MAN WITH A MISSIONが連作アルバムで伝える、“壁を乗り越える”という希望 時代の空気を反映したメッセージも
ちょっと視点を変えて、今までやってこなかったことをやっている楽曲が多い
──なるほど。ほかの楽曲についてもお聞きしたいのですが、前作ではインスト形態で収録されていた「Between fiction and friction I」が、今回はボーカルなどを追加して新たな形に生まれ変わった「Between fiction and friction II」として収録されています。こちらは歌詞含め、どういった形で制作が進んでいったんでしょう?
Jean-Ken:前作ではインストで発表したものの、実はもとから歌唱パートを入れることは決まっていたので、サビを追加して録音を進めていたんですけど、それを進めている最中でロシアとウクライナが衝突してしまいまして。そこから、作曲者のKamikazeがTwitterで平和を願う方々の声を募集して、それをもとに歌詞を作り上げていくというアイデアを共有してくれたんです。なので、このアルバムの中では唯一戦争が起きてしまってから、それについて歌うということを決めた楽曲です。
──では、タイミング的にもレコーディング終盤に制作された1曲なんですね。一方で、Jean-Ken Johnnyさんが作曲を手掛けた「blue soul」や「Blaze」「The Soldiers From The Start」、これらの楽曲はご自身の中で思い描いたメッセージやサウンドを、どう形にしていきましたか?
Jean-Ken:「blue soul」に関しては、スポーツ番組のテーマソングを書きませんか? とオファーをいただいて、自分がスポーツに抱いている情熱的な部分、どちらかというと選手本人に焦点を当てて、選手が持っているであろう歴史を描いたドラマチックな楽曲にしたいなと考えました。と同時に、番組制作側はすごく疾走感のある楽曲を希望されていたんですけど、自分はそれだけでは物足りないと思いましたので、ビート的に重厚でもありながら疾走感のあるサウンドを提示させてもらったら、向こうにも快諾していただいたんです。
「Blaze」に関しても、テレビアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のダイジェスト版である特別編が制作されることが決まり、オープニングテーマのお話をいただいてから制作したものです。もともと僕らは『鉄血のオルフェンズ』に「Raise your flag」という楽曲を提供しているのですが、以前お世話になったアニメ作品でもあるので、今回のお話をいただいたときは「すでにやっているし、もう一回やるのはどうなのか?」と躊躇してしまって。ですが、本当にありがたいオファーでしたので、そのお話をいただいてから「Raise your flag」以上に鋼の血と鋼の意志を持った人たちのストーリーを描かせていただいた楽曲です。
「The Soldiers From The Start」に関しては、スマホゲーム『FINAL FANTASY VII THE FIRST SOLDIER』のテーマソングを書きませんか? というお話をいただいてから制作したもので。もともと『FINAL FANTASY』はすごく好きなので、「あのゲームの世界観に合う曲って、どういったものだろう?」と考えたときに、それこそ「Tonight, Tonight」もそうですけど、MWAMの音楽の一番根幹にあるのは「王道のロックサウンドにデジタルサウンドを融合させたハイブリッドなサウンド」をこの21世紀にどう打ち出していくかを突き詰めることだと思ったので、そのジャンル感の中で物語にも合うような歌詞を書いて、提供させていただきました。
──このように、事前にテーマが与えられてから楽曲制作するほうが、ご自身の中でやりやすかったりするんでしょうか?
Jean-Ken:サウンドに関しては自分が聴いてきた音楽や育ってきた時代性を反映させつつ、そこにバンドが出したいサウンドやチャレンジしていきたいサウンドを投影するだけなので、テーマをいただいてもものすごく自由だと思うんです。ただ、歌詞に関してはすでに完成しているプロットに添いつつも自分の哲学や人生観、倫理観を投影するなどやりやすい部分もあるんですけど、プロットや物語に引っ張られすぎてしまう側面もあって。そのバランスを考えるとやりやすさ、やりにくさの両面ありますね。
──ゼロからスタートするわけではないから、そこでのやりやすさはあるものの、一長一短なんですね。
Jean-Ken:いうなれば、僕らはしばらくゼロベースで作っている楽曲というのはないので。
──でも、これだけタイアップソングを作り続けられることって、冷静にすごいことですよ。
Jean-Ken:もちろんありがたい話ではあるんですけど、もしかしたらそういったお話をいただく前にでき上がっている楽曲を、僕らはもっと作っていかなくちゃいけないのかもしれない。そういった意味では、それもまたひとつの課題なのかなと思います。
──アルバム終盤には「Dark Crow」「小さきものたち」といった、新たなアレンジが加えられた既存曲が並びます。「Dark Crow」はよりデジタル色が強まったアレンジに変わっていますね。
Jean-Ken:これは、どちらかというとリミックスに近いアレンジかもしれません。AA=やTHE MAD CAPSULE MARKETSに携わっている草間敬さんにアレンジをお願いしたんですけど、僕自身草間さんの音楽のズブズブのファンですし、この手のエグみの効いたデジタルロック、デジコアに関して草間さんの右に出る者はいないんじゃないかと思っていて。僕らがこれまでのシングルで既存曲のリミックスをいろんなアーティストさんにお願いしているという流れも汲んで、こういったアレンジで収録させてもらいました。
──一方、「小さきものたち」はアコースティックアレンジで収録されています。
Jean-Ken:「小さきものたち」はアルバムの最後の曲として収録することになってから、どういうアレンジにするかといろいろ悩みました。我々がバンド以外の楽器の方に助けをいただくとき、今まではオーケストラのように、かなり豪華でシンフォニックなアレンジになることが多かったんですが、今回はもっとミニマルで演者の顔と息遣いが見えるような、それでいて牧歌的で温かく、人数が少なくても壮大に聞こえるようなアレンジにしたいなと思いまして。谷岡久美さんという『FINAL FANTASY』シリーズの音楽に携わっているピアニストがいらっしゃるのですが、クラシックのみならずケルトミュージックや民族音楽にも精通されている方なので、この方にやってもらうのが一番新しいものが生まれるのかなと思いまして、一緒にやらせていただきました。
──アルバムを穏やかに聴き終えられる1曲になりましたね。
Jean-Ken:そうですね。豪華に大団円みたいな形で終わらせるのはひとつの常套手段だとは思うんですけど、それよりはもっと目の前に突きつけられている優しい歌みたいなほうが、ある意味大団円で終わるよりも心に響くんじゃないかなと思いまして。ほかの曲と比べて異質かもしれませんが、温かい気持ちにさせてくれる終わり方になってよかったです。
──アートワークについても聞かせてください。1作目がモノトーン調だったのに対して、今作はアーティスト写真含めかなり彩り豊かといいますか。この違いにはどういった意図があるんでしょうか?
