INORAN、ソロデビュー25周年に残したアコースティックライブの空気 楽曲との“信頼関係”が生み出す対話のようなリアレンジ

INORAN、アコースティックアルバムでの新しい楽曲の解釈

 INORANがソロデビュー25周年を記念してニューアルバム『IN MY OASIS Billboard Session』をリリースした。本作は2019年からBillboard Liveで行っていたアコースティックライブをベースに制作されたもので、ソロの代表曲のリアレンジを中心にカバー曲と新曲も収録されている。今回のインタビューでは、アコースティックアレンジの裏側はもちろん、25年のアーティスト人生を振り返る上でのターニングポイントについても語ってもらった。(編集部)

あるもので補い合う形を学ぶことができた

INORAN 『IN MY OASIS Billboard Session』ティザー

──今回のアルバム『IN MY OASIS Billboard Session』のベースになっているのは、2019年1月から始まったBillboard Liveでのアコースティックライブですが、このスタイルでやろうと思ったきっかけは?

INORAN:スタッフの方々から「やってみませんか?」っていうお誘いがあって、自分がやったことがないフィールドだったので「やってみようかな」と。それが2019年、Billboardでの初ライブでした。

──INORANさん自身はアコースティックライブにどのような印象を持っていましたか?

INORAN:アコースティックライブ自体には、かつての『MTV Unplugged』のようにラグジュアリーな印象があって。これまでレコーディングでは弦楽器を重ねることもあったんですけど、自分の曲にそういうアレンジを施したらどう変化するのか、自分自身も聴いてみたいなと思っていましたし、それを試すいい機会かなと思ってチャレンジしてみました。

──当初から葉山拓亮さん (Pf)、Yuiさん(Vn)、島津由美さん(Vc)との4人編成でライブを行なっていますが、アレンジはどういう形で進めていったんですか?

INORAN:基本的には葉山くんにお願いしつつ、弦のアレンジや曲のムードなどリアレンジする方向性は一緒に考えたりしました。

──アコースティックアレンジに適した曲、逆にやりにくい曲というのもあったんでしょうか?

INORAN:最初は、エレキの弦楽器主体の曲や、リズムがキモの曲など、向き不向きでチョイスしていたのですが、何回もやっていくと何でもリアレンジできるなと思うようになりました。

──実際、曲作りはギターやピアノを使って、メロディを軸に進めていくことが多いかと思います。そう考えると、軸にあるメロディがしっかりしていれば、味付けがどう変わろうと問題ないと。

INORAN:うん、そうですね。ただやっぱり、バンドセットでこのドラムのパターンがキモとかベースのフレーズがキモという曲は、それがないと成立しない場合も多いですけど。

──アルバムには打ち込みのリズムが入っている楽曲もありますが、基本的にはリズム隊のいない編成でアレンジしていくことで、新たな発見も多かったのかなと思います

INORAN:これは制作していて感じたことなんですけど、例えばバイオリンでもチェロでもピアノでもギターでも、アコースティック編成の中でそれぞれがリズムを補おうとしていると思うんです。もしここにリズム楽器が入っていたとしたら、ピアノもこういう展開ではないし。だから、その中にあるもので補い合う形は学ぶことができたんじゃないかな。

「これが最後になるかもしれない」という心づもりで

──進めていくうちにそういうものが、必然的に生まれてきたという。その2019年から始まったひとつのプロジェクトが、INORANさんのソロデビュー25周年という節目のタイミングにアルバムとしてまとめられたわけですが、アルバムの制作はINORANさんからの提案だったんですか?

INORAN:これもスタッフから「どうかな?」という提案があって。もちろん、僕自身も何度もBillboardでライブをやってきたことで、自分の中でもBillboardという大切なカテゴリーが出来上がっていたので、いつか音源化したいなとは思ってました。このタイミングでそういう話が出て、なおかつBillboardとタッグを組んで進めるというのは、運命かなと思って。それで、Billboard Live YOKOHAMAで実際にライブをやる感覚で、そのままレコーディングをしました。

──スタジオで作り込むのではなく、あくまでBillboardでのアコースティックライブの空気を詰め込もうと。

INORAN:そうです。だから、お客さんが入ってないライブ、そのままの雰囲気が出ているんじゃないかな。せっかくなら、その空気を伝えたいというのが第一でしたからね。

──収録曲の選曲は、これまでやってきたアコースティックライブで披露した曲が中心?

INORAN:比較的最近やっているアレンジが中心なので、わりと最新のものです。

──メロディや歌詞は耳馴染みがあって知っている曲ばかりなのに、リアレンジされたことでイントロから新鮮だし、新曲を聴いているような印象もありました。

INORAN:ありがとうございます。確かに、その曲の別の表情を見てみたいという思いはありましたね。とはいえ、まるっきり新曲ということではなくて、リアレンジして表情豊かにしていく感じが近いのかもしれません。

──表現的にも音数が限られることで、歌の比重がちょっと大きめになると思うのですが、そこに関して変化は感じましたか?

INORAN:やっぱり、こういうアレンジだとほかの楽器と混ざり合う面が広くなると思うんです。それによって、自分の歌自体もすごく立体的になったんじゃないかと感じています。

──確かに、この編成で聴くと歌が立体的に浮き上がってくる印象はありますね。加えて、INORANさんのシンガーとしての表現力の幅や存在感も、どんどん増していると思っていて。そういった成長の成果を示すことができたアルバムでもあるのかな、と感じています。

INORAN:シンガーとしての経験を積んできたことで、その手法や論理、理屈が自分の中で確立されて、効率性を上げることができているんじゃないかな。でも、いつ何があるかわからないというこの数年を経験している中で、与えられた場所や時間の中で表現しなきゃいけないなと考えると、歌うことに関して自ずと雑念はなくなってきますよね。

──それが、声にも表れているんでしょうか。

INORAN:それは歌っている僕自身にはわからないですけど(笑)。やっぱり、どこまで行ってもどこまで進んでも課題は残るから。それは歌然り、ギター然り。だけど、ライブでもレコーディングでも「これが最後になるかもしれない」という心づもりで、常に後悔しないようにしなくちゃいけないなと思いながら臨んでいます。

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