TWICEメンバー分析 第4回:ミナ、静かに大きな影響をもたらしてきたグループのキーパーソン
2022年7月、メンバー全員が所属事務所との契約更新を行なったことが発表されたTWICE。2015年のデビュー以来、韓国国内はもちろん日本をはじめ世界中の人々の心を掴み、K-POPシーンを代表するビックグループに成長した彼女たち一人ひとりの魅力を、改めて捉えたい。
本稿ではミナに焦点を当て、彼女の表現と、近年のTWICEが遂げるグループとしての進化の関係性を中心に考える。
デビューから約7年にわたる歩みのなか、彼女たちの楽曲における音楽性にも変化がみられてきた。2017年にリリースされた1stフルアルバム『Twicetagram』収録曲に象徴されるように、かつては明るくハツラツとした可愛らしい曲調をパブリックイメージとしていたTWICEの楽曲が中心に収録されている。しかし『Eyes wide open』(2020年)『Formula of Love: O+T=<3』(2021年)などの近作では、ポジティブなメッセージだけに留まらないダークでアグレッシブな内容など、数年前までは踏み込まれていなかった表現域へと至ったことにより、彼女たちが打ち出すイメージに変革が起こっていた。
そんななかミナは、TWICEがグループの新章を迎える上で大きな影響をもたらしたキーパーソンなのではないだろうかと、筆者は考える。
彼女はこれまでTWICE楽曲の「落ちサビ」と呼ばれるパートを多く担当してきたメンバーである(例「KNOCK KNOCK」「Heart Shaker」など)。「落ちサビ」とは、楽曲終盤の最終サビ前に配置される、伴奏が抑えられボーカルが際立つパートのこと。楽曲のクライマックスを「結」とするならば、いわば楽曲に「転」をもたらすこのパートで、控えめでナイーブ、耳心地のよい柔らかさの中に“静けさ”が感じられるミナの声は、リスナーの心象風景へ変化を起こす重要な役割を担ってきた。
さて、TWICEの音楽的な転換を捉える上で、象徴的ともいえる楽曲となるのが「CRY FOR ME」だ。初期の代表作「TT」と同様、涙を流す仕草が振り付けに織り込まれおり、リーダーのジヒョも「個人的に「TT」の成熟したバージョンだと思う」と語る本楽曲。〈I want you to cry,cry for me/내가 울었던 것처럼 Cry for me〉(あなたに泣いてほしい私のために泣いてほしい/私が泣いたように私のために泣いてほしい)と歌うことで、複雑な心情を歌った同曲。〈I want you to die for me〉という衝撃的な「結」を迎えるこの「CRY FOR ME」において、ここでも「転」となるのがミナの歌声である。
〈사랑이란 게 너무 독해/미운 마음도 다 녹아버리게 해〉(愛というものは残酷すぎる/憎む気持ちも全部溶かしてしまう)という歌詞とともに聴こえてくる彼女の声の“静けさ”は、たった数フレーズで楽曲の全体までスリリングな緊張感を与えている。
さらに「CRY FOR ME -Japanese ver.-」Aメロ〈腕の中 包まれるわ/無邪気な微笑み“で”〉の、「で」。彼女が発するこのたった一音、その陰影には、「私が泣いたように泣いてほしい、自分が感じた痛みを愛する相手にも与えたい」と伝える同曲の絶妙なニュアンスが見事に表されているように感じる。
リスナーに多面的な解釈を与える一筋縄ではいかない複雑な主題も表すようになった彼女たちだが、こうした表現を可能にするインスピレーションのひとつとなっているのが、ミナの歌声が内包する静寂ではないだろうか。そしてこれまでTWICE楽曲の多くに「転」をもたらしてきたその声は、グループの音楽性が転換期を迎えるきっかけをも生んだのではないか、と思うのである。それほどまでに彼女の歌声は静かに、それゆえ大きな存在感を放つのだ。