キタニタツヤ、『BLEACH』を経て形になった自分の本質 “王道とひねり”が両立する「スカー」に込めたもの
「ひねくれた状態のまま、みんなに知られる存在でありたい」
ーーそれにしても「永遠」の〈永遠なんていらない〉っていうフレーズは結構強いですよね。つまり「今にちゃんと向き合う」ということだと思うんですけど、ポップミュージックってどちらかというと永遠を求めがちで。
キタニ:でも永遠を望むのって悪役じゃないですか。不老不死を願うキャラって絶対に悪い人だと思うので。『BLEACH』でも、永遠を作ろうとする人がラスボスですからね。物語的な構造として、永久に同じものっていうのはみんなが心の奥でダメだと思っているものなんじゃないかなと。
ーーその「永遠ってヤバいもんじゃん」っていう感覚って、すごくアンチポップス的だと思うんですよ。タイアップもやって、聴いてくれる人と向き合うようになったとはいえ、たとえば「僕らずっと一緒だよね」みたいなことは歌わないわけじゃないですか。
キタニ:そうですね。ちょっとひねくれた感じというか、クラスみんながひとつの方に向くなかで「俺はちょっと違うと思うけどな」みたいな感覚はあるのかもしれないです。ありきたりな言い方はちょっと嫌だなっていうか、もしかしたら誤解を招くかもしれない言い方になるっていうのはいつもそうですね。ーーそのアンビバレンスが極まったのが『BIPOLAR』というアルバムだったなって僕は思うんですよね。
キタニ:確かに。言ってることが逆の曲がいっぱいある(笑)。
ーー作品としての構造もそうだし。そこの対立というか、相反するものが常に同居している状態がキタニタツヤはすごくおもしろいなと思うんです。でも「スカー」はそこを1つ棚上げにして突き抜けた感じがして。
キタニ:でも結果「永遠」のほうではひねくれていると(笑)。
ーーそうそう。だからやっぱりそのバランスで表現しているんだろうなと。結局「スカー」を作ったら「永遠」もできちゃうのがキタニタツヤなんだなってすごく思った。
キタニ:ああ、でもそれはわかりますね。
ーーそれがすごく極端な形で、今回のこの2曲には出たような気もします。
キタニ:「スカー」しか知らない状態で聴いた人が、2曲目に「永遠」が流れてきてびっくりしてほしいなとは思っていましたね。曲調的な面でもそうだし。
ーー「永遠」もアニメで使ってもらいましょう。
キタニ:なんか久保先生が、ファンクラブの日記で「キタニくんが3曲作ってくれて、どれもいい曲だからどこかで使えないかな」みたいなことをおっしゃっていて。「なんとかしてくれ!」って思いました(笑)。「そんなこと言ったらファンも期待しちゃうでしょ!」って、いちファンとして期待してしまいました。でもこれ以上は望みませんよ。だって「Rapport」まで流してもらってるんだから。しかもフルで。ここにきてまた日の目を浴びるとは、ありがたいことですよ。
ーー今回EPとしてその「Rapport」と「タナトフォビア」もひとつの作品にまとまっているわけですけど、「タナトフォビア」の〈青い空があった〉っていう最後のフレーズが「スカー」の〈青天井〉という最初の言葉につながっている感じがしますね。
キタニ:青空に対する不信感みたいなのは、ずっとありますよ。『彼は天井から見ている』みたいなアルバムも作っていますし。青く抜けた雲一つない空とか、燦々と照る太陽とか、そういうものに対する不信感みたいなのはずっとあって。なんでかわからないんですけど、歌詞で使っちゃいますね。
ーーそれは恐怖みたいな感覚とも違うんですか。
キタニ:恐怖ではない。そんなに大きな感情ではないです。何かぼやーっと「嫌」みたいな。これはもう純粋に、僕の個人的なコンプレックスだと思います。でも「青空コンプレックス」ってなんか変な地下アイドルみたいでいいな(笑)。
ーー音楽の話に結びつけると、ポップスに対する距離感だとか「大衆性」というものに対して構えちゃう感じとか、ありますよね。
キタニ:みんなが一斉に『ポケモンGO』を始めたときに、僕は1人できなかった(笑)。そういう、もうどうしようもない性根なんだなって。みんなが両手を挙げて賛美するものに対して、何か「キモっ」って思っちゃう感じとか。
ーーそんな人が、『BLEACH』っていう超巨大なエンターテインメント、ある種大衆性の極みみたいなものとガッツリ組むこと自体がめちゃくちゃおもしろいんですよ。そしてたぶんそれはキタニさん自身が望んだことでもあるのかなと。
キタニ:そうですね。このひねくれた状態のまま、みんなに知られる存在でありたいなと思いますし。『BLEACH』も王道っぽく見せかけてめちゃくちゃ暗かったりしますからね。ーー今回『BLEACH』と組んで曲を作るっていうことが続いてきたストーリーの中で、キタニさん自身に何か変化を与えた部分はありますか?
キタニ:変化は特にないかな……。でも「スカー」とは全然違う曲を作りたいなと思って、たまにパソコンをポチポチしてます。しばらくギターはいいやって(笑)。でもギターってやっぱりいい楽器だなって思いましたし、だからこそ次はちょっと封印してみるかとか思ったり。
ーーなるほど。
キタニ:でも「スカー」は、「僕の本質はこれだよ」っていうのを知ってもらういい機会になったかもしれない。今までやってなかったわりに、こういう曲がたぶん一番自分らしい気がするんです。その名刺になったというか、「言ってもキタニってもともとこれだからね」みたいな。そういうのがあったら今後やりやすくなるし、何の前触れもなくわけわかんないギターロックを作っても、この曲が免罪符になるというか。だからより何でもできるようになったなって安心感みたいなものはあるかもしれないです。何を作っても「キタニだしな」って思ってもらえるようなきっかけかもしれない、これは。
■リリース情報
キタニタツヤ『スカー』
2022年11月23日(水)発売
ダウンロード/ストリーミングはこちら
【初回生産限定盤(CD+BD、アナログJK仕様)】¥5,500税込
【通常盤(CD only)】 ¥1,980税込
<CD収録内容>
1. スカー
2. 永遠
3. タナトフォビア
4. Insel
5. Rapport
<Bly-ray収録内容(初回盤のみ)>
・『One Man Tour “BIPOLAR” Live at Zepp Haneda 2022.07.02』
-振り子の上で
-PINK
-聖者の行進
-ハイドアンドシーク
-Cinnamon
-白無垢
-Sad Girl
-人間みたいね
-クラブ・アンリアリティ
-Ghost!? (Bad Mood Junkie ver.)
-逃走劇
-トリガーハッピー
-Rapport
-タナトフォビア
-冷たい渦
-プラネテス
-ちはる
-悪魔の踊り方
・キタニタツヤを解放せよ番外編 富士急ハイランドで不安と憂鬱におはよう〜俺に幸福は似合わない〜
・TVアニメ『BLEACH 千年血戦篇』ノンクレジットオープニングムービー
・「Rapport」Music Video
・「タナトフォビア」Music Video
■ライブ情報
『LIVE IN CLUB UNREALITY Vol.2』
12月2日(金)LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
OPEN/START:17:30/18:30
チケット一般発売中(指定席:¥6,500税込)