Jean-Ken:1作目に関しては無機質で、かなりシビアな色使いを意識していて。アルバムタイトルの『Break and Cross the Walls』における、壁を挟んで世の中が抱えている対立や対峙から生まれる問題を描くつもりで、その緊張感をモノトーンで表したんです。一方、2作目においては「Break」と「Cross」、破壊するだけではなくて乗り越えることで生まれる融和を表したくて、あまり色がない世界から色鮮やかな融和がなされた世界を描くように、このアートワークにしました。
──そういう違いなんですね。結果として、1年に満たない期間に2枚のアルバムが我々のもとに届けられたわけですが、この2作を完成させた現時点でのJean-Ken Johnnyさんの手応えや達成感はいかがですか?
Jean-Ken:もちろん達成感はあります。ですが、サウンド面においてもメッセージ面においても、ものすごく目新しいことをやったつもりはないんですよ。ちょっと視点を変えて、今までやってこなかったことをやっている楽曲が非常に多いんです。
歌詞においては、これまではあまり自分自身や自分たち自身に焦点を向けたことがなくて。内省的な歌詞を書くにしても、その主人公を別の役者にやってもらうような感覚で描いていたのですが、今回の2枚の中では、例えば前作の「Anonymous」だったり今回の「Rain」だったりと、書き手本人にカメラレンズのフォーカスを当てている歌詞の書き方をやっていて。めちゃくちゃ変わったわけではないんですけど、ちょっと視点を変えるだけでまた響き方が違いますし、書き手によっても出てくる言葉のノリも変わってきます。
サウンド面においても、自分たちが提示したい音楽のジャンル感やMWAMのど真ん中がわかっているからこそ、ちょっと変わったことをやりたいんであればこういうことかなとか、そのさじ加減も理解できているからこそストレスなく制作できた。そのちょっとした変化においては、何とも言えない達成感を感じているんです。
──ここまで出し切ると燃え尽きてしまう方も少なくないですが、現在のバンド内の雰囲気やモチベーションはどんな感じですか?
Jean-Ken:単純にいうと、ものすごく落ち着いている気がします。僕自身もそうですが、この2枚のアルバムを作ることは物理的に大変だった実感はありますけど、かといって枯れたという感じはしないんですね。それは過去のどのアルバムを作ったときにもありませんでしたが、ただ新しいアルバムを2枚立て続けに出したことでの枯渇感や疲弊感はまるでないです。でも、かといって新しいものをすぐに生み出せるかといったら、それより先にまずは休みたいですけど(笑)。
──(笑)。6月に入ると、2枚のアルバムを携えた全国ツアーも始まります。新曲をたっぷり披露する内容になるのかなと予想しますが、どんなツアーをイメージしていますか?
Jean-Ken:自分たちがアルバムタイトルに込めたメッセージもあって、今のこの時代だからこそこの2枚のアルバムを聴いて味わえるツアーになるんじゃないかな。もっと言えば、コロナ禍でいろいろストレスも溜まっていて、先の戦争でいろいろ思うことがあるという、これまでのツアーと違ってオンタイムでそういったキツい状況を食らっているオーディエンスがこのツアーの空気を作っていくんじゃないかなと。それに乗じて、我々の音楽がどう影響していくのかが楽しみなツアーになりそうです。
──もちろん初日の6月16日までに世の中がどう変わっているのかもわかりませんし、実際にステージに立ってみるまでは共有する空気感もわかりませんが、このツアーはより特別なものになりそうですね。
Jean-Ken:そうですね。もちろんどのツアーも、どの時代に音楽を奏でても、僕らにとってその会場でライブをすることが特別な瞬間になると思うんですけど。その特別さは時代の当事者にしか感じられないことだと思います。
※1:https://realsound.jp/2021/11/post-909744_2.html