『D.LEAGUE』、個性的なプロデューサーが手がけた音楽の魅力 採点に収まりきらないダンスとの豊かなケミストリー

 6月5日、『第一生命 D.LEAGUE 21-22 CHAMPIONSHIP(CS)』が開催され、KOSÉ 8ROCKSの優勝を以って今季の『D.LEAGUE』全試合が終了した。2週間に1本のペースで作品を作ってステージに臨むということは、どれほど過酷なことだろう。プレイヤーでない筆者には想像もできないが、戦い抜いたすべてのDリーガーを称えたい。

 しかしあえて言うならば、彼らの作品を正確に点数づけすることは本来不可能なはずだ。ダンサージャッジの審査項目<スキル/クリエイション/コレオグラフ>、エンタテイナージャッジの審査項目<エナジー/クリエイション/表現力>、共通項目<スタイル/完成度>に収まらない要素は数多い。もちろん異種ジャンル戦を絶妙なバランスで成立させていることにリスペクトを表しつつ書くが、審査の角度が変われば容易に結果も変わるだろう。

 例えば音楽。エンタメジャッジのクリエイション項目に「音楽の使い方」という文言が入ってはいるものの、それが点数化されることはない。本リーグでは作品ごとにオリジナル音源を使用することが定められ、多彩な楽曲が存在するので、そこに光が当たりづらいのは惜しい限りである。

 ならば各チームの作品を音楽視点からジャッジしたらどうだろう。そんなことを思って今季は個人的にラウンドごとの「ベスト楽曲賞」なるものを独自に考えていた。恣意的なジャッジではあるが全体のサウンド、リリック、ショウケースとの親和性などの観点から吟味し、まとめたプレイリストが以下のもの。

 興味深いことにリストに入ったのは、トータルランキング下位チームばかり。もしかしたら彼らはリーグのルール上で負けを喫したものの、音楽的には勝っていたのかもしれない。

 では本プレイリストをもとに、音楽的な切り口で今季の『D.LEAGUE』を様々に掘り下げていこう。

CyberAgent Legit 〜シリアスとユーモアの狭間で〜

【Dリーグ】ROUND.1 CyberAgent Legit
【Dリーグ】ROUND.12 CyberAgent Legit

 まずはCyberAgent Legit。彼らの楽曲ではROUND.1とROUND.12をピックアップしている。両曲ともプロデュースしたのは主力ビートメイカー・宮田“レフティ”リョウ。Official髭男dismやSixTONESなどの楽曲にも携わるなど実績あるアーティストだ。彼は中田敦彦の弟でもあるディレクター・FISHBOY自身も参加するRADIO FISHの楽曲も担当しており、両者は以前より親交が深い。

 「BRAVE」は速めの8分の6拍子のリズムで、長めの休符とグリッド上で乱れる後半のストリングスに胸が熱くなる。それに拮抗するコレオグラフにも注目だ。そして「RADIOなDANCE -ラジオ体操第27911-」はパンチのあるシンセの音色が素晴らしく、リズムと関係ないダンス解説の声も音楽によい緊張感をもたらしている。

 Legitのショウケースはコンテンポラリー調のシリアスなもの、それと相反するユーモラスなものの二面性があることが魅力だ。上記の両曲を使った作品も各面をそれぞれ表現しているが、ビートだけを考えると、どちらも単純に音楽として真摯で、その上に乗る歌とダンスが真面目/面白いという印象を与えている。特に笑いにフォーカスする場合、Legitはディレクター・FISHBOYの出世作であるRADIO FISH「PERFECT HUMAN」や、その参照元であるPSY「江南スタイル」の文脈から逃れられない。

 実際「RADIOなDANCE -ラジオ体操第27911-」を含めた、彼らのユーモアサイドの音楽性はコレオグラフで更新されつつも「ダンスミュージックに面白い歌詞が乗っている」という「江南スタイル」のスタイルに即している。その流れを継承しつつ深めるのか、逸脱するのか。この視点でも彼らが来季をどう戦っていくのかに注目したい。

LIFULL ALT-RHYTHM 〜全方位カルチャーで揺るがす既成概念〜

【Dリーグ】ROUND.7 LIFULL ALT-RHYTHM
【Dリーグ】ROUND.10 LIFULL ALT-RHYTHM

 次にユニークなコンセプトとメッセージ性で存在感を残したLIFULL ALT-RHYTHM、今期の楽曲すべてに関わったのは今井悠。WORLD ORDERらに楽曲提供してきたプロデューサーだが、12戦の全曲を担当するとは何とも気の遠くなる仕事である。

 ALT-RHYTHMはダンスも独創的だったが、音楽でも不思議なアプローチを見せた。ショウケースの時間はリーグ規定で2分15秒。よって試合音源自体をそれに合わせて作るか、ショート版にすることが通例で、サブスクに公開される際はFull ver.とshort ver.の2つが並列されることもある。しかし、本チームの試合音源は逆に規定に合わせつつ、オリジナルより長尺のものが2曲も存在するのだ。

 そのひとつがROUND.7「Mask」。「Round.ver」は4秒延長されている。追加されているのは冒頭のノイズと盛り上がりの前の空白だが、特に後者はショウケースとしてダンスと組み合わさると、見事な美へと昇華される。つまり本楽曲の4秒増は単なるラウンドのための微調整ではなく、コレオグラフに直結した効果的なエディットなのだ。たった6拍のブレイクにすぎないが、この拍数が蝶に変身するのだから、ダンスと音楽の関係はまさに化学反応である。

 そしてROUND.10の「ファッションショー」というテーマに当てられた「Touch」。現行のショーにおいてハウスミュージックはあまり使われない印象だが、この場合はウォーキング音楽として構想されたのだと思われる。ファッションショーは基本的に「“ラン”ウェイを“ウォーキング”ミュージックで“歩く”」というハズしの美徳を持っているが、この概念にALT-RHYTHMは「“ラン”ウェイを“ウォーキング”ミュージックで“走る”」ことで揺さぶりをかけた。これはハイファッションや音楽などダンス以外の文化への理解も必要となるが、なかなか洒落た試みといえよう。

 なお上記2曲はともにyahyelのフロントマン・池貝峻がボーカルとして客演している点も見逃せない。

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