RADWIMPS&新海誠『すずめの戸締まり』主題歌に十明が抜擢された理由 上白石萌音、三浦透子に次ぐ非凡な歌声
最初の投稿は2020年2月で、この約2年半の間に、約70本の動画がアップされている。数々の動画を観て驚かされるのは、彼女の歌声のレパートリーの豊かさだ。例えば、Saucy Dog「シンデレラボーイ」、水曜日のカンパネラ「エジソン」などのカバー動画では、鮮やかに響くキュートな歌声を披露しつつ、その一方で藤井風「damn」やVaundy「東京フラッシュ」のカバー動画では、憂いを含んだアンニュイな歌声を響かせている。
また、椎名林檎「神様、仏様」のカバー動画では、毒を含んだような刺々しい歌声を披露しており、Ado「逆光」のカバー動画では、凄みの効いたパワフルな歌声を響かせている。丁寧に物語を紡いでいくような繊細な歌声を響かせる米津玄師「vivi」のカバー動画も素晴らしい。十明の多様な響きを誇る歌声を聴いていると、この先に彼女のポテンシャルがどのように花開いていくのか、とても楽しみになる。そしてTikTokには、「人魚姫」をはじめとした複数のオリジナル楽曲の断片も投稿されており、今後のソングライターとしての活躍への期待も高まる。
十明のTikTokを観て筆者が最も強く心を動かされたのが、2021年8月21日に投稿された米良美一「もののけ姫」のカバー動画だった。その透明に澄み切ったような凛とした歌声は、とてもフラジャイルな儚さを放ちつつ、同時に懸命な祈りや願いが込められているように力強く響いている。短い動画ではあるが、その神秘的な美しさに何度も息を呑んだ。そして、このカバー動画を観た時の驚きは、初めて彼女が歌う「すずめ」を聴いた時の感動とぴったり重なるものであった。
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野田は十明の歌声について、次のようにコメントしている。「主題歌の『すずめ』冒頭の〈ルールルルルルールー〉を十明が歌い出した瞬間、彼女の声でこの歌は歌われなければいけないと感じました。瞬時に。この楽曲と十明の間に、誰も割って入ることのできない強い結びつきを感じたのです」(※1)。この言葉からは、オーディションを通して十明と出会えた感動と、彼女の歌声への絶対的な信頼が伝わってくる。今回の『すずめの戸締まり』において、観客が物語に深く没入する上で、十明の歌声が非常に重要な鍵となることは間違いないだろう(現時点でのアナウンスはないが、「すずめ」以外にも複数の主題歌や挿入歌が存在し、それらの楽曲を十明が歌唱する可能性も高い)。
なお、十明には、高校生になった時に念願のバンドを組むも1年も経たずに解散してしまい、その後アコースティックギターを持ち弾き語りでライブ活動を始めたものの、一度はミュージシャンになる夢を諦めてしまった過去がある。今回の新海監督たちによるフックアップを通して、彼女のミュージシャンとしての才能が広く世に伝わっていくのは間違いないだろう。また、例えば上白石萌音が『君の名は。』以降、シンガーとしてのポテンシャルを開花させたように、そして三浦透子が『天気の子』以降、『ドライブ・マイ・カー』をはじめとする話題作に次々と出演し、その存在感を増し続けているように、十明も今回の経験を糧にして、大きなブレイクスルーを実現していく予感がする。映画の公開をきっかけとして、間違いなく加速していくであろう彼女の今後のシンデレラストーリーを、しっかりと追いかけていきたい。
※1:https://realsound.jp/2022/09/post-1133951.html
※2:https://www.tiktok.com/@toaka_desu
※3:https://www.tiktok.com/@toaka_desu/video/6997371120827649281?is_copy_url=1&is_from_webapp=v1
<そのほか参照先>
・特別番組『「天気の子」と僕ら~RADWIMPS×新海誠~』(2019年11月4日/NHK総合)
・『新海誠、その作品と人。』(2016年10月号)