大森靖子、『超天獄』に込められたソロで楽曲を作る意義 「ニュースやトピックスにいつも踏み潰されてる感情ってなんだろう?」

 大森靖子が約2年ぶりにリリースするニューアルバム『超天獄』は、新曲11曲を4日間で録音した作品だ。録音メンバーの「四天王バンド」は、『超自由字架ツアー2022』などのツアーで強烈な即興演奏を聴かせたsugarbeans(Key)をはじめ、設楽博臣(Gt)、千ヶ崎学(Ba)、張替智広(Dr)という猛者ぞろい。その結果生まれたのは、大森がプロデュースするMETAMUSEやMAPAの楽曲とはまた異なる、大森個人が時代、J-POPシーン、そしてこの日本をまっすぐに見すえた楽曲群だ。そして、演奏にはアメリカ南部のフィーリングが全編に漂い、強烈なグルーヴに貫かれている。また新しい扉を開いた大森に話を聞いた。(宗像明将)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

「ずっとムカついていろ」って神様に言われてると思っていて(笑)

――今回の編曲も担当しているsugarbeansさんはライブでもアメリカ南部っぽいプレイを入れているし、そうした要素がアルバムの全編に散らばっていて、これは『MUSIC MAGAZINE』読者が反応するアルバムだと思いましたね。

大森靖子(以下、大森):聴いてライブに来てくれますかね(笑)?

――可処分所得は多いと思うので大丈夫だと思います。四天王バンドと4日間で11曲を録音したそうですが、sugarbeansさん、設楽博臣さん、千ヶ崎学さん、張替智広さんというバンドメンバーはどういう経緯で決まったのでしょうか?

大森:レコーディングで別々にそれぞれとご一緒するタイミングがあって、今回「この組み合わせで演奏したらどうかな」ってやってみたら、すごく上手くいって。仮歌の形で最後までもってきたいし、その感じで演奏して、私の行きたい方向についてきてくれるような感覚があった。しかも違うベクトルで先に行っている感じが同時に起こったり、すごく楽しく演奏できて、このライブ感ってあんまりないよなって思いました。それぞれ別々のベクトルで自分をやり尽くしている演奏がかっこいいなと思って、こんな感じでライブもやりたいし。今私が街で耳にしやすい音楽って、リズムがグルーヴしてたりハネたりしてなくて、同じ音がきれいに伸びているっていう作り方だったりするけど、それって私の中ではそのまま通過していく透明な感じがしていて。でも、今回の演奏は、自分にとっては綺麗なノイズみたいな感じがあって、もうちょっと歪んだ音で、歪んだ人間が生きている雑音を出したいし、それを綺麗に歌いたかった。1曲目から13曲目まで順番に聴く人はもうそんなにいないかもしれないけど、アルバムはそういう風に作っていきたいなという気持ちがありました。そもそもアルバムを作る時って、「何で作るんだろう?」から考えないといけないんです。他にいっぱいグループもやっているから、「ソロの曲を作る意味ってなんだろう?」って思うので。自分が活動する意味があるとしたら、音楽シーンの中で「こっち側が少ないよね」っていうことをやることかなと思って。

――グルーヴも強烈だし、アルバムを通して聴いた後に、私は小一時間寝込みました。

大森:本当ですか? 音数少ないのに(笑)。

――はい、身がまえて聴いても、あまりの情報量にやられて。歌詞では、コロナ禍の話がほぼ出てこないですね。2021年のZOC『PvP』だったら、それこそ「CO LO s NA」で始まったじゃないですか。大森さんがさっき、自分のソロ活動の意味の話をしましたけど、今回の最大のモチベーションってなんでしたか?

大森:私の人生の役割が、「ずっとムカついていろ」って神様に言われてると思っていて(笑)。地球があって、そこに乗っていく人が変わっていくじゃないですか。町という器があって、巡り巡っていくのが町なり、カルチャーになっていくっていうときに、ちゃんと巡り巡って行かないで同じ人がいたら腐る。人が生まれて死んでいくのに仕組みが変わっていかないのはダメだから、「この仕組みで本当にいいのか?」ってずっとムカついている役割が必要で、それが私であれと神様が思ってるはずなんですね(笑)。だから私はそれをするしかないから、カウンターカルチャーをやればいいんだなって思って。その意味で言ったら、コロナになったからといっていろいろ言い始めているほうが異常だし、いまさら「コロナだけど、声出そうぜ!」って言いはじめるのもおかしいので、自分のソロにとってはコロナの話題はあまり必要ないですね。

――80曲以上が発表された2021年に比べると、今年はライブ中心で新曲の数は少ないですが、そのぶん『超天獄』には凝縮された鋭さがあります。前作『Kintsugi』から約2年、ソロ曲で歌う対象って変わりましたか?

大森:極論、たぶん同じことしか言ってないんですけど、「ニュースやトピックスにいつも踏み潰されてる感情ってなんだろう?」っていうのが、創作意欲としていつも一番気にするものです。自分のことをつらつらと書きだしたのは最近ですね。『Kintsugi』も書いてるっていえば書いてるけど、「大森靖子とは」ってものはそんなに書いてないので。

――『超天獄』のほうが「大森靖子」が出ている?

大森:そうですね、私が「大森靖子」というものにしがみつくようになって。私はいつも「絶望してなきゃいけない症候群」の人間で、ちょっとうまくいきそうになると、わざと自分で壊したり、周囲から自分の描く自分よりも綺麗なものに思われちゃってるなって思うと、そのイメージを自分で壊したくなっちゃったり、そういうことを繰り返してきた。人に壊されると「それは違うぞ」みたいな気持ちになるんですけど(笑)。「“大森靖子”を守らなきゃいけない時期に来てしまったんだ、守ってあげるにはどうすればいいのか?」みたいなことを考えたときに、自己肯定感が低いほうが、自分にとってはモノをつくる循環として良かったんですけど、それだと活動が成りゆかない。それで「まず私が私を守らないと、人を傷つけることになるんだ」っていう自覚を持ちはじめました。

――自分の心を守ることで、大森さんを愛するファンや周りの人を守るっていう意味ですか?

大森:そうです。

――『Kintsugi』のリリース前、7週連続配信リリースをしていて、私が毎回インタビューをしましたよね。

大森:あのときに、本当はぶっ壊れてたんですよね。世の中にあのあと露呈しただけで、もう壊れてた時期ですね(笑)。

――あの時期、大森さんは「コロナだからって、とっくに絶望してるから変わらない」と言ってましたね。今思えば、壊れていたがゆえの絶望かもしれない。あの頃と、作品のテーマは変わってないんでしょうか?

大森:でも、結局いろいろ作ってるし、成長しないといけないらしいんで(笑)。成長って、自分の本懐を貫くためにするものだから、変わったら意味ないじゃないですか。「まだ変わらないんだね」ってなるかもしれないけど、本懐がある人にとっては、その芯があれば変わる必要はないですよね。

――「成長しなきゃいけない」っていうのはプレッシャーになりますよね?

大森:いや、どっちかというと私も「成長しなきゃいけない派」なんです。でも、自分に都合のいい形のものになることを「成長」と呼ぶ人もいるじゃないですか。もっと世の中とうまくやれるようになったら「成長したね」って言われることもある。それは本来の成長ではなくて、「こちらのステージにおいては諦めなんだけどな」だと思っています(笑)。

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