三上ちさこ×根岸孝旨×保本真吾、大胆なチャレンジから生まれた新たな代表曲 fra-foaを通して実感した“自分自身の可能性”
「内側にあるものを信じられた時、誰かと繋がっている感覚になれた」(三上)
ーー「レプリカント(絶滅危惧種)」はイントロからシンセの鳴りが印象的で、最初は「無機質な曲なのかな」と思ったんですけど、2番が終わったところで一気に温かいストリングスが入ってきて、孤独を優しく包み込むようなアレンジになっていますよね。まさに暗い場所から明るい場所に出られた感じがしました。
根岸:ストリングスを頭から入れないっていうのは僕の作戦でした。生のストリングスって、人間が聴いて一番安心する音じゃないかって思うんです。デカいギターやドラムの音を聴いて安心するのはロック好きな人だけだと思うので(笑)。だから頭からストリングスで安心させるよりも、途中から希望の光を導くように入れるのが良いと思ったんですよ。1番の暗闇でもがいている雰囲気は、西川くんのギターがいい味を出していてさすがだなと思います。
ーーそういったアレンジは歌詞に吸い寄せられたところも大きいと思いますが、三上さんはこの曲にどんな想いを込めていたんでしょうか。
三上:コロナ禍で社会から分断されて、孤立しているなと思った時に作った曲なんです。人と会ってコミュニケーションが取れなくなって、ネットで繋がる時間の方が長くなったじゃないですか。それによっていろんな情報と繋がれるようになったって錯覚するけど、実際は自分にとって気持ちのいい情報しか選択していないから、思考も単一的になってきちゃう。ネットのコミュニケーションは相手の一部分だけを切り取っているだけだから、本当に相手の状況を理解して話せることってないと思うんですよ。実際に会って、その人の存在や空気感を感じながら話すのは必要だなって改めて思ったし、その温度を感じられないからSNSってすごく攻撃的になってしまうのかなと。そういうことを考えながら書いていきました。
ーーわかります。1つ思うのは、そうした孤独や孤立を感じた時、三上さんは空や宇宙のような巨大なものと対峙しているイメージがあるんですけど、それはどうしてなんでしょう?
三上:思考の癖かもしれないです。現実にばかりに目を向けてると、いろんなことにとらわれてがんじがらめになって苦しくなっちゃうんですけど、視点を変えて宇宙から見てみたりすると、解放される瞬間もあるので。
ーーfra-foaの歌詞では空を前にして立ち尽くしていた印象でしたけど、今回「レプリカント(絶滅危惧種)」では天に向けて思い切り愛を叫んでいますよね。三上さんのスタンスが明確に変化したんじゃないかと思うんですけど、どう感じていますか。
三上:やっぱり小さい頃に兄が亡くなった経験が自分の中ですごく大きくて。当時は死ぬっていう感覚がわからなかったから、火葬場で「お兄ちゃんはどこに行ったの?」って親戚に聞いたら、「お兄ちゃんは灰になったんだよ」って言われて「ええっ」と思って。その後、夜道をお母さんと一緒に帰ってる時にも「お兄ちゃんはどこに行ったの?」って聞いたら、「あそこで光る星になって、いつでもちさこのことを見てるから。寂しくなった時は空に叫べばいいんだよ」と言われて、大きな声で「お兄ちゃーん!」って本当に叫んだりしてたんですよ。孤独を感じる時に空を見るっていうのはそういう理由もあるし、死について考えるようになったきっかけでもあるんです。
ーーなるほど。
三上:ずっと自分の中に“絶対”はないし、ましてや他人に対して“絶対”と思うことなんてないだろうと思ってたんですけど、子供が生まれたことがきっかけで「絶対に変わらない気持ちってあるんだ」と思えて。誰がどう言おうが関係なく、自分の内なる気持ちを信じられるようになったんですよね。それによってライブをやってる時も、自分の内側からだんだん膨らんでいくエネルギーがあって、聴いている人もそれぞれ内側にエネルギーを持っていて、それがひとつになって共鳴し合うみたいな感覚に変わったんです。そうやって感じる“内なるものを信じることで広がる至福感”と、死ぬ時に感じる“1つの場所に帰っていく至福感”って、同じなんじゃないかっていう気がして。だから孤独な時も答えを空に求めるのではなく、もともと自分の内側にあるものが答えなんだって考えるように変わったことで、誰かと繋がっている感覚になれたんですよね。
ーー自分の内側に向かっていくことで辿り着いた言葉が、〈誰もが同じ孤独抱え生きている〉という歌詞になっていますよね。
三上:そうですね。昔は星みたいに人と人が点在していて、孤独を抱えている人に向かって通信するようなイメージで歌ってたんですけど、今はそうしなくても、内側にあるもの同士が地面の下で繋がっている感覚があるというか。通信しなくても共有できてるような気がするので、自分の中にあるものを豊かにしていけば、結果的に広がっていくことと一緒なんじゃないかなと思えたんです。
ーーそう思えたことで、実際に他人や自分自身との向き合い方も変わったんでしょうか?
