カネコアヤノ、柴田聡子、さとうもか……豊潤な個性を進化させ続ける、シンガーソングライター3組の現在地

 近年躍進を遂げてきた女性シンガーソングライターたちの最新の動きが刺激的だ。そもそも豊潤な個性を持ったアーティストたちが、その活動と作品を通して、次々に新たな表情を覗かせていく。本稿では進化し続け、その表情を豊かなものにしていく3組の女性シンガーソングライターの現在地を紹介したい。

 まずは、カネコアヤノ。昨年11月には武道館ワンマンも開催した彼女から約1年ぶりの新曲として届けられた「わたしたちへ」は、カネボウ化粧品『ALLIE』のCMのために書き下ろされた。冒頭からダイナミックで幽玄なバンドサウンドに耳を惹きつけられるが、同曲はエンジニアリングとサウンドプロデュースに濱野泰政を迎え、演奏には林宏敏(Gt)、本村拓磨(Ba/ゆうらん船)、Bob(Dr/HAPPY)が参加。レコーディングは彼女にとってなじみ深い伊豆スタジオで行われたという。

カネコアヤノ - わたしたちへ

 タイトルも象徴的だが、「わたしたち」という対象と共に綴られた言葉にカネコの新境地を感じる。これまでは一貫して「個」としての世界を、また別の「個」へと響かせていくような印象のある彼女だが、〈変わりたい 代わりがいない私たち/私たち〉と歌うことの眼差しは、より大きなものを見据えているように思えるのだ。しかしながら、それが大仰で啓蒙的な言葉になるのではなく、独白めいた筆致を保ちながら、「ともに歩こう」と語りかけるような、解決もゴールも見えない道の途中でそっと聴き手の肩を抱き寄せるような繊細な包容力と共に表現されているところに、カネコの繊細な美意識を感じる。〈あの子〉や〈母〉といった歌詞の中に散りばめられた言葉たちも、記憶や血の流れを感じながら生きる、孤独な主体の存在を思わせるものだ。歌を通して「私たち」という大きな主語に向き合おうとしたからこそ、より本質的に自らの根源に深く触れることができた1曲なのかもしれない。井手健介が手掛けたミュージックビデオも、この曲の持つ逞しさを見事に描き出していて素晴らしい。

 次に紹介するのは、5月25日に6作目となるフルアルバム『ぼちぼち銀河』をリリースする、柴田聡子。デビューアルバムである『しばたさとこ島』のリリースから10年目となる今年、彼女からどんな作品が届けられるのか期待は高まるが、すでに公開されている、アートグループ・ヨフが手掛けたアルバムジャケットのアートワークはこれまでの柴田作品とは違った色彩感と新鮮さがあるし、既発のシングル曲たちも、アルバムの期待値をさらに高めてくれるものばかりだ。

 3月に先行配信リリースされた「ジャケット」は、シャープなバンドサウンドと、日常と思考と宇宙が重層的になるようなシュールな柴田の歌詞世界が魅惑的なバランスを生み出している1曲。柴田らしい視点の大胆さと細やかさが現れている曲だが、柴田に加え、イトケン(Dr)、かわいしのぶ(Ba)、岡田拓郎(Gt)、ラミ子(Cho/Perc)による「柴田聡子inFIRE」の面々が黒のレザージャケットとサングラスでキメた姿で登場する、軍司拓実が監督を手掛けたクールなミュージックビデオもインパクト大。他にも、2021年に公開されたクリスマスソング「サイレント・ホーリー・マッドネス・オールナイト」や「雑感」といったシングル曲たちも『ぼちぼち銀河』には収録される。個人的には、「雑感」で響いていたパーソナルな心象や人生観を力強く綴るような言葉たちに、キャリアを重ねていく中で辿り着いた柴田の「今」を感じ、惹かれていた。それもあって、アルバムでは、これまで以上に「柴田聡子」という存在の多面的な魅力と生き様をダイレクトに感じることができるものになっているのではないか、という予感と期待がある。

柴田聡子 | Satoko Shibata - ジャケット | Jacket _ Official Music Video
柴田聡子 | Satoko Shibata - 雑感 | Understood (Studio Session) _ Official Music Video

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