くるり、25周年を経て再提示された“ロックバンド”としての力強さ 現在進行形の姿刻んだツアーファイナル

 8月5日、くるりが『くるりライブツアー2022』のファイナルとなる東京公演をZepp Hanedaで開催した。1月に大阪で、2月に東京で開催された結成25周年記念公演『くるりの25回転』以来、初めての全国ツアーは「ロックバンド」としてのくるりを再提示するような内容だったように思う。大編成でこれまでの歴史を総ざらいした『くるりの25回転』に対し、ギターの松本大樹とキーボードの野崎泰弘、今ではすっかりチームくるりの一員となったドラムの石若駿という盤石の編成で、フィジカルなバンドアンサンブルを鳴らしてみせた。

 まず象徴的だったのが、ライブの幕開けを飾った「Bus To Finsbury」。ロックンロールリバイバルの風も受け、岸田繁(Vo/Gt)のUKロック愛が発露した2005年作『NIKKI』のオープニングナンバーであり、軽快なスタックスビートと野崎のオルガンに気持ちが高揚する。リフの反復とシンコペーションでロックンロールの「ロール」を引き立てる「目玉のおやじ」、カッティングを中心に据えたファンキーな「コンバット・ダンス」もいいし、音源ではオーケストラルなアレンジの「ブレーメン」も、この編成だとタイトに引き締まった演奏に魅了される。

 くるりのロックンロール期を代表する名盤である2004年作『アンテナ』からの「Morning Paper」はライブの定番曲であり、この曲がどんな風に演奏されるかによって、その時期のくるりのモードがわかると言っても過言ではないが、この日の「Morning Paper」で何より目を引いたのは石若のプレイ。展開の多いこの曲の中で、佐藤征史(Ba/Vo)ともグルーヴを合わせつつ、ときにルーズに、ときにパワフルにアンサンブルを支える様は、紛れもなくバンドの中心だった。そこにはジャズ由来のインプロヴァイザーとしての素地と、ロックもポップも幅広く愛好するミュージックラバーとしての両側面が感じ取れた。

 高速シャッフルハードロックといった感じの「しゃぼんがぼんぼん」に続く「青い空」や、中盤で披露された「マーチ」といった、2000年作『図鑑』収録の唐突なリズムチェンジを特徴とする楽曲は、当時だと勢い任せに演奏されていた印象もあるが、今の5人の演奏はとにかく「うまっ」と感嘆してしまうもの。石若のプレイで言うと、マシン的な正確さと生身のグルーヴが同居する「ばらの花」、岸田のワーミー使いも印象的なクラウトロック風の「white out (heavy metal)」もよかった。

 一時期までライブのメインドラマーを務めていたクリフ・アーモンドが強烈だったので、その後任探しはなかなかに大変だったはずだが、もともとくるりを愛聴していた石若との邂逅は、25周年を経たくるりのモーターをもう一度力強く回すためにも、非常に幸福な出会いだったと言えるだろう。ロックバンド的に例えるなら、キース・ムーンに代わり、90年代以降のThe Whoにフレッシュな息吹を与えたザック・スターキー、ジャズ的に例えるなら、17歳でマイルス・デイヴィスのグループに抜擢され、黄金のクインテットを形成したトニー・ウィリアムス……なんて言うのは、いささか言い過ぎだろうか。

 「かごの中のジョニー」でのインプロからなだれ込んだプログレ大曲「Tokyo OP」でもバンドの充実ぶりを見せつけ、情景描写の中に悲しみと軽やかな解放の両方を差し込むくるり節が素敵な新曲は、岸田のアウトロにおける長尺のギターソロが素晴らしく、過去曲になぞらえるなら、ライブでの「黒い扉」を連想させるような名演だった。ラストは「everybody feels the same」からの「ロックンロール」(松本のレスポールによるアウトロのギターソロも最高)でもう一度「ロックバンド」としてのくるりを力強く刻んで、本編を締め括った。

関連記事