三上:今は情報が錯綜している時代だから、自分が信じたいと思ったことがその人にとっての真実になるじゃないですか。その分、もし意見が合わないと思ったらそこに関して距離を置くことで相手を尊重できるし、それが共生するってことなんじゃないかなと思って、逆に無理やり自分の思考に巻き込むのは、共生とは言えないんじゃないかなと思ったんですよね。それも相まって身の回りにある幸せや、自分の内側にあるものでポジティブになれるんだってことにも気づけたので、そういう感性こそ人間が持っている尊さであり、美しさなのかもしれないって思いました。自分の音楽も、誰かがそこに気づけるきっかけになればいいなと思ったんですよね。
ーー自分の中にあるもの自体が可能性なんだって気づけたら素敵ですし、歌詞の最後の1行〈誰もが同じこの地球の希望〉にも繋がってきますよね。
三上:そうそう。みんな、相手も自分と同じ人間なんだって思える世の中には、まだなれていないと思うんですよ。だから戦争だって起きるわけだし。でも、それを求めて叫ぶことには意義があると思っているので、これからも叫び続けていきたいなと思っています。
ーー三上さんが歌ってきたこと、そしてこれから歌いたいことが詰まった素晴らしい曲だと思います。
三上:ありがとうございます。これからも、聴いてくれた人が自分の中にある生命力や可能性に気づけるような歌を歌っていきたいですね。
ーー最後になりますが、改めて根岸さんと保本さんにとって三上さんとはどんな人でしょうか?
根岸:……その質問は全く想像してなかった(笑)。
三上:あははは。
根岸:不思議なもので、妹でもあり姉っぽいところもある人ですよね。今は母親になったから、出会った時のようなあどけなさはもうないんですけど、だからと言って“お母さん”というイメージもあまりなく。年の離れた妹なんだけど、フッと会うと姉みたいな感じもするし、姉妹が両方いるっていう感じの人ですね。
三上:そんなこと言われたことないです(笑)。
ーー(笑)。
根岸:でもひと言で言うと、めちゃくちゃ気が利く人です。レコーディングでも、「アーティストなんだからそんな気を遣わなくてもいいのに」って思うくらい優しいですよ。
ーー保本さんはいかがですか。
保本:音楽界の宝だなと思ってます。主婦業をやっていた彼女を音楽界にもう一度引っ張り出したのは自分なので、その責任もやっぱりあって「なんとかしなきゃ」と思ってもがき続けてきたんですけど、今はそれも乗り越えて気持ちも新たに、これからが楽しみだなと思っています。リスニング方法もCDから配信に変わって、プロモーションのスタイルも何から何まで変わったので、何がヒットするかわからない時代ですよね。そういう意味では、自分たちがいいと思ったことを信じてやり続けるしかない。その強さは、三上が持ってるものだなと思っています。それがあればまた何かでムーブメントが起きるんじゃないかなとも思っているので、信じて一緒にやり続けたいですね。
※1:https://realsound.jp/2022/05/post-1040303.html
■リリース情報
三上ちさこ「レプリカント(絶滅危惧種)」
作詞作曲:三上ちさこ
編曲:根岸孝旨、保本真吾
2022年7月6日(水)配信リリース
ダウンロード/ストリーミングはこちら
【オフィシャルHP・SNS】
三上ちさこオフィシャルWebサイト:https://www.mikamichisako.net/
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