応を受けて新しいアイデアが生まれたりもしますし、声優さんに歌っていただいたことでキャラクター像が深まって、「このキャラだったらこんな行動をしそうだな」と思いつくことも多いです。私自身、声優さんに声を入れていただいたときに、「このキャラクターならこういうポーズをするだろう」と固まったりするので、本当に曲やキャラクターと一緒に成長していくコンテンツだと思います。

Gom:それこそ、『告白実行委員会』の最初の曲「初恋の絵本」で明確に告白実行委員会のキャラクターが出てきて、最初は切ない、道が分かれていくような曲だったはずなのに、メンバーが「この子たちに幸せになってほしい」と言い始めて、それが「Re:初恋の絵本」に繋がったりもしていて……。

Gom:そんなふうに、僕らの中でキャラ愛が強くなって、「よりこの物語をつなげていきたい」「もっとこの子達の人生や未来を描いていきたい」という気持ちが出てきてたことでつながっていったものが、すごくあると思います。

shito:自分の場合はですけど、HoneyWorksの楽曲制作って「曲をつくる」という感覚とは少し違っていて、色々な要素が詰まったひとつの作品をみんなでつくっていく感覚があったりします。「これって一体何なんだろう?」と思ったりもしますけど、その都度面白いものをつくることを目指して、キャラクターにも影響を受けながら楽しくやっています。

――みなさんはどんなものからインスピレーションを受けることが多いんでしょう?

Gom:僕の場合は、最近だとSNSに影響を受けることが多いです。たとえば、SNSで見る文章って、使う言葉も含めて、時代によってちょっとずつ変わっていると思うんですよ。そういうものからインスピレーションを受けることはありますね。

shito:僕も、たとえばニュースのコメントとかから影響を受けることがあったりします。あとは、ブログとか。SNSで今の子達がどんなことを考えているのかを見ています。

ヤマコ:私の場合、一番悩んだのは、LIP×LIPやFull Throttle4のようなアイドルたちを描くことでした。私自身は今までアイドルファンになったことがなかったので、「追っかけてもらえるアイドル」を描くにはどうしたらいいんだろう、とゼロから考えることになったんです。それで、「まずは自分がファンにならないと」と思って、Full Throttle4だったらゴリゴリのかっこいいダンスのパフォーマンスをするアーティストの方を色々と観ながら「こういうところがかっこいいんだな」といろんなことを考えていきました。

――アイドルの良さをヤマコさん自身が体験したんですね。

ヤマコ:「どういう表情をしていたらかっこいいんだろう?」とか「こういうところが推したくなる可愛さなんだな」とか、本当にゼロから色々と考えていくような経験でした。

――他のアーティストの楽曲も、日頃から色々と聴いていますか?

Gom:今って1曲聴くとオススメ機能などで無限に曲が出てくるので、僕はプレイリストを使ったりしながらいろんな曲を聴いています。自然と情報過多になれる時代ということもあって、そこから自分が何をどう切り取っていくかを考えている気がしますね。あえてLINE MUSICで若い子たちの間で流行っている曲をチェックしたりもしています。

shito:僕も、LINE MUSICもそうですし、TikTokで流行っている曲を調べてフル尺で聴いたりもしています。やっぱり、流行るには絶対に理由があると思っているので、「この曲のどういうところが受けたんだろう?」ということが分からないとダメだと思っているので。

――「可愛くてごめん」にも、そういった経験が活かされているんでしょうか?

shito:そうですね。もちろん、僕らの場合は「キャラクターのための曲をつくる」ことが第一ですけど、同時にTikTokのような場所で流行っている音楽の要素を狙って取り入れている部分もあります。流行り曲の法則じゃないですけど、今ってめちゃくちゃ繰り返していたり、言葉がわかりやすかったりするものが受けていると思っていて。「可愛くてごめん」が小学生にまで広がってくれているのも、〈Chu!〉という歌詞の響きの良さや、〈可愛い〉と〈ごめん〉という誰でも聞いたことがあるけれどアンバランスさが感じられる歌詞の組み合わせがフックになっているのかな、と思います。一見「何で『ごめん』なの?」と思える歌詞をフックにしつつ、言葉を繰り返して、心地良いテンポを考えていきました。

――裏拍で入るスカっぽいギターも心地良いですね。他に工夫した部分はありますか?

shito:ピアノの右手の音にグロッケンを重ねてよりきらきらとした雰囲気にするとか、スカのリズムにところどころ16分のビートを入れて疾走感を出すとか、曲が単調になって飽きてしまわないような工夫もしています。同じBPMが続く曲の中でも、パートによって疾走感があったり、落ちたりする場所があるような抑揚のつけ方を考えました。

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