三上ちさこ、心を重ねるように歌う“かけがえのない慈愛の想い” 繋がりを通して豊かになったシンガーとしての可能性

「どんな人だって、愛されてきたから今ここにいる」

ーーそしてもう1つの新曲「僕の子供」についてもお聞きしたいのですが、この曲が本当に素晴らしくて。無償の愛についての歌だと思うんですけど、どういうきっかけでできた曲なんでしょうか。

三上:(NHK BS1『ワースポ×MLB』エンディングテーマを務めた縁で)2020年2月〜3月くらいに、アリゾナ州までメジャーリーグのスプリングキャンプの見学をしに行った時に書いた曲なんです。現地で「今、日本で子供たちは何してるのかな? もう寝てる時間かな?」とか思って、もともとは自分の子供に向けて書き始めたような曲だったんですけど、その後にコロナがどんどん蔓延してきて。事業が立ち行かなくなって次々と店が潰れていって、鬱になったり、来月の家賃や生活費をどうしようって言っている人のニュースが飛び込んできたり、明日のご飯が食べられなくなるような人が周りでも出てきたり。震災で原発事故が起きた時もそうでしたけど、福島で牛を飼ってた人が自殺してしまった話を思い出したりとか……そういう状況になった時、人ってシビアに自分で自分の命を終わらせてしまうことが本当にあると思うんです。

 「そういう気持ちになってる人が今どれぐらいいるんだろう」「そういう人にかけてあげられる言葉って何だろう」ってずっと考え続けていて………(目に涙を浮かべながら)その時に思ったのが、“あなたは本当に愛されてこの世に生まれてきた子供なんだよ”っていうことだったんです。お金のために生まれてきたわけじゃないし、学校でいじめられたりしてどんなに“死にたい”と思っても、“あなたは両親や周りの人たちに愛されて生まれてきた子供なんだよ”っていうことを、音楽で伝えたいなと思って書いた曲が「僕の子供」でした。レコーディングしたのはコロナ禍が一番シビアだった時期で、私自身もこの先続けられるのかなとか、いろいろ不安になってる中だったというのもあって、自分自身に言い聞かせるように書いた言葉でもあるんですけど……一人ひとりに、自分は愛されている存在なんだっていうことが届いたらいいなと思います。

ーー伝わります。まさに、“あなたがそこにいること”をただただ肯定している温かくて美しい、慈愛に満ちた1曲で。何かに迷った時に自分を取り戻せる、足元を確かめられる曲になっていますよね。一言一句すべての歌詞が素晴らしいんですけど、個人的には〈躁鬱に苛まれて/起きる意味さえ/見出せなくなっても/大丈夫/僕もそうだよ/生きているだけで、素晴らしいんだ。〉という歌詞が響いて。叱咤激励ではなくて、「私も同じだよ」とそっと声をかけることは、聴き手の絡まった心を解きほぐすような、一番の優しい言葉なんじゃないかと思いました。

三上:そう言ってもらえてすごく嬉しいです。私も叱咤激励されることではなく、ただ黙って側にいてくれることや、そっと想いを共有してくれることに優しさを感じたりするから、自分もそうありたいなと思います。もともと、“いつしか君と酒でも飲みたいな/君が連れてくる人はどんな人だろう”みたいなCメロまで書いていたんですけど、プロデューサーの保本(真吾)さんが、「子供を持っている親の歌に限定されてしまうから、ない方がいい」と言ってくださって、確かにそうだなと思ったんですよ。そういう過程もあって、“自分も誰かの子供なんだ”っていうことを思い出せる、よりいろんな状況の人に響く曲になったなと思って。保本さんもこの曲が一番好きだと言って、本当に愛情を込めてアレンジしてくれました。

ーー冒頭から鳴っているオルガンやピアノの音も美しいですけど、この曲のメッセージを伝える上で、間奏に入ってくるヨハン・パッヘルベルの「カノン」を引用したメロディが抜群に効いてると思うんです。誰もが一度は耳にしたことがあるメロディだと思いますが、これはどんなきっかけで入れたのでしょうか。

三上:自然に出てきただけだから、あまり理由はないんです。春っぽい音で、無邪気さもあるけど儚さもあるメロディで、この曲を作っている時に感覚的に出てきたものだったので。

ーー自分は、「カノン」のメロディはこの曲に絶対に必要なピースだったんだろうなと、聴いていて思ったんです。というのも、「カノン」のメロディを聴いていると、子供だった頃を自然と思い出せるんですよね。音楽の授業とか学校の思い出がフラッシュバックする、懐かしさや普遍性がある曲だからこそ、「僕の子供」にもぴったりハマったのかなって。

三上:あぁ、それだ。間違いなくそうですね!

