aikoが語る、ラブソングを歌い続ける決意 「恋愛の曲を書いていなかったらまったく違う人生を歩んでいた」

自分が作った曲を聴いて闇落ちしてしまうことも

――これまでのレパートリーの中で、今のご自身とのギャップを感じる曲もあったりします?

aiko:今だったら絶対書けないなって思う曲はありますよ。みんなが好きでいてくれるからライブでよく歌ってますけど、「Power of Love」(2ndアルバム『桜の木の下』収録/2000年)なんかはね、タイトルからして恥ずい(笑)。〈あなたが好き/好き好き大好き/Power全開〉とか「ごめんなさい」って感じですよ(笑)。

――いやいや(笑)。それは表現の仕方という部分でのギャップですよね。曲で歌われている気持ちはきっと今も変わっていないはずじゃないですか。

aiko:それはほんとにそう。今も“Power of Love”って思ってますから。でもあらためて聴くとね、(胸を押さえながら)グーってなる部分はありますよ。この間MBSラジオの『Mラジ Music Treasures』っていう番組でaikoの曲を朝の5時15分まで31曲ノンストップで流してもらったんですよ。それを聴いていた私は、すべての曲でそういう今とのギャップとか、いろんな思い出に心がえぐられまくって闇落ちしてしまって。お風呂場の脱衣所でずっと三角座りしながら聴いてました(笑)。

――(笑)。曲に刻まれているものが鮮明に蘇ってくるんでしょうね。

aiko:そうそう! 歌うのは全然平気なんですよ。どんなに辛い状況のことを書いた曲であっても、今の自分として表現できるから、そこで心をえぐられることは基本的にはないんです。でも、当時のままの音源を聴くと声も違うし、レコーディングのときのことまで鮮明に浮かんできますから。ただ、「わー懐かしいなぁ」みたいな軽い感覚で聴けなかったのはいいことなのかなとも思っていて。「一生懸命に曲を作ることができたんやな」っていうことをあらためて感じることもできたから。そういう意味でもほんとにありがたい番組だったなって。

――ご自身では答えづらい質問かもしれないですけど、aikoさんのラブソングに多くの人が共感を抱く理由ってどこにあると思いますか?

aiko:えー! 私が自分の好きなように書いた曲に共感してくれる人がいるというだけでもう嬉しい気持ちしかないんですけど……あえて言うなら、私の曲はみんなと同じ経験を歌っているからなんじゃないかなって思ったりはしますね。例えば高校のとき「めっちゃトイレ行きたかってんけど、デート中やから我慢して行かれへんかってん」「わかるー!!」みたいな会話ってあったじゃないですか。あと、好きな人と一緒にいるときにネイルの先がはがれてしまって、中指だけずっと隠しながらデートをしてたとか。そういう些細な瞬間を私は曲にしているんです。だから、みなさんがそこに共感してくれたり、それで元気になってくれてるんだったらうれしい。同時に、私としては「みんなと一緒でよかった」「自分も大丈夫なんやな」って感覚にもなれるんですよね。

――aikoさんならではの視点で切り取られてはいるけど、そこで描かれている出来事は誰しもが経験し得ることですからね。

aiko:人前では言いたくても恥ずかしくてなかなか言えないことが多かったりもするんですけど、歌詞ではそれが素直に言えるんです。一人称を“僕”にすると、もっと素直になれたりもする。そうやって書いた曲を、私と同じような気持ちで受け取ってもらえることは本当にありがたいですね。

――先日リリースされた最新曲「ねがう夜」も“夢”という身近なモチーフで書かれた曲ですよね。

aiko:そうですね。夢って自分ではコントロールできないものだから、昔好きだった人が思いもよらず出てきて、起きたときにちょっとどんよりした気持ちになってしまうことがあるんです。でも、そうやって夢に出てくるということは、相手に対して悔しかったり、許せなかったりする気持ちと同じくらい、好きという感情があったんだと思うので、そんな想いを曲にしてみました。

――曲で描かれていることと似た経験をした人はきっとたくさんいるはずですよね。

aiko:そうだったらうれしいですね。ただ、私としては違った受け取り方をしてもらっても全然いいんですよ。実際、この曲を聴いた女友達は今の彼氏と上手くいっていなくて、元カレのことをよく思い出すらしくて。だからこの曲を聴いたときに、夢に元カレが出てきてドキドキする内容なんだなって思ったみたいで。

――なるほど。そういう聴き方もできるかもしれない。

aiko:みんなそれぞれいろんな状況、境遇がありますからね。どんな形であれ、そこに寄り添うことができたら私としてはもう、「ありがとう!」という気持ちです。

aiko-『ねがう夜』music video

――ラブソングを歌い続けてきてよかったと思うことはありますか?

aiko:歌手として今もこうやって歌えていることが一番うれしいですよね。その中で、いろんな人と繋がることを大事にしながら日々を楽しく過ごせているのは、恋愛の曲を書けているからこそだと思います。

――他者との繋がりなくしては成立し得ないのが恋愛ですもんね。

aiko:はい。もし恋愛の曲を書いていなかったら、人は人、私は私と思ってずっと生きていると思う。家でずっと孤独に土をイジって植物を育てたりとか。たぶんまったく違う人生を歩んでいたんじゃないかな。

――そういう意味では、aikoさんのラブソングってライフソングと同義なのかもしれないですよね。

aiko:そうなのかな? でも、この先もずっとおもしろく生きていきたいですよね。いつまでも愉快に、ひょうきんに、そして血気盛んにテラテラと(笑)。30代後半から40歳くらいの頃って、「いつまで恋愛の曲書いてんねん」ってよく言われてたんですよ。それが46歳にもなるとほとんど言われなくなって。乗り越えたーと思うんですよ(笑)。

――そもそも恋愛に年齢は関係ないですしね。

aiko:そこをあまりつつかれなくなったので、私はこれからも変わらず恋愛の曲を書き続けたいと思います。みなさんが求めてくれてるおかげで私は音楽を続けることができているので、みんなへの感謝の気持ちを持って頑張り続けたいですね。で、またどこかで逢ったらいろんな話をしましょう!

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