連載「lit!」第14回:UVERworld、[Alexandros]、BREIMEN……ニューフェーズを予感させる今夏の必聴ロックナンバー

Chilli Beans.『Chilli Beans.』

 本連載の第3回の記事でも、先行シングル曲「マイボーイ」について紹介したが(※2)、その後に届けられた1stフルアルバムを聴いて、そして『SUMMER SONIC』における堂々たるライブを観て、改めてこのバンドのポテンシャルを一人でも多くの人に伝えたいという想いが強まった。

 Chilli Beans.は、「音楽塾ヴォイス」のシンガーソングライターコースに通っていた3人が、講師の勧めによって結成したバンドである。おそらくは、そうした成り立ちが色濃く影響しているのだろう。今作に収録されている楽曲のテイストは非常に多彩で、3人それぞれが今作りたい音楽を自由に盛り込んだカラフルなポップソング集となっている。それでいて、各楽曲の軸となっているのはギターやベースの骨太なリフであり、鋭利なカッティングや鮮烈なギターソロがハイライトを担う楽曲も多数だ(ちなみに、バンド名のChilliは、3人が敬愛するRed Hot Chili Peppersから拝借したものである)。

 今作を聴いて最も感動したのは、2019年の結成以降の約3年間を通して、3人が“バンド”としての結束力を強めている事実だった。もっとストレートな言い方をすれば、3人の「バンドって楽しい!」という気分が全編から伝わってくる。これからもChilli Beans.は、三者三様のメンバーが集うバンドだからこそできる表現を追求しながら、同時にその枠組みに決して縛られることなく、自分たちのポップを磨き続けていくのだと思う。改めて、とてつもないポテンシャルを感じさせるバンドである。

Chilli Beans. - School (Official Music Video)

BREIMEN『FICTION』

 今年の5月に発表された岡野昭仁(ポルノグラフィティ)と井口理(King Gnu)のコラボ曲「MELODY(prod. by BREIMEN)」を通して、初めてBREIMENのことを知った人も多いと思う。同曲は、井口の提案で、BREIMENでボーカル&ベースとソングライティングを務める高木祥太が作詞作曲を担当したもの。高木は、BREIMENの活動と並行しながら、TempalayやTENDRE、Charaの活動にサポートとして参加しており、他の4名のメンバーも、数々のミュージシャンから厚い信頼を集めている凄腕揃いである。もともと熱心な音楽リスナーから支持を受けていたBREIMENであるが、今回、世間からの注目が一気に高まったタイミングでリリースされた3rdアルバム『FICTION』は、彼らのさらなる飛躍を実現する作品になると思う。

 緻密に構築されたミクスチャーファンクは美しい精巧さを誇っていて、同時に、5人で生音を重ね合いながら育んでいった豊かなバンドアンサンブルは、どこまでも自由で躍動的な輝きを放っている。高い演奏力を誇る5人が、対話を重ね、それぞれの音をお互いに尊重し合いながら未知なるケミストリーを模索していく。まるで、今一度“バンド”になっていくかのような過程を経て生まれた今作がもたらしてくれるのは、極めて原初的な音楽の楽しさ、フレッシュな驚き、そして深い感動であった。今作は『FICTION』と名づけられているが、5人が描き出す全10曲の音楽の旅路は、まぎれもないリアルなドキュメンタリーでもある。そしてだからこそ、今作に収められているのはライブでこそ真価を発揮する楽曲ばかりだ。今後、彼らが数々のフェスやイベントで台風の目になっていくことは間違いないと思う。

BREIMEN「MUSICA」Official Music Video

にしな『1999』

 昨年、TikTokで大きな話題となった「ヘビースモーク」や、ドラマ『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)のエンディングテーマとなった「東京マーブル」などを通して、すでに多くのリスナーがにしなの音楽と出会っていると思う。そして先日公開された「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスを観て、改めて彼女のシンガー/ソングライターとしてのポテンシャルに圧倒された人は多いはずだ。特に、2本目として公開された新曲「青藍遊泳」のメロディは格別で、長きにわたるJ-POPの歴史の中で、これほどまでに美しいメロディがまだ手つかずのまま残っていたのかと感動してしまった。このように、にしなが今後さらに大きなブレイクスルーを実現するための布石は十分すぎるほど揃っており、その中でも特筆すべきが、7月にリリースされた2ndフルアルバム『1999』である。

にしな - 青藍遊泳 / THE FIRST TAKE

 多彩な響きを放つ全11曲を通して描かれるのは、普遍的な愛を巡る深淵な旅路だ。愛を求めて傷ついて、それでも懲りずに愛を求めながら大切な人と共に生きていく。相手のことを全て理解することも、自分のことを全て理解してもらうこともできない。それでも、いつかお互いを心から愛し合える未来を信じながら、懸命に一歩ずつ前へ進んでいく。〈愛をうたおう〉(「アイニコイ」)という宣言で幕を開け、何があっても〈僕らはきっと変わらぬ愛を歌う〉(「1999」)という深い確信をもって締め括られる今作の旅路は、その過程における迷いや揺らぎを含めて眩い輝きを放っている。ラストの「1999」において、終末世界というモチーフを引き合いに出すことでしか表現できなかった普遍的な愛、その重みと深みを一人でも多くの人に感じ取ってほしい。

にしな | 1999 - Music Video

※1:https://realsound.jp/2022/07/post-1087109.html
※2:https://realsound.jp/2022/05/post-1028514.html

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