EXILE MAKIDAI連載「EXILE MUSIC HISTORY」第7回 T.Kuraが明かす、日本語R&Bの進化

流行るものには、ちゃんと理由がある

MAKIDAI:Kuraさんが作るEXILEの楽曲は、ヒップホップやブラックミュージックの音色がありつつ、キャッチーな部分もあってバランスが絶妙だと思います。どんなことにこだわって曲を作っていますか?

T.Kura:もともと自分が好きなのは、流行っている音楽なんです。だから絶対的なこだわりはあまりないんです。流行るものには、ちゃんと理由があるじゃないですか。音だけでなく言葉や流れ、雰囲気などをカルチャーとして理解すると面白い。自分のベースは流行の意味をちゃんと捉えるというところにあって、そこはずっと変わっていません。根底の部分って、一度固まったら変わらないんです。

MAKIDAI:間違いないですね。

T.Kura:音作りでは、ニュージャックスウィングに衝撃を受けました。プロデューサーでいうとテディ・ライリー。彼は自身のグループ・GUYのデビュー前からプロデュース活動をしていますが、僕が好きなものって彼が携わってるものばかりで、特に自分は彼のドラムの音が大好きなんだなと。爆発するようなスネアとか、音が弾むバウンシーなパターンを自分の音楽に取り入れたかった。

 後で知りましたが、彼は彼でニューヨークで育って教会でオルガンを弾いていたキャリアがあって、ゴスペルの音やグルーヴに触れていたんですよね。あと、80年代のオールドスクールなラップをよく聴くと、ゴスペル的で教会の牧師の説教にそっくり。テディは当時出てきたリズムマシンでグルーヴを追求していったら、あのスウィングするビートになったのだと思います。あとはジャム&ルイス。この2組は外せないですね。

MAKIDAI:Kuraさんのアーティスト名義「GIANT SWING」にも「スウィング」という言葉が入ってますね。ニュージャックスウィングはダンスのジャンルにもなっています。

T.Kura:そうなんです。スウィングビートを表現したかったんですよ。それで名付けました。あと、僕にとって衝撃的だったプロデューサー/ビートメイカーはティンバランドですね。2倍のテンポでリズムを取る感じ。ダンサーにとっても驚きだったと思うんです。

MAKIDAI:びっくりしました。

T.Kura:USのラッパーにとっても、最初は「あのビートでどうやってラップしたらいいかわからない」という感じだったみたいです。でも、ティンバランドが組んでいたマグーは、倍速ラップでうまくハメている。BPMでいうと65とか70くらいなんですけれど、その2倍速の130~140くらいでラップするんです。そういうスタイルが、今のトラップとかに行きつきました。

ATSUSHIのエアリーな声質はマネできない

MAKIDAI:ニュージャックスウィングといえば、EXILEにも「NEW JACK SWING」という、そのままのタイトルの曲を制作してもらいました。僕らにとっても思い入れのある80年代後半から90年代前半にかけて流行したダンスミュージックをうまく咀嚼して、かつ踊りたくなるような曲調に仕上げてもらいました。MVも思い出深いです。

T.Kura:あれがEXILEとの初レコーディングだったかもしれないですね。当時のavex社内スタジオで、ボーカルはATSUSHIとSHUNちゃん(清木場俊介)。ATSUSHIは、とにかくブラックミュージック大好きでしたが、実際の表現の細かいテクニカルな部分をディレクションできる人が当時の日本にはいなかったと思うんです。あの独特なニュアンスは日本の歌にはないので。後に彼も「大変だった」と話していました(笑)。

MAKIDAI:それまでの歌い方を変える大きな機会だったのかもしれませんね。レコーディングスタジオにパフォーマーチームも立ち合いに行って、朝10時くらいから作業開始だったのを覚えています。

T.Kura:徹底的に細かくディレクションしていったので大変そうでしたが、ATSUSHIからは自分の好きなことをやれているという楽しさも伝わってくるんですよ。それに応えようと、こちらも一生懸命に仕上げたんです。彼のエアリーな声質は普通の人が息をたくさん出して歌ってもマネできないですね。海外のR&Bシンガーと仕事した時、彼らは喋りの声の延長で1オクターブ上で歌っているだけだと感じましたが、ATSUSHIもそういうタイプでした。

 あとは時代がそうだったのかもしれませんが、EXILEが活動しだした頃から日本語のR&B的な表現も増えてきたんです。それって今までなかったものだから、もっとやっていきたいなと思ったのも覚えています。

New Jack Swing (EXILE ENTERTAINMENT)

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