新連載「lit!」第11回:maras k、KIRA、Glue、稲葉曇……ボカロ楽曲の自由度の高さを体感できるクリエイターたち
Glue
中学生でボカロPとしてデビューしたGlueは、20作目となる「黄色仮面」を発表。デビュー以来色をモチーフにした楽曲を多く作り、MVも含めモチーフに沿った工夫でリスナーを楽しませてきたGlue。今作も例に漏れず、タイトル通り黄色をテーマにした楽曲だ。シンセリフが印象的なイントロの本曲はBメロになると転調して〈駄目人間ばっか 揃うだけ。毒を吐くだけ吐いてご臨終。〉とほの暗い雰囲気を醸すが、サウンド的には16分のリリースカットピアノのフレーズがどこか軽やかなのが不思議な印象。それに呼応するように歌愛ユキの歌唱も早口になり、〈僕らしく君を救うため 今征くんだ〉とがらりと明るいサビへと展開していく。打ち込みのシンセサウンドやリリースカットピアノを多用した曲作り、そしてキャッチーなサビはGlueのこれまでの楽曲の特徴でもあるが、それがより洗練されたような印象を受け、動画概要欄の「今回は大真面目だし本気。」とのコメントにも頷ける。
稲葉曇
数々の音声合成ソフトがリリースされる中でも最近注目されているのが、音楽的同位体「星界」。MVにある脱力系女子のイラストと自由なメロディ、リズミカルなサウンドの相性の良さが引き起こす中毒性で人気を得ている稲葉曇は、星界を使った新曲「とこしずめ」を発表した。
リラックスしたようなキュートな星界の歌声が稲葉曇の楽曲のメロディの自由さやポップな譜割りにマッチした、どこか能天気で微笑ましい1曲。主旋律並に動きのある自由なギターやベースのフレーズ、AメロからBメロ、そしてサビへの気まぐれで唐突な展開も、星界がリズミカルに、そして淡々と歌うことで違和感なく聴こえ、中毒性を引き起こす要素となる。〈夜空に頭がぶつかって びっくりして目が覚める うらみつらみはもういいや あたしは あたしは あたしはそこにいたの〉という最後の歌詞がこの楽曲の脱力感を的確に表すと同時に、歌詞に漂う不思議で幻想的な雰囲気も魅力的だ。
ボカロックやダークな楽曲、高速でまくしたてる楽曲など、その時々によってボカロシーン全体での傾向や流行りは存在している。最近では、諦観や厭世といった感情がベースにあった上で、あえてポジティブに歌い上げるのか、淡々と厭世を歌うのか、感情を吐露するダークな楽曲に仕上げるのかなど、曲調よりも楽曲のスタート地点に共通点を見出すことができる。とはいえボカロシーンの最大の魅力は、それぞれのクリエイターが好き好きに自身のやりたいことを音楽に反映できること。今後も、どんな各々の得意分野や好みを生かした楽曲が生まれるのか楽しみだ。