大久保初夏、ジョン・リー・フッカーとの出会いから始まった音楽人生 ポップスを通して伝えるブルーズの魅力

大久保初夏、ブルーズに魅了された音楽人生

 3人組のブルーズバンド SHOKA OKUBO BLUES PROJECTのリーダーでもあるブルーズギタリスト/ボーカリストの大久保初夏が、ソロ名義での1st EP『太陽の歌』をリリースする。本作は、ギターのみならずベースやドラムなど、全ての楽器を大久保が演奏。彼女のルーツであるブルーズを基盤としつつも、キャロル・キングやジョニ・ミッチェルなど70年代シンガーソングライターの作品を彷彿とさせるような、オーガニックなサウンドスケープに仕上がっている。

 幼い頃はポケットバイクを乗りこなし、ひょんなきっかけからドラムを習い始めた彼女。それから現在までにどのような紆余曲折があったのか、『太陽の歌』制作エピソードはもちろんそのユニークな半生についてもじっくりと語ってくれた。(黒田隆憲)

『ブルース・ブラザーズ』のジョン・リー・フッカーに感銘を受けた幼少期

ーーそもそも大久保さんは、どんなきっかけで音楽に目覚めたのですか?

大久保初夏(以下、大久保):子どもの頃は、バイク好きの父親の趣味でポケットバイクに乗ってたんですよ。鈴鹿の八耐(『鈴鹿8時間耐久ロードレース』)のオープニングアクトとして大勢の子どもたちと一緒に出場するなど、結構真剣にやっていました。ポケバイからさらに上ランクの「ミニバイク」へと乗り換えてすぐのころ、ある先輩から「バイクを乗りこなすにはリズム感が大事。そのためにドラムをやっている人もいる」という話を聞いたんです。俄然興味を持って、地元にあった音楽教室でドラムを習い始めたのがそもそものきっかけですね。

ーーいきなりすごいエピソードですね(笑)。

大久保:そのドラムの先生がジャズマンで、ライブを観に行ったら「ジャムセッション大会」があって。そこに参加するのがいつの間にか習慣になり、気づけばドラムの魅力にすっかりハマっていました。

ーーブルーズに目覚めたのは?

大久保:映画『ブルース・ブラザーズ』の影響です。父が多趣味で、バイクだけじゃなく映画にも興味があって定期的に家族でDVDを観て過ごしていたんです。おそらく父親としては、『ブルース・ブラザーズ』のカーアクションに惹かれて借りてきたと思うんですけど、私は映画で流れる音楽にすっかり夢中になってしまって。特にマックスウェル・ストリートでジョン・リー・フッカーが演奏しているシーンが好きで、何度も繰り返し観ていましたね。

ーーブルーズのどこに、それほど惹かれたのですか?

大久保:リズムですね。それまでテレビで流れてくるビートは主に8ビートだったし、教室でもそういう曲ばかり演奏させられるものだから、だんだん飽きてきてしまって。そんなときにブギーやシャッフルのようなハネるリズムを聴いて、びっくりしてしまったんです。「なにやってんの、この人たち!?」って(笑)。親も、まさか自分の子がそんな古い時代の音楽に夢中になるとは予想もしていなかったはず。私にとってはめちゃくちゃ新鮮だったんですけどね。

ーーそこからどうやってブルーズを掘っていったのですか?

大久保:当時インターネット上で主流だった「電子掲示板」に、「日本でブルーズに詳しい人は誰がいますか?」と質問を投げたところ、いろんな人が情報をくれたんです。近藤房之助さんやTAD三浦さん、永井“ホトケ”隆さん、憂歌団の木村充揮さんなどの名前をそこで知って、その方たちのライブを観に行ったり、実際に房之助さんのところへ行って「私、ブルーズのドラマーになりたいんです」みたいな直談判をしたりしていました(笑)。「じゃあ、1曲叩いてみる?」みたいな感じで、みんなすごく優しく接してくれましたね。

ーーその頃はまだ小中学生だったんですよね。

大久保:振り返ってみると、当時が一番忙しかったかもしれない(笑)。年間100本以上ライブをやっていたし、夏休みはツアーに出てほとんど家に戻らないような状況だったので。

ーードラムからギターに転向した経緯は?

大久保:当時の私は「セッションドラマー」として食べていくのが夢だったんですけど、周りに好かれるドラマー、仕事がたくさん舞い込んでくるドラマーというのは、ギタリストやボーカリストの気持ちが分かる人なんだろうなと周りの先輩たちを見ていて思ったんです。「じゃあ、どうすれば好かれるドラマーになれる?」を考えたときに、まずはギタリストの気持ちになってみることが大切なんじゃないかと。それでギターを持ち、歌うようになったのがそもそものきっかけです。

ーードラムを上達させるのがそもそもの目的だったと。始めてみてどうでした?

大久保:やっぱり難しかったです。ドラムって、どちらかというと体全体で表現する楽器じゃないですか。それに比べるとギターはもっと繊細なニュアンスを表現するなど、頭で考えなきゃいけないことが多いんですよ。なので弾き始めたばかりの頃は、窮屈な感じが正直ありました。思ったように弾けないのも悔しいし、「私はドラムの方が好きだけどね」みたいなエクスキューズをした時期もありましたね(笑)。でも、自分がギタリストとして組んだバンド「RESPECT」の活動がどんどん忙しくなってきて、いつの間にかギタリストになっていました。

ーー当時高校生だった大久保さんが、同級生と組んだブルーズバンドがRESPECTですよね。どうやってメンバーを見つけたのですか?

大久保:同級生の中に、私ほどブルーズにハマっている人はいないから(笑)、ちょっとでも音楽に興味を持っているポップス好きの友人が「楽器、弾いてみたいんだ」なんて言おうものならすぐ家に連れて帰ってきて。「こういう音楽が昔あったんだけど、一緒にやってみない?」みたいな感じで地道に洗脳していきましたね(笑)。その時のベーシストで今、プロとして活躍している子もいたりするのですが、とにかく10代の頃はそうやって仲間を周りに増やしていきました。

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