ーーだから何の矛盾もなく、「カノン」のメロディが「僕の子供」の中で鳴っているんです。そういう感性が自然に織り込まれた楽曲は、やっぱり素晴らしいものになるんだなって感じました。

三上:最高の解釈です。美しい聴き方をしてくれてありがとうございます。今、自分と信太さん(インタビュアー)が繋がった瞬間だなって思いました。曲を聴いた人や、インタビューを読んだ人にも、そうやって想いを馳せてもらえたら嬉しいです。大人になると思い詰めちゃうし、つい忘れてしまうものだけど、どんな人だって愛されていたし、愛されてきたからこそ今ここにいるんですよね。この曲を通じて、その人の記憶と繋がれることがあったらすごく素敵だなって思います。

ーー大切なことを教えてくれるというより、思い出させてくれるような曲だなと思います。1曲目「Junction」と6曲目「HERO」では、歌うことそのものについて歌詞にしているところもありますが、三上さん自身が歌を届けることに改めて大きな意味を感じているのかなと想像しました。いかがですか。

三上:最近よく考えるのが、自分の歌って、お金を払って聴く価値があるのかなっていうことで。そこを常に意識して歌いたいなと思っているんですよね。

ーーどうしてそう思ったんでしょう?

三上:私の子供は絵を描くのが好きで、自分の絵に値段をつけて売ることも考えているみたいなんですけど、そこに私が「客観的にその絵を見て、描き手のことをよく知らなかったとしても、自分だったらその値段を払って買おうと思う?」って聞いたら、まだ早かったのか、ちょっと拗ねちゃったんです(笑)。でも、そう言ってる私自身もハッとして。絵も歌も同じなんですよね。自分が出す作品に、人がどれぐらい価値を感じてくれるのかなっていう意識を忘れちゃダメだなって勉強になりました。ただ好きだから歌うのも、それはそれでいいんですけど、やっぱり人前に立つからには「この歌を聴くと元気になれる」とか、そういう価値を感じてもらえないと意味ないなって。その都度、自分に問いかけるようにしています。

ーー人として何かを提供する時の根底にあるような考え方ですね。

三上:そうそう、きっと何をやる上でも大事なのかなって。「これを作ることで相手が本当に喜ぶのかな?」「この値段をつけることって適正なのかな?」っていう意識があると、自分も受け取った側も、お互いに幸せになれるなって思います。まあライブ本番は1人で行っちゃってるかもしれないですけどね、みんなを置いて(笑)。

ーー(笑)。でも最初の話にも繋がりますが、バンドメンバーが出すグルーヴに自然と乗っていけば、それが最高の三上さんになるんだなっていうことがわかったので、今後のライブも楽しみにしています。

三上:ありがとうございます。年末のワンマンライブもぜひ遊びに来てください!

※1:https://realsound.jp/2022/09/post-1140441.html

三上ちさこ『6 Knot』

■リリース情報
三上ちさこ『6 Knot』
2022年12月7日(水)リリース 
レーベル:SLIDE SUNSET
配信はこちら

<収録曲>
1.Junction
作詞:三上ちさこ 作曲:保本真吾
Sound Produced & Arranged By 保本真吾

2.レプリカント(絶滅危惧種)
作詞作曲:三上ちさこ
Sound Produced & Arranged By 根岸孝旨

3.僕の子供
作詞作曲:三上ちさこ
Sound Produced & Arranged By 保本真吾

4.Break Your Shell
作詞作曲:三上ちさこ
Sound Produced & Arranged By 屋敷豪太

5.Over The Pain
作詞作曲:三上ちさこ
Sound Produced & Arranged By 保本真吾

6.HERO
作詞作曲:三上ちさこ
Sound Produced & Arranged By 保本真吾

■ライブ情報
『Re:Born 20+2 Anniversary Live 2nd -Final-』
2022.12.16(金)@下北沢CLUB QUE
open 18:30start 19:00
前売:5,500+D
購入はこちら

<member>
Bass:根岸 孝旨
Guitar:西川 進
Drums:平里 修一

※配信LIVEチケットも販売中(¥2,500税別)
詳細はこちら:https://clubque.bitfan.id/events/2957
販売期間:12月4日(日)19:00~12月25(日)19:00(視聴期限23:59まで)

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