Wienners、“日本”をコンセプトにしたツアー『春雷行脚』千秋楽 声出しOK公演で守られる秩序と誇り

 ここまで見事に物語が紡がれているが、演奏されている楽曲群はそれぞれ収録作やリリース時期が異なるのにも改めて驚く。ここで最新アルバム収録曲「SHINOBI TOP SECRET」が届けられたときには「最新アルバムにも“日本”テーマの曲があった!」とうれしくなってしまったほど。いつの間にかステージからアサミサエの姿が見えなくなり、玉屋、∴560∵、KOZOが「おい! 姫がおらぬぞ!」と慌てていると、ピンクの羽織にお色直ししたアサミサエが再登場。玉屋に「姫、お歌の時間じゃ。歌ってもらえんかのう?」と頼まれた“姫”は、最初こそ渋っていたものの、最後には「えー、いいよ!」とお許しを。そして歌い始めたのは、バンドが予定してなかった「日本中 I WANT YOU」で、メンバーを驚かせる。そんなキュートな寸劇を挟んでおきながら、仕切り直した「姫君バンケット」で貫禄の歌声を聴かせるものだから、Wiennersの“姫”にはしてやられてしまう。

 お色直しの際にアサミサエの羽織を見ながら「子供用だからちょっと小さかったね」と笑いながら話すくだりもフリだったのかと思わせるように、その後「子供の心」「ゆりかご」が選曲される。気がついたらその世界に入り込み、夢中になった帰り道には何か学びや、感動、喜びをもらっていたと気づく。Wiennersのライブは、まるで童話や絵本のようだ。そんなライブの最後は「めでたしめでたし」と言わんばかりに、「日本人としての誇り、お前らにぶちかまして帰るから、受け止めて投げ返せよ!」とバンドは「TRADITIONAL」をぶちかまし、フロアから全力で投げ返された「頑固一徹!」に笑顔を見せて本編を締めくくった。

 アンコールでは玉屋が改めて「感謝するのは、『声出しOKですよ』って言ってもこれだけこの秩序の保たれたフロア。マジでみんなが誇りです」とオーディエンスに感謝した。あえて書いておきたいが、この日の観客からは本当に“通常の会話時の声量を上回らない範囲”の声しか飛んでいなかった。メンバーが「幻みたい」と表現していたが、まさにそう。正解がないからこそ各地で混乱や分断が起こってしまう現在のエンタテインメントにおいて、「少しずつ前に進んでいきたい」という想いを全員が持っていないと作り上げられない空間だったと思う。そんな空間で「よろこびのうた」がプレイされると、会場には優しくたくましいシンガロングが広がった。

 そんな彼らは、来年2月から対バンツアー『BATTLE AND UNITY TOUR 2023』を開催する。ということで、ダブルアンコールでは「UNITY」をドロップ。小さいながらも確かな合唱と共に『春雷行脚』の幕を下ろし、そして確実な未来への一歩をさらに踏み出した。Wiennersの“行脚”は、まだまだ続く。

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