菊地成孔も賞賛するシンガーソングライター Lilla Flickaとは何者? <新音楽制作工房>と作り上げた『通過儀礼』の世界に迫る

謎のSSW Lilla Flickaとは?

<新音楽制作工房>主宰 菊地成孔コメント

 Lilla Flicka氏は私が代表を務める新音楽制作工房にアルバム1枚まるごと制作とのご依頼賜りまして、19名の構成員のうち12名が稼働する大仕事ということで、当工房最初の大口のオファーに対し、誠に感謝している次第です。

 私自身は制作に関わっておりませんので、完成した作品を聴いて驚きました。ポップミュージックとしてどの角度から見ても素晴らしいのですが、特に歌詞は特筆すべきものがあり、当工房の構成員である加藤咲希さんと書き上げた歌詞は圧巻なのでした。加藤咲希さんご自身が作詞家として優れていたことは既に知っておりまして、彼女の「花は必ず剪つて瓶裏に眺むべきもの」があまりに素晴らしかったので、現在自分のライブでもカバーさせていただいた、という経緯もあり、ビートではなく、ソングライトにも当工房が職能を持つ、という点では発見でもありました。誤解されやすいのですが、私(菊地)自身は、企画段階から製作終了まで、一切関わっていません。「新音楽制作工房」へのプロデュース、で、私が関わらないという意味でも、今回のジョブは特筆すべき発見でもありました。

 さて、Lilla Flickaの歌詞は、フェミニズムも、リベラリズムも、ダイバーシティも包摂した、非常に現代的で、ジェンダーのみならず、肉体やその経年変化(実年齢)も手放す臨界にまで至っています。しかし、「20世紀は唾棄すべき不自由で不平等な時代だが、21世紀はそれを撤廃しよう。そして自由と平等を普通に共有できる社会が素晴らしいのだ」といった、些かながらユートピアックに過ぎる理念への、パップミュージックからの回答にもなっています。21世紀は、20世紀に比べて圧倒的に自由ではありますが、自由であるが故の苦しさも存在する。そこを言語化されているように感じました。

 Lilla Flicka氏も加藤咲希も完全なバイリンガルです。つまり彼女たちの中では日本語と英語の歌詞が同時に立ち上がって、並列して頭の中に流れている。リリックというものは取扱説明書や論文とは違います。多言語国家だったらありうるかもしれませんが、日本ではそんな脳の使い方をするリリックはあまりない。もしかしたらLilla Flickaの21世紀的な感覚はそうした脳の使い方にも関係があるのかもしれません。それこそ20世紀までのバイリンガル歌手たちは、「本場風のワンランク上の英語発音」を誇る以上のことはできなかったと思います。バイリンガルはトランスジェンダーやバイセクシュアルに相当するもので、本作にはその感覚が横溢しています。

 人間がもしさまざまなパーツの組み合わせであるとするなら、Lilla Flicka氏はそのデザインが美しいと言えるでしょう。日本のSSWには、徹底的で切実なリアル派と、脳内完結のアンリアル派が極右と極左ということになるでしょう。Lilla Flicka氏は中道というよりも、両極のファインデザイン的な合成だと言えるかもしれません。SF小説的な世界観の中にリアルな性描写があったり、ジェンダーとしての女性像、少女性と、「大人」とAIの達観が近接しているような側面、国文学の斬新な引用、等々。加えて、我々に仕事を発注して、プロジェクトをビジネスとして駆動させてしまう、セルフプロデュースの行動力もあります。私と氏とは日本語でビジネストークをしましたが、日本人のあらゆる現場よりもそれはスムースで、無駄な抵抗や、音楽家にありがちな、余計な思い込みのようなものは全くありませんでした。こうしたファインデザイン性が、我が国の「女性」SSWとして、どのような市場効果を持つか、非常に興味があります。

 ただ、『通過儀礼』と題された本作ですが、既にファインデザインが完成している人物が、完成後の状態で完璧な手際で音楽を生み出している、というよりも、私はこのアルバムに収録された1曲1曲をソングライトする過程こそがLilla Flicka氏にとっての通過儀礼であって、自己治癒で、祝祭でもあるとも、同時に感じました。産みの苦しみ、初期衝動も含まれています。これを読んでいるエンドユーザーであるあなた、まったく違うデザインのあなたにとっても新しい気づきがあることを願っています。

 新音楽制作工房が集団的にプロデュースしていることは、代表の私にとっても誇るべきものがありますが、そうしたこと以前に、Lilla Flickaの『通過儀礼』は、優れた音楽が皆そうであるように、予備知識が一切なくとも、シンプルに素晴らしいアルバムです。全ての方々にお聞き頂きたいです。

■新音楽制作工房の参加メンバー12人(順不同)
写真の左上から右方向へ順に

伊藤佑輔/Keysa
seki
加藤咲希
高橋大地
川又僖矩
田島浩一郎
花守コウ
Satō
OGAWA SEIJI
DTchainsaw
djapon/ぢゃぽん
上野山純平

『通過儀礼/Initiaton』
『通過儀礼/Initiaton』

■リリース情報
Lilla Flicka & 新音楽制作工房SHIN-ON-GAK
アルバム『通過儀礼/Initiaton』
12月10日(土)発売
予約サイト:https://kogumasound.base.shop/items/69350324

■イベント情報
『“通過儀礼/Initiation” Release Party』
菊地成孔が立ち上げた音楽制作集団「新音楽制作工房」初のプロデュースワークとなるシンガーソングライター、Lilla Flicka(リッラフリッカ)。新音楽制作工房クルーとともに新作アルバム全曲披露のショーケースを開催。

【出演/ACTS】
Lilla Flicka & djapon
菊地成孔/Naruyoshi Kikuchi
Satō
seki
DTchainsaw

2022年12月10日(土)
OPEN/START 16:30
CLOSE 20:00

【Ticket】
前売/Adv ¥3,000
当日/Door ¥3,500

【会場/Venue】
AOYAMA Zero
http://aoyama-zero.com/

東京都渋谷区渋谷2-9-13
AiiA ANNEX Bid. B1F
2-9-13, Shibuya, Shibuya-ku, Tokyo
Contact: kogumasound.info@gmail.com

前売券
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02041k58vtk21.html

公式サイト
https://lillaflicka222.wixsite.com/official

Twitter
https://twitter.com/Lilla_Flicka_

Instagram
https://www.instagram.com/saki_kato_sings/

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