三上ちさこ、一人ひとりと想いを重ねた感動のステージ fra-foaやソロ初期曲を辿りながら届ける“ありのままの今”

 さらに、この日は歌や演奏だけでなく、MCも大切な役割を果たしていたと思う。ライブに来る道中でペンを手売りしている人を見かけ、その一生懸命さに昔の自分を思い出した話。『Here』をレコーディングした名スタジオ GOK SOUNDが先日なくなってしまったことや、根岸とfra-foaによる当時の制作秘話。サブスク解禁に伴い、ファンから届いたメッセージをfra-foaのメンバーに共有しながら連絡を取り合い、このライブも配信でメンバーが観ているという話。仲が悪かった両親との間で、子供ながらに葛藤していたという話。そして、いろんな日々の辛いことを乗り越えて、今ここに集まれていること自体が素晴らしいんだという話など。ミュージシャンとしてだけでなく、同じ一人の人間として、人生の紆余曲折を共有するようなMCがどれも印象的だった。こうした話が曲間に丁寧に織り込まれることで、三上自身の心が解きほぐされていったように見えたし、観客としても自分事のように1曲1曲を聴けるようになることで、まるで三上と観客の心が折り重なっていく過程が見えたような気がした。

 終盤に披露された「プラスチックルームと雨の庭」は、そうやって心を通わせていく今の三上の主題歌だと言ってもいい。素直になれなくて、誰かに愛される自信のないところから歩き出しながらも、〈潰れそうな夜は 君を想う/君がここにいる事を 念よ〉と歌う姿は、目の前にいる一人ひとりのおかげでここまで来れたんだと語りかけているように思えて、絆を確かめ合うような美しい歌唱に、思わず胸が熱くなった。

 本編ラストを飾ったのは「君は笑う、そして静かに眠る。」。「たとえ死に行く人生でも、最後にたった1人でも『いてくれてありがとう』と言ってくれる人がいたら、その人生は最高に幸せだったと思います」と語ってから披露された同曲だが、もしかすると「今は半信半疑だけど、いつかそう思えたらいい」という21年前の三上の願望から書かれた曲なのかもしれない。なぜなら〈でも いつか僕の前にも/もし つかめそうな何かが見えてきた その時は/さぁ 手を伸ばして/ここで落ちてしまっても 構わない/もし君に 何か残せるなら〉と、仮定形の歌詞で締め括られているからだ。しかし、fra-foaの楽曲が20年以上も聴き手の心に残り続けてきたことを実感している今の三上にとっては、仮定ではなく“確信”の歌として歌うことができているはず。〈見つかんないんだ〉の部分を〈見つかった?〉という問いかけにして歌ってみせたのは、シンガーとして在りたい像を掴んだ三上が、がむしゃらだった20年前の自分に、そして同じように今を懸命に生きている人に向けて、芯から寄り添うように放つ優しさのメッセージの表れではないだろうか。

 アンコールでは、名曲「澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。」で再び観客と心を強く交わし合った後、最後の1曲「小さなひかり。」へ。〈声がなくても/うたえることを知った〉というフレーズが、大合唱できない世の中の空気と重なり、心と心の繋がりを示すフレーズになるというのは思いがけないことだったかもしれない。だが、時が経って、一体どんな歌詞や楽曲が聴き手の心に残っているのかわからないという意味では、この「小さなひかり。」を歌っている瞬間こそ、三上が歌い続けてきた意味そのものなのではないだろうか。と同時に、fra-foaから長く聴き続けてきた人にとっては、この20年間生きてきたことを丸ごと肯定できるような瞬間でもあっただろう。

 温かな空気に包まれたところで大団円。音楽は単なる空気の振動ではなく、心を揺さぶり、想いを重ね合わせていくものだということを証明してみせた、素晴らしい集大成のステージだった。三上と共に最高のグルーヴを届けた根岸、西川、平里も含め、この4人が来年以降どんな熱いステージを届けてくれるのか。アニバーサリーの先へと続いていく三上の活動を楽しみに待ちたい。

※1:https://realsound.jp/2022/09/post-1140441.html

■配信アーカイブ情報
三上ちさこ
『Re: Born 20+2 Anniversary Live 2nd -Final-』
販売期間:12月4日(日)19:00~12月25日(日)19:00(視聴期限23:59まで)
配信チケット:¥2,500
https://clubque.bitfan.id/events/2957

三上ちさこ 公式ホームページ

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