音楽から紐解く“十五少女”の物語 少女の焦燥を具現化した世界観の魅力
その他にも『SILENT』というシリーズがあり、現状「逃避行」と「ハンドメイド流星雨」の2曲がリリースされている。これらの楽曲には創作のインスピレーションになったペルソナが存在し、ペルソナ本人が楽曲を歌い直したものが『RE:SING’LE PROJECT』にあたる。トラックメイカーとしても活動する“水槽”や、声優兼シンガーソングライターと活動の幅を広げている“楠木ともり”がペルソナのCVとして歌唱参加している。また、SILENTはLISTENのアナグラムとなっており、相反する2つの言葉の関連性が楽曲で語られている。
「逃避行」の歌詞には、〈どうせ何年もせずに 入れ替わっていく関係なのに 右往左往していたいの? 下らないわ なんて言えたらな〉とある。これは、生活での違和感を胸に抱えながらも、打ち明けられない苦しさを表現しているように感じた。同じく、「ハンドメイド流星雨」では〈変な子だって からかわれて 冷めたフリした〉という歌詞がある。楽曲のペルソナ“皐月ソラ”が、自分自身を押し殺して日々を送っているような物語性が感じられる。
2曲とも訴えたい思いがありながら、周りの空気に同調し沈黙せざるを得ない。そんな十代の葛藤を描いている。まさに、LISTEN(聞く)とSILENT(沈黙)のリアルな関係性だ。
さらに、注目すべきは「逃避行」を十五少女それぞれが独唱した“15ver.”である。どれもが、夜を漂うような透明感ある歌声となっているが、それだけではなくメンバーが歌い分けることで楽曲の捉え方が変化するのだ。怒りや諦め、悲しみに希望。わずかな声色や息遣いが感情の変化を生み出す。十五少女の歌唱担当はいまだ公開されていないが、“15ver.”ではボーカルの表現力の高さがありありと現れているので、ぜひとも聴き比べてみてほしい。
現在、小説サイト「tree」では、十五少女それぞれのプロローグにあたる前日譚小説が公開されている。それら小説のテーマソング集となっているのが最新EP『ASTRONOTES』だ。
竹虎レオナと猿飼サキの物語を描いた「アトム」では、彼女たちの過去をギターロックで表現し、そのコード進行は夏の感傷を映すようなボカロックを彷彿させる。とくに注目したいのは、ビートの変化だ。キラキラとしたサウンドを奏でながら、1番のサビに入るとビートは倍の長さとなる。一方で、次にくるサビでは長さが元に戻ることで、より疾走感が増している。こうした細かな変化から、彼女たちが対峙してきた困難への歩みが感じられた。
少女たちは、生きる中で選択をし、それがたとえ間違いであっても走り抜けなければならない。小説では、“普通”を手にできなかった後悔や過去との決別をはかる決断が描かれており、読了後に楽曲を聴くと、そうした彼女たちの歩みを感じられる。
ここまで取り上げたシリーズにおいて、それぞれの楽曲提供者もバラエティに富んでいる。『HATED』のかいゑや『ASTRONOTES』のichicaといった新鋭ボカロPのほか、「ハンドメイド流星雨」の平牧仁(シキドロップ)や「逃避行」の白神真志朗といった多方面で活躍する作家も参加するなど、様々な世代の才能が集結し『十五少女』の世界観を広げる動きも面白い。
『十五少女』は、作品を構成する要素が複雑に絡み合うプロジェクトである。今後、明かされていく物語の側面は、いつかひとつの繋がりとなるのだろうか。そして、同時に半透明な存在(実在と仮想の間)である彼女たちが抱える不安や諦めは、誰にとっても当事者的であると言える。まさに今、葛藤と直面している人や自らの選択の先にきた人、その結果に苦悩している人。これは、彼女たちの物語であり、私たちの物語でもあるのだ。
■リリース情報
十五少女
New EP『ASTRONOTES』
2022年8月10日(水)リリース
DL/Streaming:https://15shoujo.lnk.to/ASTRONOTES
<収録曲>
01. 漂流
02. Alien
03. アトム
04. アッシュ
05. 春とレム
06. Eureka
■関連リンク
前日譚小説 Web連載ページ:https://tree-novel.com/works/96b8b411b4810f421a503bb4ac16a8f7.html
HP:https://15sj.xyz/(プロフィールから各キャラクターの「声」が聞ける)
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