秋山黄色、“第三次衝動”で威力増すアンサンブル 爆発的なエネルギーで会場を熱狂させた夜
秋山は観客に「一体感ではなく、自然に湧き上がってくるものが見たい」「自由に楽しんでほしい」と伝えていたが、おそらくバンド自身も“自然に湧き上がってくるもの”を大切にしているのだろう。その結果として、今回のツアーは秋山自身も「一回一回の公演でものすごく内容が違う」と感じるようなものになった。この日のライブではキーボードを弾いていたが、他の公演ではトランペットを吹くこともあったそうだ。「“音楽、楽しいな”って思える手段を血眼になって見つけている。飽き性なので」と語る秋山にとって、普段ライブで演奏しない楽器を持ち込むこと、何かが起こるのを期待して新しい要素を取り入れることは、徒然と過ぎていく日々への抵抗。だからこそ彼は「日常生活の中にある怒りや悲しみ、悩みではなく、虚無感こそが一番の敵」「俺にとっては虚無感と戦う手段が音楽」とも語るのだろう。
ここでアルバム『ONE MORE SHABON』の話に移る。「ナイトダンサー」をはじめ、アルバム全体を貫く“夜”のモチーフについて、インタビューで「『ナイトダンサー』の『ナイト』というのは、クラブで夜踊るということではなくて、人間が夜にもがき苦しむのはダンスみたいだという意味です。僕は人がそうやってもがいてキツい生き方をしているときの強がりは本当に素敵だなと思う」と話していた秋山(※1)。“夜がない場所”について歌ったアルバムのラストナンバー「白夜」から始まり、“夜”の曲を次々と披露、そして心の変動一つひとつがシャッターチャンスなのだと歌う「シャッターチャンス」で本編を終える構成の今ツアーのセットリストを元に、時にはしゃぎ回るように、時に苦しみに打ちひしがれるように、表現に没頭するバンドのサウンドはまさにダンスしているようだった。そういった音楽を放つ行為は、今この場所に集まった人々それぞれの心の動き、ライブハウス外での生活も含む彼ら彼女らの背景への肯定といえよう。
真摯なメッセージを伝えた全国ツアーを経て、10月には初のホールツアーに臨む秋山黄色。そのステージではいったいどんな姿を見せてくれるのだろうか。
※1:https://natalie.mu/music/pp/akiyamakiro03