菊地成孔が語り尽くす、Q/N/Kとオーニソロジーの同時制作 ラディカルな意志のスタイルズ始動の経緯も

ラディカルな意志のスタイルズ結成の経緯

——昨年9月に活動がスタートした新バンド・ラディカルな意志のスタイルズについても聞かせてください。このバンドを結成した経緯は?

菊地:松丸契くん(A.Sax)と会ったことですね。ちょうど彼がNYから戻ってきたタイミング、2021年4月にブルーノート東京でジョン・コルトレーンの「アセンション」の再現ライブがあって。日本のフリージャズ関係者が集まってたんだけど、僕の隣が松丸くん、そのとなりが(サックス、クラリネット奏者の)梅津和時さんだったんです。松丸くんの演奏を聴いたら誰もがそうなるんだけど、「誰だ、この少年は? やばいんですけど」と。もちろんオリジナリティがあるんだけど、コロナ禍以降のNYのジャズの技法——たとえばイマニュエル・ウィルキンスの奏法、とか言っても、今のジャズファンにどれだけ響くかわからないんですがーーをトレンディに身につけていたり。

 ビックリしてたら、松丸くんから「菊地さんですよね? 僕のライブに来てください」と話しかけられたんです。僕が最初に見たのは渋谷・公園通りクラシックスのソロアクトだったんですけど、唖然としました。なので、「ライブ来てください」の返信に「君とバンドやりたいと思ってるんだけどさ」と言って始まりました。DC/PRG解散の直後ですね。メンバーも松丸くんに「どうしようか?」と相談し、ベースのYuki Atoriくん、バスクラリネットの北田学さんなどが決まり。もともとつながりがある林正樹(Pf)、秋元修(Dr)、ヴィブラフォンも必要だったから相川瞳さんにオファーして。

ーーなるほど、松丸契さんとの出会いが起点だったんですね。昨年9月に最初のライブ(『反解釈0』)、11月に2度目のライブ(『反解釈1』)が行われましたが、音源リリースの予定は?

菊地:今のところはないです。まあ、名は体を表すというか、ラディカリズムを表明しているので(笑)。曲名すらアナウンスしてないですね。アルバムを聴き、曲の内容がわかったうえでライブに来るという情報の共有をすべてはぎ取ろうと。「この曲、地味に好きなんだよね」「キラーチューン来たー」「ライブのがやっぱすげえ」みたいな状態を、起こさせない。という。消費の快感を変える一つの方法だと思っています。自作解説もしません。僕はこれまで自分の音楽について語り続けてきたし、「菊地の音楽をいちばん上手く語れるのは菊地だ」と言われたりしてきましたが、ラディカルな意志のスタイルズに関しては、自己言及は一切しないつもりです。

——DC/PRGとのつながりも感じていましたが、まったくアプローチが異なるバンドなんですね。

菊地:転換ですよね。フレッシュネスの津波というか。結局、僕が今やっていることは、最初に言ったように、ポストコロナ、ポスト夜電波、ポストTABOOレーベルなんです。男性アーティストをプロデュースするのも、自分の音楽に言及しないのも、コロナ後の僕の自然体ですし、何せ、今年は還暦になるので。自分でも信じられませんが(笑)。老いの自覚も含め、あらゆることが全部フレッシュ過ぎて(笑)。

「あの人、なんか年食ったらずっとライブやってるよね」という1年にできれば

——最後に2023年の展望を聞かせてもらえますか?

菊地:これはもう老舗というかグランクリュというか、ペペ・トルメント・アスカラールでアルバムを出すつもりです。“夜でノアールでアムールでポリリズミックでエロティック、(メンバーも)半分は男で半分は女。思いっきりドレスアップ”というのは、懐かしいコロナ前の世界の固着ですね。過去の固着が現在を塗りつぶして未来とつながっている。そういうオルケスタですよ最初から。

 それとは別に、モダンジャズのクインテットを地道にやっていて、今年も地道に活動を続けます。メンバーは僕と林正樹(Pf)、宮嶋洋輔(Gt)、秋元修(Dr)、小西佑果(Ba)。スタンダードジャズのシングス&プレイと、スキャットをソロ楽器扱いにしているクインテットで、昨年末に新宿PIT INNでライブレコーディングしました。

 あとはJAZZ DOMMUNISTERSも谷王が虎視眈々ですし(笑)、やっと3年目に入った新音楽制作工房も『岸辺露伴は動かない』をはじめとする劇伴からビート提供、書き下ろしの作曲まで、ギルドとしての活動が広がっていて。(菊地の著書)『スペインの宇宙食』が20周年ですし、1stソロアルバム『デギュスタシオン・ア・ジャズ』からも約20年、還暦で赤いちゃんちゃんこなんですが、特にフェアなどをやる予定はありません。コンテンツが多すぎると思われそうだけど、まあ、こういう時世ですから、気に入ったものを選んで、推したり引いたり(笑)していただければ、と思います。

——すごい。菊地さんにとっても新たなポイントになりそうですね。

菊地:あとはとにかく若い人と仕事がしたくて。この年齢になると普通、今まで培ってきた人脈を大切にするじゃないですか。もちろんそれは僕の宝だから、大切にしつつ、ですが、僕のことなんか知らないような人と仕事をしたい欲が強いですね。オーニソロジーの「苦い」のMVを作ってくれたFGXさんは大学生なんですけど、そういう素晴らしい若い才能は、ちゃんと探せばめちゃくちゃいるので。ライブもできるだけやろうと思ってます。ペペ・トルメント・アスカラールのツアーも予定しているし、「反解釈(ラディカルな意志のスタイルズのライブに冠される通しナンバーの名称)」も、行けたら10個ぐらい数えたいですね(笑)。Q/N/Kも自分とQNの予定さえ合えば、どこでもやれるので。地方にも行きたいし、「あの人、なんか年食ったらずっとライブやってるよね」という1年にできればなと。

——まずはオーニソロジーの『食卓』リリース記念ライブですね(2023年1月31日/代官山・晴れたら空に豆まいて)。メンバーはレコーディングと同じく、オーニソロジー、宮川純さん(Key)、小川翔さん(Gt)、守真人さん(Dr)、Yuki Atori(Ba)。 菊地さんもステージに立つそうですね。

菊地:はい。宮川さんの隣でシンセ弾いてコーラスもするから、KIRINJIで小田(朋美)さんがやっていることと同じですけど(笑)。あらゆる意味で全員に失礼か、それは(笑)。

■ライブ情報
オーニソロジー2ndアルバム「食卓」リリース記念ライブ
2023年1月31日
出演:オーニソロジー(vo,g) / 宮川純(key) / 小川翔(g) / 守真人(Dr) / Yuki Atori(E.Bass) / 菊地成孔(sax&more)
開場18:30 / 開演19:30

■リリース情報
Q/N/K
「TOLD ME」配信中

オーニソロジー
2ndアルバム『食卓』
発売中

菊地成孔公式サイト:https://www.kikuchinaruyoshi.net/

関連記事