DISH//、矢部昌暉不在で発揮されたバンドの底力 4人の想い込めたセットリストで挑んだ10周年ツアー横浜公演

 と、ここまでは“イレギュラーによって発揮された底力”について書いたが、バンドがまた一つ突き抜けられた理由はそれだけではない。「birds」演奏前に北村が「あの時理解できなかった歌詞の奥の底、根っこの部分が大人になってから分かった」「もう1回青春してるなって思えてます」と語っていたように、彼らが現在取り組んでいる“再青”プロジェクト(=過去にリリースした曲を今の4人の演奏でリテイク)がバンドにもたらしたものは大きいようだ。北村のソロ曲「明日を見つめて」をはじめ、珍しい曲がいくつかセットリストに入っていたのは、10年のディスコグラフィを今の自分たち目線で見つめ直した結果からかもしれないし、“一人じゃない”、“ゆっくりでいいから一緒に進もう”と歌う曲が多く含まれたセットリストには、4人の想いが込められていたことだろう。

橘柊生(DJ/Key)

 セットリストについてもう少し触れておきたい。個人的に最も胸を熱くさせられたのが、泉の魂のフィルインから「SING-A-LONG」が始まり、橘&北村がバトルするようにラップする「Rock Your Body Rock」、「B-BOY」を経て、「東京VIBRATION」で激しく踏み鳴らされたバスドラ、掻き鳴らされたギターの余韻が残る中で、「今しかできない、今日しかできないライブを! 声出せないこの環境でも、もっと気持ちで来いよ!」(北村)と「Seagull」に突入するという終盤の展開。「SING-A-LONG」が“クライマックスの入り口”的な役割を担ったことを意外に思うとともに(ライブで頻繁に登場しない曲のため)、バンドのテンションの持っていき方が今までにない種類のものだと感じた。こういった意外な采配も“再青”プロジェクトの賜物であり、もしも楽曲の再解釈が“どの曲がハイライトになるのか分からない”、いわばどの曲もハイライトになり得るという新鮮な空気、新しいグルーヴをバンドにもたらしているのだとすれば、これほどワクワクすることはない。

泉大智(Dr)

 そう考えると、8月27日の富士急ハイランド・コニファーフォレスト公演、そして12月24日、25日に大阪城ホールと国立代々木競技場 第一体育館で行われる初のアリーナ公演『DISH// ARENA LIVE 2022』もまた、これまでにないライブになりそうだ。そしてDISH//の“今”はやはり見逃せないという結論になる。

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