The 1975、ジャック・アントノフの手腕で引き出された等身大な感情 “楽器の生音”からバンドの現在地を紐解く
『SUMMER SONIC 2022』でヘッドライナーを務め、2023年には単独来日公演も決定しているイギリス・マンチェスター出身のバンド The 1975が、10月14日に5thアルバム『Being Funny In A Foreign Language』をリリースした。
2013年にリリースされた1stアルバム『The 1975』で見せた80年代ニューウェイブのノスタルジアを感じさせるダイナミックなポップ・ロックサウンドとは違い、今作は今まで以上にアーティストとして成熟したサウンドを聴くことができる。『The 1975』では、グランジの切なさを80年代のポップスに付け足したようなサウンドで、世界中の若者を魅了した。今作は、彼らのルーツと言える音楽性を踏襲しつつも、「大人」として成熟したサウンドプロダクションとなっている。愛をテーマとし、ファンキーなポップスからピアノとボーカルのバラードまで、バンドが今まで経験した幅広い音楽性を経た上でルーツを再構築したような作品とも言えるだろう。
『Being Funny In A Foreign Language』のサウンドを語る上で欠かせないのが、プロデューサーを務めたジャック・アントノフの存在である。アメリカ・ニュージャージー州出身の彼は、テイラー・スウィフト、ラナ・デル・レイ、ロードなどのアルバムをプロデュースし、近年のポップスにおけるサウンドのトレンドを作った人と言っても過言ではない。自身が所属するバンド、Fun.でも「We Are Young」で全米1位を獲得し、2013年に行われた『第55回グラミー賞』では最優秀新人賞と最優秀楽曲賞を受賞している。迫力満点のシンセサイザーを使ったポップスから、落ち着いたアコースティックサウンドまで、幅広いスタイルでアーティストの表現を実現させるプロデューサーであり、『Being Funny In A Foreign Language』でも近年のジャック・アントノフらしいサウンドを聴くことができる。
The 1975のボーカリストであるマシュー・ヒーリーが今まで以上にストレートにパーソナルな愛を語っている『Being Funny In A Foreign Language』であるが、その生の感情というものはバンドサウンドにも表れている。初期作品では実験的なシンセサイザーやドラムマシンなど打ち込みによるダイナミックなサウンドが目立ったが、今作は生楽器の演奏が印象的だ。制作中、The 1975とジャック・アントノフは「楽器を実際に演奏してレコーディングをする」というルールを敷いていたと、マシューは『The New York Times』のインタビューで明かしていた。
「15年前にXXYYXXの音楽を聴いたとき、『この音はなんだ? 彼はコンピューターでこれを作ったのか?』とみんな思っただろう。でも今ではどんな子供でも、自分の部屋でクレイジーなサウンドを作ることができる。ただ、そういう人ができないのは、バンドで20年間活動し、素晴らしいプレイヤーとして部屋に入り、自由に制作することだ」(※1/筆者訳)
マシュー・ヒーリーはジャック・アントノフがプロデュースしたラナ・デル・レイの作品が大好きだとも明かしており、共に仕事をしたいと思ったきっかけでもあったという(※2)。ジャック・アントノフにとっても転機となったラナ・デル・レイの『Norman Fucking Rockwell!』(2019年)には、制作スタイルという点でも『Being Funny In A Foreign Language』との共通点がある。サーフの影響を組み込んだフォークミュージックとも形容できる『Norman Fucking Rockwell!』は、アナログシンセとダイナミックなアレンジで知られていたそれまでのジャック・アントノフとは違い、落ち着いたアコースティックなサウンドがメインの作品となった。ジャック・アントノフは「周りにあった楽器を使って、とりあえず作ってみようという感じだった。ドラムマシンは使わずに、他の人たちがやっているサウンドと正反対のことをやろうと考えた。ものすごくベーシックなことに思えるけど、当時はそれが革新的に聴こえたのは面白い」(※3)と語っている。