木村カエラ、多彩な人と惹き合いながら見つけた新境地 “未完成の美しさ”を愛せるに至った心境とは?

 デビュー20周年まで20カ月というタイミングでツアーを行った木村カエラが、フルアルバムとしては前作『いちご』から3年5カ月ぶりとなるニューアルバム『MAGNETIC』を12月14日にリリースした。“磁気”や “人を惹きつける”という意味を持つ“マグネティック”というコンセプトを冠にした通算11枚目のオリジナルアルバムでは、彼女自身が磁石となって、実に7組ものアーティストとのコラボレーションが実現している。AI、iri、笹川真生、マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)、SANABAGUN.、玉置周啓(MONO NO AWARE)、Open Reel Ensemble。ジャンルも出自も年齢も性別も異なる、なかなか1枚のアルバムでは同居しえない独特の個性を発揮するメンバーをフィーチャリングアーティストとして迎えてアルバムを制作した理由と、今のモードを木村カエラ本人に聞いた。(永堀アツオ)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

誰かと一緒にやる楽しさを見出すまで

ーーまず、3年5カ月ぶりのニューアルバムが完成した感想から聞かせてください。

木村カエラ:そんなに時が経ってたんだって思いますけど、間が空いた分、自分から素直に(音楽が)出てきた感じがして。デビューアルバムを作ってるときみたいな勢いがあって、すごく楽しかったです。

ーー多数のフィーチャリングアーティストを迎えていますが、最初からそういうアルバムにしようと思ってましたか?

木村カエラ:いや、最初は頭の中でふわふわと、バラバラに散らばったアイデアはあったんですけど、2~3曲でき上がってきた頃に、“MAGNETIC”という言葉が見えてきた感じですね。新しいアルバムを作りたいと思った時に、コラボアルバムじゃないけど、誰かと一緒にやる楽しさを出せたらいいなとは思ってて。全ての曲ではなく、自分でも何曲か作るっていうざっくりした理想があったんです。でも、自分でもどうしてコラボっていう考えが頭から離れないんだろうなとずっと思っていて。その答えを探していたときに、“MAGNETIC”という言葉に出会ったんですね。

ーー“磁石”や“磁気”、 “人を引きつける”“魅力的な”という意味がありますね。

木村カエラ:そう。ライブもなくなったりして、人と離れてた時間が多かったから、誰かと一緒に自分が本当に楽しいことをして、新しい自分の世界も見たいなと思って。それも、「みんなで騒ごうぜ!」というよりは、「自分が楽しいと思うことをしたい」っていう気持ちがすごく強かった。そんな時に出会った“MAGNETIC”には“人を引き寄せる魅力”という意味もあったから、私はきっとこれがやりたいんだなと、テーマが見えて。そのフレーズに辿り着いたら、AIちゃんとやりたい、SANABAGUN.とやりたい、iriちゃんとやりたい……って一気に進んでいって。何の躊躇もなく、自分が楽しいと思うことをまっすぐ作ることができました。

ーーそれは、前作で楽曲提供をしていたあいみょんやChara、AAAMYYYとのコラボとは違うテンションでしたか。

木村カエラ:それとはまた違った感じでしたね。今年「tvk開局50周年ソング」としてマヒトと共作した「Color Me feat.マヒトゥ・ザ・ピーポー」をリリースしたじゃないですか。フィーチャリングっていうのが、おそらく自分の中で意識がちょっと変わってきたのかな。今までも本当にいろんな人とやってきてるけど。

ーー奥田民生、石野卓球、スチャダラパー、岸田繁と様々なアーティストの方とやってきましたし、サディスティック・ミカ・バンドにフィーチャリングで参加したこともあります。

木村カエラ:うん、ずっとコラボしてきたんだけど、ちょっと意識が違いましたね。いつも「いろんな人とやりたい! 化学反応楽しい!」って言ってやってたけど、プロデュースとか楽曲提供とかじゃなく、その人自体をフィーチャリングしてるっていう感じ。人と人で一緒にやるという意味では同じだけど、自分の中ではちょっと違った気がします。

ーー2020年に「ZIG ZAG feat.BIM」で、BIMくんをフィーチャリングしたことも関係してるのかもしれないですね。振り返ってみると、ジャケットも磁石のS極とN極のように赤と青で構成されていましたし。

木村カエラ:そう。おそらく、もうそこから始まってたんだよね。しかも、15周年のときに出したアルバム『いちご』のタイミングで髪を赤にして、その直後に真っ青にしてるんですよ。ずっと赤と青をやってて。だから今回もスタッフと「赤と青の人じゃん。何か怖いね」っていう話をしたくらいで。

ーー(笑)。今回のフィーチャリング相手はどうやって決めていったんですか?

木村カエラ:もう2年ぐらい前かな。それこそコロナが世の中に流行り出したときに、漠然と、まずAIちゃんと一緒に歌いたいっていうのがずっとあったんです。

ーー交流はありました?

