藤井風、いよいよ世界に見つかる アルバム曲「死ぬのがいいわ」世界各国でバイラルヒットの理由

 藤井風の楽曲「死ぬのがいいわ」が現在、世界中でバズを巻き起こしている。同曲は、2020年にリリースされた1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』の収録曲。シングル曲でもなければMVもない、いわゆるアルバム曲の一つである。

 9月7日時点でこの曲は、Spotifyのグローバルデイリーバイラルチャートで最高4位を記録。各国のデイリーバイラルチャートではタイ、ベトナム、シンガポール、インドネシア、エジプト、カナダ、フランスなど17カ国で1位、さらに65カ国のデイリーバイラルチャートTop100以内にランクインを果たすなど、世界中のバイラルチャートを席巻している。

 最初に火が付いたのはタイであった。7月下旬にTikTokでこの曲を使った動画が流行り始め、そのまま東南アジアへと波及。TikTokなどのSNSを介してアジア以外の世界各国にも広がりを見せていった。Spotifyでの再生回数の伸び率は前月比で+1,061%と驚くべき数値を叩き出し、ストリームシェアの1位は現在アメリカだという。

 さらにSpotify上での藤井風のマンスリーリスナー数が400万人を突破し、前月比の約2倍に。リスナーはこれまで日本が大半だったものが、Spotifyによると今では海外比率が5割を超え逆転したという。こうした世界の流れを追う形で、この曲は日本のチャートでも急浮上。9月3日付のSpotify JAPAN急上昇チャートでついに1位に輝いた。

レトロとモダン、昭和と令和の融合

 最初この話を聞いた時、「なぜこの曲が?」と思った。確かに良い曲ではあるし、語感やメロディは独特で面白い。とはいえ、彼の楽曲の中では比較的知名度の低いアルバム曲で、発表されたのは2年以上前のこと。藤井風本人もセルフライナーノーツで「ずいぶん昭和な歌詞とメロディだなと思った」と言っている通り、〈あなたとこのままおサラバするより/死ぬのがいいわ〉といった歌詞の情念の深さというか、愛の重さは一見すると多くの人々に広がりにくそうなものだ。

 しかし、まさにそれこそがポイントなのだろう。投稿の多くがこの曲をそれぞれの好きなアイドルやアニメキャラクターの映像とともに使っており、自身の“推し愛”を自由にコンテンツ化している。それがファンコミュニティの間で共有されたことで、大きなバズを生み出したのだと考えられる。

 日本の音楽が海外でウケる際にありがちな「歌詞の意味は伝わらずにサウンドやメロディの面白さだけが輸出される」パターンではなく、しっかりと歌詞も翻訳され、言葉の意味通りにシェアされている。なかには原曲のピッチを変化させることで、あえて病的な雰囲気を演出してるものもあり、曲の世界観がその通りに(むしろそれ以上に)伝わっているようだ。

 重要なのは、リリックは“昭和”であっても、サウンドは現行のビート感覚によって作られている点である。歌詞やメロディには独特の古めかしさを感じるが、「それがイマっぽいトラップ風ビートと合わさったおかげで、絶妙にオモロい個性的な曲」になっていると彼自身も解説している。つまり、海外の若いリスナーにも馴染みやすいリズム〜サウンドがこの曲の土台にはある。レトロとモダン、昭和と令和が巧みに融合した曲なのだ。

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