SUPER★DRAGON 古川毅『カタリタガリ』特別編 Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸と語る、互いの音楽が果たせる役割
誰かの光になれるSUPER★DRAGONの音楽
――今回、偶然にもSUPER★DRAGONが『Force to Forth』、Lucky Kilimanjaroが『TOUGH PLAY』というニューアルバムを出したばかりですが、お互いの作品はチェックしました?
古川:はい。これまでの作品や去年の3月に出されたアルバム『DAILY BOP』と比べると、Lucky Kilimanjaroならではのポップでダンサブルなイメージは担保しつつ、今までにない影の部分や深み、音楽的な幅の広がりを感じたんですけど、どうですか?
熊木:『DAILY BOP』を作っていた頃はコロナ禍で世の中も僕自身もすごく混乱していました。そんな状況に対する反動でまっすぐポジティブになろうとする気持ちが強かったのかもしれません。それまでにやってきた、難しいことは抜きにして日々の生活の中でただ楽しく踊れるアルバムを作ろうという気持ちの純度がより高い、キャリアの集大成のような作品になりました。
古川:そうだったんですね。
熊木:だからひとつ何かをやり切ったような感覚がありました。そこにコロナとの付き合い方が少し見えてきたことも重なって、次は自分の感情的な動きをちゃんと表現したいと思ったんです。自分が心に抱えている重さと軽さの周期をちゃんと曲に込めて繋げていった作品が今回の『TOUGH PLAY』ですね。その結果、バラエティに富んだ、いろんな表現ができたと自負していますし、その部分を汲み取っていただけたように思うので嬉しいです。
古川:そうなんですよね。陰と陽で言うと、今までは陽のエネルギーが強かった気がするんですけど、今回はしっかり陰の部分が見える。でもその重さやしんどさがそのまま乗ってくるどころか、それでもガンガン踊れる。それこそがLucky Kilimanjaroのアイデンティティですごく素敵だと思いました。
熊木:例えば、仕事で嫌なことがあって次の日もまた早めに出勤しなきゃいけないのに朝まで飲んじゃって、明るくなり始めた空を見上げて「なんで朝まで飲んじゃったんだろう」って思いながら聴く音楽がいちばん気持ちいいみたいな感覚が昔からあるんです。
古川:わかります。夜、考えごとをしながら散歩している時に『DAILY BOP』の「夜とシンセサイザー」を聴いて、何が解決したわけではないんですけど軽くステップを踏んでいましたし。
熊木:誰かの負の感情に動きを与えるような曲を作りたいんですよね。結果、その人の心に抱える重さや暗さが解消されるのか、そのままなの何も変わらないのかはわからない。けど、少なくとも作品を聴いている間は同じ地点にはいないというか、まだ心に移動する余地があることを感じてもらえたらいいなって。音楽で光を見せたいとか、元気になってもらいたいとか大きな話じゃなくて。
古川:「元気出せ」と言われても「間違ってない」と言われても、「無理なものは無理」って思うとき、ありますよね。
熊木:誰かの光になれる、誰かに元気を与えられる音楽も当然あって、それこそSUPER★DRAGONはそういうエネルギーを持っていると思うんです。今回のアルバム『Force to Forth』は特に、日々を生きている中で負荷だと感じることに対してアクションを起こそうとする気概のようなものを強く感じました。
古川:ありがとうございます。
熊木:そういうメンバーそれぞれの中に宿るエッジをエンタテインメントに落とし込むことはすごく難しい。ただ自分の心に内燃する疑問やアンチテーゼをぶつけるだけじゃ人の心は動かないと思うんです。人のために音楽をやっているという言い方が正しいのかはわかりませんが、“伝える”ということに対するメンタリティがしっかりしているんじゃないかなと。
古川:コロナ禍にともなう世の中の動きや、ふだん生活しているだけで感じる圧のようなものに対して思うことはたくさんあって、でもその思いをただぶつけるだけじゃいけない。しっかり届く曲になるか、誰の心にどう残るか、リリースから10年経った時に、聴いてくれた人や時代の記録として「こういうこともあったな」と思ってもらえるか。そういう作品にすることは自分たちなりに模索して作ったので、そう言っていただけて光栄です。
熊木:だから、今のエッジを大事にしてほしいなと思いました。とはいえ、人は年齢を重ねるに連れて角が取れて丸くなっていく部分もあると思うんですけど、それも含めてこれからの古川さんやSUPER★DRAGONがどう変化していくのか、すごく楽しみですね。
古川:確かに、そのエッジって年々変化して丸くなっていくのかもしれないです。それ自体は悪いことではないと思うんですけど、大人への階段を上り間違えたらダサくなっちゃうんじゃないかとか、そういう不安も多少なりとも感じています。過去を振り返ってみても、僕は中3くらいから事務所に入って活動をしていて、ようやくどこにでも自分の意思で行けるようになった20歳でコロナ禍に入ったので、もっといろんなカルチャーに触れることができたり、もっと社会と接触を持つことができていたら、今とは違うクールな尖り方もしていたんじゃないかとも思ったりします。
熊木:面白いですね。というのも10年くらい前、僕が大学生だった頃の周りも含めた多くの若者が持っていた、自暴自棄なエッジとはまた違うインテリジェンスを感じるんです。
古川:それはどういうことですか?
熊木:世代や立場関係なくコロナという未曽有の事態に見舞われ、生き方を問われたことで、世の中全体の動きに対するリテラシーや知性がないと戦えない状況になってしまった部分は少なからずあるんじゃないかなと。でもそこで得たことや感じたことは確実に将来的な武器になると思いますし、そういう古川さんのような人たちがどういう歌詞を書いて、どんなトラックを作って、どんな人とどう踊るのか。ここから先は未知の世界。そしてそういう若者のエネルギーが僕にとって大きな刺激になっているんです。
古川:すごく興味深いです。僕はそうやって世代を超えてお互いが認め合い繋がっていくことが豊かな世の中を作っていくうえで大切だと思っていて、そのための鍵としてこの先ポップミュージックやダンスミュージック、ダンスフロアの果たせる役割って大きいなと。
熊木:そうですね。ちょっと前に尊敬する先輩と「ダンスミュージックはコミュニケーション文化だ」、みたいな話をしたことが蘇ってきました。ダンスミュージックやライブを通じて、上の世代や若い世代の人たちが、僕のメンタルや人生の周期に確実に新しい視点を加えてくれている実感は確実にあります。アーティストもオーディエンスも世代や出自によって価値観や思想は違えど、面白いことをやりたい、面白い体験がしたいっていう部分はみんな同じで、そういうことをちゃんと楽しく伝えていける存在にならなきゃなって、今日話していてあらためて思いました。
古川:短い時間でしたけど、僕にとっても貴重な経験になりました。そして僕が熊木さんの人生の周期に立ち会えたことを幸せに思います。
熊木:すごく楽しかったです。ありがとうございました。
※1:https://realsound.jp/2021/03/post-718641.html
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■リリース情報
・SUPER★DRAGON
『Force to Forth』
発売:2022年3月23日(水)
[初回限定盤]
CD+Blu-ray/Booklet(60P)/三方背BOX
価格:¥7,800(税込)
[通常盤]
CD
価格:¥3,300(税込)
『Brand New Music』
2022年5月11日(水)
https://super-dragon.jp/999999999/
・Lucky Kilimanjaro
『TOUGH PLAY』
2022年3月30日
価格:¥2,970(税込)