原 由子、自然体のまま紡ぎ出す現代へのメッセージ 桑田佳祐の言葉で紐解かれた“ソロアーティストとしての魅力”
原自身が手がけた歌詞も素晴らしい。まずは「Good Times〜あの空は何を語る」(作詞・作曲:原 由子)。この曲で彼女は〈「愛と平和」が絵空事みたいな時代に 誰がした?〉と率直に歌っている。誰も予想しなかった悲しい出来事、悲惨な争いが次々と起こり、この国の多くの人はただ茫然とその様子を眺めている。そのことを踏まえた上で原は、〈あぁ 私に何が出来るの?〉と自らに問う。そう、「Good Times〜あの空は何を語る」は、“あなたはどうしますか?”という投げかけでもあるのだ。
まるで童謡のような素朴さの「ぐでたま行進曲」(作詞・作曲:原 由子)では、〈いつかは空も飛べるさ/心軽やかに 信じあえたなら〉というフレーズを気持ちよく響かせている。Netflixシリーズ『ぐでたま 〜母をたずねてどんくらい〜』のストーリーと重なりつつ、子どもからお年寄りまで幅広い層のリスナーに寄り添う楽曲と言えるだろう。
さらに、人を愛することの深さ、すごさ、どうしようもなさを描いた「ヤバいね愛てえ奴は」(作詞・作曲:桑田佳祐)、湘南サウンドの系譜を感じさせるポップナンバー「鎌倉 On The Beach」(作詞:原 由子&桑田佳祐/作曲:原 由子)など多彩な楽曲を収めた本作。その真ん中にあるのはもちろん、“シンガー・原 由子”の存在感だ。世の中には“〇オクターブの驚異的な音域”だとか“圧倒的な声量”を押し出すシンガーもいるが、彼女はそうではなく、どこまでも自然体で、メロディと言葉を丁寧に紡ぎ出していく。ディープな恋愛やシリアスなメッセージを含んだ歌がスッと軽やかに伝わってくるのは、ナチュラルな品の良さ、親近感と鮮やかな感情表現を両立させたボーカルスタイルの賜物だ。
「初恋のメロディ」(作詞:桑田佳祐&TIGER/作曲:原 由子)には、〈心に初恋のメロディ/幼き日に覚えた夢のハーモニー/歳を取るのも悪くない/喜び悲しみ いつも 歌ってた〉というラインがある。音楽を愛し続け、それを人生の糧にする。我々リスナーと同じように彼女は、音楽とともに年齢を重ねているーーそういう親近感もまた、アルバム『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』の良さであり、原 由子というアーティストの素晴らしさなのだと思う。