新連載「lit!」第6回:DECO*27、メドミア、r-906、袖野あらわ……ボカロシーンの試行錯誤と新展開が垣間見える楽曲たち

「まにまに」r-906

まにまに / 初音ミク

 ボカコレ2022春のボカロオリジナル楽曲ランキングで見事1位を獲得したのは、「パノプティコン」や「三日月ステップ」で人気を博したr-906による、飛び道具のようなエッジの効いた「まにまに」。全4分28秒の中で、冒頭のミクの歌唱パートの後なんと、およそ2分間に渡るインストが続く。アンビエントなサウンドから最高潮のドロップに達するフューチャーベースに津軽三味線が盛り込まれた、独特の「和EDM」に仕上がっている。

 MVの中では弓道着姿のキャラクターが弓矢を構え、徐々に射る体勢に入っていく。一体何を狙っていて、それを射るとどうなってしまうのか。ライザー、シンセサイザー等で徐々に盛り上がりへと向かっていくインスト部分のじりじり感も相まった不思議な緊張感ののち、そこからドロップで一気に解放される快感と意外な射手の結末をぜひ見届けていただきたい。

 また、r-906は5月3日にこの楽曲を解説する配信を行っており、サウンド面の細かなこだわりなども知ることができる。それによると、サビのメロディを思いついたのは「パノプティコン」「モノクロセンス」と同時期だそう。過去曲とあわせて視聴して、理解を深めてみてはいかがだろうか。

まにまにの解剖と津軽三味線

「無題 ep.01」袖野あらわ

無題 ep.01 / 初音ミク

 ボカコレルーキーランキングで3位にランクインしたのは、これが3曲目の投稿となる袖野あらわの「無題 ep.01」。泡、海底、魚など水に関連するワードが多数ちりばめられ、苦しみから逃れて水中に沈んでいくようなさまを描いていた前作「Deep」。その前日譚だという「無題 ep.01」のMVでは、散らばった薬と倒れ込んだ制服姿のキャラクターが描かれており、歌詞にはやるせない諦念が漂う。「無題 ep.01」というタイトルを見ても、「Deep」に至るまでの主人公の物語が、これ以降の楽曲で明かされていくのではないかと思わせる、物語性の強さを感じさせる。

 サウンド的には、ガラスの割れる音、無音の1秒、ノイズ、人間の息使いなど、耳を澄ませたくなるギミックが凝らされている。高速BPMやボーカロイドによる早口の歌唱、音数の多さなどが「いわゆるボカロらしい楽曲」の特徴であったが、この「無題 ep.01」や「まにまに」のような、あえて「間」を作ってサウンドをしっかり聴かせるようなスタイルの楽曲がランクインしているのを見ると、ボカロが音楽の1ジャンルとして定着するとともに成熟期に突入している中、ボカロシーンの試行錯誤と新たな発展が垣間見える。

参考:ボカコレランキング
https://vocaloid-collection.jp/ranking/top100/

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