連載「lit!」第16回:Megan Thee Stallion、JID、Kenny Beats……内省的テーマを扱うラップアルバム

YoungBoy Never Broke Again『The Last Slimeto』

 決して短くはない。前述したRod Waveも参加するYoungBoy Never Broke Againの新作『The Last Slimeto』は30曲80分にも及ぶ尺で、一気に聴くことが難しい作品かもしれない。ただし、メロディアスな捻りを効かせた彼のフロウの豊かさ、ラップスキルの高さは長尺に耐え得るものである。曲数に対して、客演を少人数に抑え、シンプルかつYoungBoyの独壇的なパフォーマンスで見せきってもいる。そんな本作のトピックは17曲目「Slow Down」をはじめ、成功した自らのライフスタイルと感情について(ここでも名声に孤独がついて回ることを確認できる)の歌詞が多い一方で、12曲目「Stay The Same」やRod Waveとの共演曲「Home A’int Home」では、過去の後悔とバッドな感情に陥っている彼の姿が窺える。7曲目「My Go To」は、YoungBoyが抱えるマッチョイズムと繊細さに対して、ケラーニのヴァースがケアするようなラブソングになっている。荒々しく、刹那的でもあるが、所々で顔を出す繊細さや感情的な表情こそ、もしかしたら彼自身と言えるかもしれない。

NBA Youngboy - My Go To feat. Kehlani [Official Audio]

Kenny Beats『Louie』

 『Louie』はパンデミック禍で癌を宣告されたKenny Beatsの父親に捧げられたレコードである。Kenny Beatsにとって、とても個人的な作品であるはずの本作は、そういった背景と通ずる部分でも、切り離された部分でも軽やかで、遊び心に溢れた作品である。全体を包むリラックスしたムードは、作中の多くの割合を占めるインストゥルメンタルと、要所で顔を出すゲストたち(Pink Siifu、slowthai、JPEGMAFIAら)によって支えられ、不可思議かつ豊かな音の空間に誘われる。恍惚としたイメージが頭をよぎる中、10曲目「Eternal」が実存と死後の世界の予感についての曲であることをはじめ、死についての考えを、この33分のグルーヴの中で巡らせているのもまた明白なようだ。放送作家であった父親の声のサンプルを使用することで、例えば今年、ザ・ウィークエンドが『Dawn FM』で作り上げていたラジオ番組的世界観を、また違った形で再現しているところも聴き逃せない。

LOUIE - FULL ALBUM VISUALIZER

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