連載「lit!」第34回:KANDYTOWN、PUNPEE、MonyHorse……ユーモアやモチーフの奥にメッセージを刻む国内ヒップホップ
MonyHorse『MONIBUM』
例えば、すっかりクラブアンセムとなった収録曲「SUSUME (feat. NENE, JP THE WAVY)」がそうであるように、MonyHorseによる『MONIBUM』は、抑圧的な現代社会の中で欲望に忠実に動くこと、その痛快さと解放感、そして刹那性を捉えていると言えるだろう。フロントマンを務めるクルー YENTOWNの人脈をはじめ、豪華なメンバーが揃った、まさに2022年の国内シーンを包括さえするような予感すらも感じさせるこの作品を、サウンド的な拡張を達成しながらも、人々の、あるいは1人のラッパーの「現代生活についてのアルバム」としたことこそがMonyHorseの鋭さかもしれない。前述の「SUSUME」、9曲目「気づけば5時」、11曲目「Put It Down (feat. Awich)」など、淡々と日々の消費生活を描写するMonyHorseのラップは、ユーモアとアイロニーに溢れながらも、所々で逆説的に、背景に横たわる社会のムードをも感じさせていること。一方で13曲目「Look Up」や15曲目「最期かも (feat. 田我流, IO)」、最終曲「愛する家族」における歌で、エモーショナルな展開を用意していることも聴き逃せない。ドライとウェットな感覚を上手く切り替えながら、現代における日常や快楽の普遍を、反動性とくだらなさも交えて描き出す一作。
Lil’ Leise But Gold & KM『喧騒幻想』
この感覚をどう形容すれば良いだろうか。少なくとも、『喧騒幻想』が作り出す、もっと言えばKMによるトラックとLil’ Leise But Goldの透き通った歌声が形成する音空間の吸引力には抗えない。シンガーLil’ Leise But Goldの1stアルバムとして、KMがフルプロデュースを手がけた本作『喧騒幻想』は、魅惑的な音とリズムに溢れた作品である。一見歌唱が大半を占める作品にも聴こえるが、例えば2曲目「One」など、Lil’ Leise But Goldのフロウ、つまりはそのラップによって全体のスリルを演出し、その誘惑をスムースなものにしているのは明白だ。まるで歌とラップを音として溶かして同一化してしまうような、そんな試みとでも言ってしまおうか。多様なサウンドやフロウの中で、孤独や愛の渇望というテーマを優しくクールに歌う、その音が生み出すグルーヴと人間性への眼差しは、冬の寒さを一瞬忘れさせるような、温かみを持って我々を包み込むかもしれない。
※1:https://realsound.jp/2022/12/post-1207211.html
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