木村カエラ:かなり前から、ライブ会場やテレビ番組で一緒になったりはしていて。プライベートで遊ぶことはなかったんだけど、たまにメールやSNSでやり取りをしてて。なんというか、自分の中でAIちゃんって同じ人間な感じがするんですよね。ジャンルもスタイルも全然違うんだけど、同じ人間だって雰囲気がしてて。だから、会うと久しぶりな感じもしなければ、初めましての感じもいつもしない。AIちゃん自身の人柄もあるとは思うんだけど、彼女は人の幸せをいつも願ってて、私も基本的にそうだから。その2人が一緒に歌ったら、もう『ドラゴンボール』みたいに最高のハッピーが作られるんじゃないかって。今の時代にはそれぐらい超ハッピーなパワーが必要だし、私にも必要だって思ったんです。

ーー意外な共演でしたけど、ずっとやりたかったんですね。

木村カエラ:そうなの。だいぶ前に、AIちゃんのInstagramに「一緒に歌いたい」ってコメントしたことがあって。その夢が叶ったんだけど、“MAGNETIC” っていう言葉を見つけて、自分の中で思ってたことが全部繋がって。木村カエラのアルバムだけど、AIちゃんがいないと、私がやりたかった世界は表現できない。本来だったら「MAGNETIC feat.AI」という曲は、私1人で歌うべきだと思うけど、今回はそういうことはもうどうでもよかったんだよね。とにかく聴いた人が元気になる曲を作れた方が、今の私は楽しい。じゃあ、他の曲もフィーチャリングでっていう意識がすごく強くなってきて。iriちゃんもハモりで下のパートをずっと歌ってくれてるし、SANABAGUN.もラップで参加してくれたり、マヒトもコーラスを歌ってくれたりとか。やっぱり参加型という意識が今までと違うのかも。

ーーミト(クラムボン)さんによるムーンバートン系のトラックでAIさんがラップをしていて。まさに、ハッピーなバイブスが伝わってくる曲になってます。

木村カエラ:ミトさんには、コロナ禍だからみんなで一緒に歌いましょうって煽る曲ではなく、とにかく自分たちが楽しんでるのを伝えたいっていう話をして。そこからAIちゃんにラップを書いてもらって、もう「よし!」って感じ。AIちゃんはお互いをアゲていける存在で、本当に引き合って、そこから出てくるパワーや幸せがある。この曲ができたときに、本当にやりたかったことができたから超満足してて。早くみんなに聴いてほしいなって思ってます。

ーー続く「井の頭DAYS feat. SANABAGUN.」には、ビルボードツアーでも共演したSANABAGUN.を迎えてます。

木村カエラ:AIちゃんとの曲ができて、「次、誰と一緒やりたい?」ってなったときに、SANABAGUN.だと思って。ビルボードでもサポートしてもらったし、関係性があるからスムーズに話が進んだんです。私が思いついていたメロディで、うまくアレンジの方向性が見えなかったものがあったんだけど、彼らだったら絶対カッコよくしてくれると感じて。それで投げたらすごく良くなって返ってきたっていう。

ーー岩間(俊樹)さんと高岩(遼)さんのラップとボーカルもフィーチャーしています。どんなテーマを投げたんですか?

木村カエラ:今とは全然違う歌詞なんだけど、最初は「金がないのに夢はあるの、夢はあるのに金がないの、利子があるのに」みたいな、すごくふざけたデモにしてたの。

ーーそれも染みそうですけどね。

木村カエラ:あははは。それを歌い上げたら、ライブ中に笑っちゃうから。でも「若いときは本当にお金なかったよね。そういう歌にしたいんですよ」っていう話を最初の打ち合わせのときに伝えて。お金がないけど、夢に向かってがむしゃらで。すごく突っ走ってるけど、何かが足りなくて、それでも突っ走ってる、みたいな。そういう人たちを応援できる曲を作りたいって話して。それこそ歌詞にもあるように〈未完成だから美しいの〉っていう感じ。それは、今回のアルバム全体を通したテーマでもあって。

ーー最初におっしゃってた「デビューアルバムのような勢い」と通じてますね。

木村カエラ:そう。あまりこだわりすぎないっていうか、自分がいいと思ったもの、素直に出たものをそのまま落とし込もうっていう。だから、完璧じゃない、未完成であることがいいなって思ったんだよね。お金がない若者に限らず、夢を追う人もそうだし、何かに悩んでる人もそう。それこそ、今のネット社会でいろんな人と比べてしまうことが多いでしょ。そういう人たちにも響くようなものになったねって話を彼らとしました。

ーーカエラさんの高校時代の思い出も描かれてますね。

木村カエラ:まさに下北沢。高校の授業が終わったら、毎日、井の頭線に乗って下北に行ってて。スタジオに入ってデモテープを作ってた日々が、私の中では一番夢を追いかけてた“未完成”なときの気がして。そのことを思いながら、今の自分に言い聞かせながら、変わった部分と変わらないところを両方入れて書いたつもりです。

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