野宮真貴が振り返る、ピチカート解散以降に訪れた転機の出会い 川勝正幸、フェルナンダ・タカイらとの意欲的な音楽制作

野宮真貴、ピチカート解散以降に訪れた転機

目の前のカードをひっくり返せるんじゃないか

Nagoya - Fernanda Takai & Maki Nomiya

ーー2009年には、ブラジルの女性シンガー、フェルナンダ・タカイとの連名でミニアルバム『MAKI-TAKAI NO JETLAG』を発表しています。

野宮:日系三世のフェルナンダがボーカルを務めるPato Fuというバンドのメンバーは、渋谷系の影響を色濃く受けてるんですよ。つまり、ピチカートの大ファンでもある。それで、2008年にフェルナンダがとあるフェスにソロとして出ることになった時、私と一緒に歌いたいと、ゲスト出演のオファーが舞い込んだんです。喜んでお受けしましたよ。

ーーそのフェスの会場というのは?

野宮:ブラジルです。いざ駆けつけてみたら、現地では、彼女は押しも押されもせぬ堂々たる大スターなんですよ。ベラオリゾンテという街にある自宅にもお邪魔しましたが、スタジオも備えた大きなお屋敷でした。棚には、ピチカートのCDをはじめとする渋谷系のコレクションがずらりと並んでいました。リスペクトを感じましたね。

 ちなみにフェルナンダ・タカイさんは2021年のラテングラミーのアルバム賞にノミネートされていて、アルバム『Será Que Você Vai Acreditar?』の「LOVE SONG」という曲は私とフェルナンダさんのデュエットソングです。こちらもぜひ聴いてほしいです(※1)。

Love Song

ーーブラジルを訪れたのはその時が最初ですか。

野宮:はい。90年代半ば以降、ピチカートがワールドツアーを開催した時、実はブラジルにも来てくれないかという打診があったんです。ただ、欧米中心の日程を組んでいたから、遠い南米までは足を運ぶことが難しかった。なので、やっと願いが叶った気がしました。ライブの後、現地のクラブで浴衣を着た私がDJをした時は盛り上がりましたね。みんな日本語を勉強していて、日本語で話しかけてくれるんです。結局、ブラジルには2度行きました。

ーーその縁から、ミニアルバムが生まれることになったわけですね。

野宮:さっき触れたフェスで録音した1曲以外は、すべてデータのやり取りだけで制作しました。そういうレコーディングは初めてだったので、新鮮でした。

ーーカバー曲が楽しい。いしだあゆみさんの「ひとりにしてね」は、大ヒット曲「ブルー・ライト・ヨコハマ」同様、作詞は橋本淳さん、作曲は筒美京平さんが手がけています。この黄金コンビの洗練された音楽性が、改めて浮き彫りにされたと感じました。

野宮:フェルナンダが昭和歌謡を歌いたいと言ったので、私がいろいろとセレクトしてあげたところ、彼女がこれを採用したんです。

ーーピチカート・ファイヴとPato Fu、双方の出身バンドのレパートリーもリメイク。ピチカートからは、「メッセージ・ソング」が選ばれています。

野宮:エモーショナルだった原曲とは全然違う、オフビートなアプローチが面白いですよね。やっぱり、海外の視点には新しい発見があります。最近も、Kono Y Los Chicos De Cubaというキューバのバンドが「東京は夜の七時」をサルサバージョンでカバーしてくれました。それを聴いて喜んだ小西さんが、さっそくCDに推薦コメントを寄せてましたよ。もちろん私も推薦コメントを書いています。

ーー「東京は夜の七時」は、2016年のリオデジャネイロ五輪の閉会式においても、リオと次回の五輪開催地である東京をつなぐ象徴的なBGMとして使用されました。渋谷系というジャンルを超え、ワールドワイドな存在感を放つナンバーと化しているんですよね。

野宮:今年リリースしたばかりの私のデビュー40周年アルバム『New Beautiful』では、World Tour Mix“と称して、SNS界でも話題の若い世代のミュージシャンに、ピチカート・ファイヴの曲をアレンジしてもらってセルフカバーをしています。韓国のNight Tempoが「東京は夜の七時」を、タイのプム・ヴィプリットが「陽の当たる大通り」をアレンジしてくれました。「スウィート・ソウル・レビュー」は日本のevening cinemaがアレンジして、レイニッチとデュエットしましたね。

野宮真貴「東京は夜の七時 (feat. Night Tempo )」/ Maki Nomiya ”The Night is Still Young (feat. Night Tempo) "
■野宮真貴 - スウィート・ソウル・レヴュー duet with Rainych, feat evening cinema Music Video

ーー世界のミュージシャンたちに対する絶大な影響力を目の当たりにすると、ピチカート・ファイヴとインターネット、とりわけSNSとの親和性を痛感します。ピチカートの現役時代にFacebookやTwitterが普及していたなら、さぞかし恐るべき速度でその魅力が拡散されたのではないかと妄想してしまいますよね。

野宮:その分を、今からでも取り返そうと思って(笑)。そういう意味も込めて、全世界への配信を開始して、日本も含めた海外のファンへ音楽を届けていこうと思っています。

■野宮真貴 - 陽の当たる大通り (feat. Phum Viphurit)/On the sunny side of the street (feat. Phum Viphurit)

