Mr.Children、30周年記念ツアー『半世紀へのエントランス』日産スタジアム公演完全レポ 彼らにしか実現できない奇跡的ステージ

 メジャーデビュー30周年を記念した全国ドーム&スタジアムツアー『Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス』。ツアー終盤となる日産スタジアム公演で彼らは、スタジアムバンドとしての凄みと強さ、そして、リスナーに寄り添い、歌を届ける姿勢を真っ直ぐに示してみせた。ミクロとマクロを兼ね備えた、このバンドにしか実現できない奇跡的なステージだったと思う。

 会場に入ると、人で埋め尽くされたスタンドが目に飛び込んできた。6月12日の観客数は約7万人。こんなにも大勢の人が集まっている状態のスタジアムは本当に久しぶりだ。もちろん、ここにいる全員がMr.Childrenの音と言葉を待ちわびている。天気の良さも相まって、どうしても高揚感を抑えることができない。

 そして17時過ぎ、ついにライブの幕が開けた。巨大なスクリーンに森や海の中、都市の風景、ハグする男女、回転扉や架空のタワーをモチーフにした映像が映し出され、OPENING SEが響き渡る。ステージを覆っていたスクリーンが上がると同時に、桜井和寿(Vo/Gt)がギターを鳴らす。「終わりなき旅」。〈どこかに自分を必要としてる人がいる〉の“自分”を“あなた”と歌い替えたり、〈ただ未来へと夢を乗せて〉というフレーズを桜井の歌だけで表現するなど、ライブならではの表現も織り込まれている。アウトロでは、サポートメンバーのSUNNY(Key/Vo)のピアノとともに桜井がこんな言葉を重ねた。

「どんなものにもきっと終わりはあるのだと、今はそう思っています。でも、だからこそずっと! 続いていくことを願って。だからこそ、今ある情熱のすべてを、エネルギーのすべてを音に変えて、声に変えて。今日2022年6月12日、日産スタジアム、人生最高の音をみなさんにお届けしたいと思っています。どうぞ最後までよろしく。僕らが、Mr.Childrenです」

 当然、客席からは割れんばかりの拍手。何というすごいオープニングなんだ……とあっけに取られたのも束の間、鈴木英哉(Dr)のビートに乗せ、「名もなき詩」が聴こえてくる。〈愛、自由、希望、夢(勇気)/足元をごらんよきっと転がってるさ〉というラインから田原健一(Gt)のボトルネックのソロにつながる場面では、さらに大きな拍手が巻き起こった。

 中川敬輔(Ba)の力強いピッキングを軸にした「海にて、心は裸になりたがる」では、桜井が早くも革ジャンを脱ぎ、ハンドマイクを持って左右に広がったステージの両端まで駆け抜ける。サビ後のコーラスで「心のなかで!」「カモン!」と笑顔で誘う姿も眩しい。

 この後も30年のキャリアを象徴するような楽曲が次々と披露された。 「めちゃくちゃ気持ちよくない?! この景色、最高! まだまだ、もっともっとブチ上がっていけるんでしょう? もっともっと楽しんで、みなさんを自由にしたいと思います」という言葉に導かれた「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」。「僕らの代表曲をお届けしたいと思います。いつの日もこの胸に流れてる、そんなメロディを目指して作った曲。その願いが叶ったような気がしています」というMCとともに、サビのフレーズを高らかに響かせて始まった「innocent world」。田原、中川もステージの両端に移動し、観客とコミュニケーションを取る。最初の5曲で巨大なスタジアムは、歓喜と解放感で溢れまくっていた。

 「最高じゃない?! この1週間、ずっと天気予報を見てました。土曜も日曜もずっと雨予想でしたけど、何ですか、この天気は!」と全身で喜びを表す桜井。マスク着用、声出し禁止にも触れ、「この状態でも、もう充分に楽しみ方を知ってらっしゃるようです。そのまま思い切り、最後まで楽しんでください」と語り掛け、観客の心と身体を解き放つ。

 「ようやくライブというホームグラウンドに帰ってきました。“ただいま”“おかえり”という気持ちを込めて、この曲をお届けします」と披露されたのは、「彩り」。曲中の〈ただいま〉〈おかえり〉というコーラスはメンバー全員で合唱。また、〈なんてことのない作業が回り回り回り回って/今 僕の目の前の人の笑い顔を作ってゆく〉というフレーズを、ライブという場所で聴けたことにもグッと来てしまった。そこには、常にファンのことを考えながら歩んできたバンドメンバーの思いがたっぷりと込められていたからだ。

 「口笛」も、ライブ前半の大きなポイントだった。「こんな僕らの現在(いま)がもう2度と途切れないように、この曲を」という桜井の言葉にリードされたこの曲は、“君”という存在と温もりがあれば、戸惑いや不安を乗り越えて、いつまでも歩いていけるはずという願いを込めたミディアムチューン。一つひとつの言葉を優しく手渡すようなボーカル、そして、歌に込めれられた感情に寄り添う演奏も素晴らしい。

 ライブスタートから1時間が経ち、少しずつ日が陰りはじめる。アリーナの真ん中に設置されたサブステージに移動した桜井が、「席を一つずつ開けなくていい、この状態でライブができるのは本当に最高です。言葉に出せない代わりに、温かい拍手があってすごく嬉しい」と話した後、田原のアコギ、SUNNYの鍵盤とともに、初期の名曲「車の中でかくれてキスをしよう」を披露。「車の運転席にいる想定で」と椅子に座り、切なさと美しさをたたえた恋愛の場面を描き出した。さらに中川、鈴木のリズム隊が加わり、「Sign」を演奏。すぐそばで音を奏で、歌っているような親密さを感じ取ることができた。

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