丁、ミニハープを弾き語る新たな才能 SNSから新風を吹き込む比類なき音楽性
丁(読み:てい)というシンガーソングライターをご存知だろうか?
丁はミニハープをはじめ、ギター、バイオリン、ピアノといった様々な楽器を弾きこなすマルチプレイヤー。オリジナル、カバーを問わず多くの楽曲を投稿し、その中性的で透明感のある歌声と、ミニハープが奏でる美しく繊細な音色が織りなす独特の音楽性に注目が集まっている。主にSNS上で活動し、現在TikTokは22万、Instagramは12万、YouTubeは1.5万のフォロワーを獲得。特に映画『すずめの戸締まり』の主題歌「すずめ」のカバー動画の再生回数はYouTubeで21万回、Instagramで330万回、TikTokでは420万回を超え、その魅力にハマる人が続出しているのだ。
丁の魅力は、まずその歌声の美しさであろう。透き通るような丁のボーカルは、中域では聴き手を優しく包み込むように、高音では綺麗に高く突き抜けるように歌う。特に高音域では爽快感があり、時おり繰り出されるファルセットに心を掴まれる。また丁は年齢や性別を明かしておらず、その謎めいた中性的な声質も多くのリスナーを惹きつけている理由の一つ。女性的とも男性的ともとれる柔らかくも凛とした歌声が心地よい。
もちろん楽器のテクニックも見逃せない点だ。YouTubeではミニハープにとどまらず、ギターやピアノの弾き語りも公開している。さらに女王蜂の「火炎」のカバーでは後半にバイオリンを華麗に奏でる姿も映っており、その非凡な才能の一端が見て取れる。本人曰く、とある一つの楽器を極めようとした結果、他の楽器の要領も自然と分かるようになったのだとか。
そして何より最大の魅力は、パフォーマンスする姿から漂う唯一無二の世界観であろう。繊細かつ上品な指さばきと美しい歌声が絡み合うことで、丁の歌う映像からは幻想的な空気感が感じ取れる。シルバーの髪も相まって、さながら古代の神話の世界に誘われたかのような不思議な感覚だ。
昨年12月にリリースした配信限定アルバム『羽化』は、そんな丁の魅力が存分に発揮された一枚であった。例えば1曲目の「ヒノト」は、アカペラから始まるイントロによって丁の声の美しさが純粋に味わえる。続く「白き馬」は、流麗なハープの爪弾きを軸に壮大なサウンドスケープを描くアレンジが印象深い。全編英語詞の「Paradise」は、もはやどこか架空の国の伝統音楽といったところか。一転して丁寧な日本語詞による「魔法の鍵」は、丁の紡ぎ出す言葉と神秘的な音の世界にどっぷりと浸ることができる。“羽化”というタイトリングは、まるで蛹から蝶になる瞬間のような、さらに広い世界へと羽ばたいていく姿と重なり、今後の活動の広がりを予感させる。そうしたアーティストとしての物語性と神聖なムードで満ち溢れた一作であった。