ーー『Looker』は、有近真澄さんと組んだ2曲入りの作品。有近さんは、80年代初頭から窪田晴男、ECDといった才人と関わりを持ってきた個性派です。T.V.JESUSというユニットでは、野宮さんの盟友である寺本りえ子さんとも組んで活動していました。ちなみに、作詞家の大御所たる星野哲郎さんの長男に当たります。

野宮:シアトリカル・コンサートにはこの上ない充実感を覚えたんですけど、かなり大がかりだから、そうそう何度もやすやすとステージにはかけられない。もうちょっとコンパクトに、機動的な形でツアーに出られるフォーマットはないかと考え、DJと私の二人で全国のクラブを巡ってライブを打つための楽曲を制作したんです。

ーーケレン味に満ちたグラムロックが、野宮さんに見事マッチしていますよね。さて、<ジェマティカ>での日々を経て、2010年代半ばからは、『野宮真貴、渋谷系を歌う。』と冠したアルバムを次々と発表していくことになります。

野宮:一時代を築いたジャンルの常として、渋谷系という言葉も、ネガティブにとらえられていた時期があった。そして渋谷系はおしゃれな部分ばかり強調されて、楽曲にフォーカスが当たることがあまりなかった。でも私にとってピチカート・ファイヴやオリジナル・ラブ、フリッパーズ・ギターの曲は本当に名曲ばかり。私はシンガーとして彼らの曲を歌うことで伝えたいと思ったし、その中心にいた張本人があえて自らそのムーブメントの記憶を前面に押し出すことで、目の前のカードをひっくり返せるんじゃないかと考えたんです。

ーー下手したら開き直りともとらえられかねないその冒険的な振る舞いは、実際、世間の価値観を転換させました。シティポップの再評価とも密接につながっているはず。

野宮:渋谷系とそのリバイバルをつなぐ<ジェマティカ>時代の音源は、さまざまなヒントに満ちています。今こそ、聴く価値があるんじゃないかな。ライブでも大切歌っていきたいと思っています。

※1 https://dailyrindblog.com/the-orchard-congratulates-our-2021-latin-grammy-award-nominees/

■リリース情報
▼ジェマティカ・レコーズ(ロードアンドスカイ・グループ)
ピチカート・ファイブ以降2002年から2011年までに発表された未配信楽曲4曲を含む4作品

『Lady Miss Warp』 野宮真貴
GEMMATIKA Records  2002年11月7日RSCM1001
総合プロデューサー川勝正幸、音楽プロデューサー高野寛によるポスト渋谷系アルバム。
草野正宗(スピッツ)、槇原敬之、和田唱(トライセラトップス)、片寄明人(Great 3)、松田"chabe″岳ニ(ニール&イライザ)、コモエスタ八重樫らが参加したピチカートファイヴの解散後、野宮真貴初のソロ・アルバム。

『DRESS CODE』 野宮真貴
GEMMATIKA Records  2004年7月7日 RSCM1002 
〜戦時下のエレガンスを求めて〜「おしゃれ手帳」こと野宮真貴と「レコード番長」こと須永辰緒の出会いが生んだ愛と平和とおしゃれが好きな人たちのためのアルバム。総合プロデューサー川勝正幸。
m-floと横山剣とコラボレーションしたヒット・シングル「COSMIC NIGHT RUN」のリミックスを含む、ボサ & ジャズ率高めの全9曲。全編42分のディナーショウ仕様。参加アーティストはm-flo, クレイジーケンバンド, saigenji, 菊地成孔ら。

『JOY』 野宮真貴
GEMMATIKA Records  2007年3月17日 MINl-0001
音楽とファッションと演劇の融合。野宮真貴の新境地を切り開いたシアトリカル・コンサート「JOY」のサウンド・ドラック。オランダの渋谷系ことリチャード・キャメロンのプロデュース・ワークが光る1枚。世界初配信。

『MAKI-TAKAI NO JETLAG』 野宮真貴&フェルナンダ・タカイ
ロードアンドスカイ音楽出版/大洋レコード 2009年10月20日 TAIYO 0013
2021年ラテン・グラミー賞のノミネーターでもあるブラジルのスーパースターにして、野宮真貴をこよなく愛する“ブラジルの渋谷系“ことフェルナンダ・タカイ(PATOFU)との”デュエット・アルバム”。世界中に広がった渋谷系ムーブメントを象徴する1枚。

『Looker』 野宮真貴
GEMMATIKA Records 2011年7月6日
シアトリカル・コンサートの第2弾「THE LOOKER」のサウンド・ドラック。ピチカート・ファイヴのアルバムにも参加したTV JESUSの有近真澄が楽曲提供。

▼エイベックス・エンタテインメント
『PARTY PEOPLE』 野宮真貴
エイベックス・エンタテインメント 2005年10月12日 RZCD-45258
m-floプロデュースによるヒット曲「Big Bang Romance」も収録!パーティーピープルの、パーティーピープルによる、パーティーピープルのためのアルバム!歌と幹事は、踊る「おしゃれ手帖」こと野宮真貴。
出席したPARTY PEOPLEは、赤木忠治(ex. FILMS), m-flo, 菊地成孔, GTS, 高橋透, 寺本りえ子(OuiOui),パンダとササノハ, FUTON, Heigo Tani(Co-fusion), YAMO(former Kraftwerk member)

野宮真貴 公式サイト
https://www.missmakinomiya.com/

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