イラストレーター ますだみくに聞く、MECREを通じたクリエイターとの共同作業 Saucy Dog「シンデレラボーイ」MV秘話も
昨年5月末にβ版としてスタートしたMECRE(メクル)は、“昨日初めて作品を発表した人も、1,000万回再生動画の主も、フラットに出逢い新しい創作活動ができる場所”をテーマとしたクリエイターのための創作プラットフォーム。MECREを利用するための会員登録は誰でも可能で、募集されている案件に立候補することができる。MECREサイト内に制作したポートフォリオページを使えば、新しい創作にあたって必要なパートナーを簡単に見つけられる。現在はMECRE事務局によって権限を付与されたクリエイターをロイヤリティユーザーと呼び、MECREで創作パートナーの募集を行っている。パートナーを募集後、コラボが成立したときに初めて作品の制作がスタートする。「ONI」「紅い呪い」「星月夜」の3曲が同時に公開された第1弾に続いて、2月23日に配信された「hubble 歩く人 feat. edda」を皮切りに第2弾として5週連続でリリースされた。
リアルサウンドでは、3月2日にリリースされた「ファストミュージック」(ヤマモトガク)および、3月23日にリリースされた「新人類」(40mP×蓮兎)の作画を担当したますだみくにインタビュー。イラストレーターを目指したきっかけやキャリアから、今回MECREを使用した経緯、実際の制作についてまで貴重な話を聞くことができた。(編集部)
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意識しているのは“絵の中に毒を仕込むこと”
――ますださんはどういう経緯でイラストレーターを目指されたのでしょうか?
ますだみく(以下、ますだ):元々両親がイラスト関係の仕事をしていたのがきっかけで、絵を描くのが好きになりました。高校時代から音楽も好きだったので、ミュージックビデオを作りたくて大学で映像学科に進学したんです。そこではアニメではなく実写の映像を学んでいたんですが、ゼミの先生から「映像が作れるイラストレーターはこの先絶対求められるようになるから、絵が描けるなら実写にこだわらなくてもいいよ」と言われて、そういう道もあるんだと思って、イラストを描きつつ構成やストーリー、脚本も学ぶようになりました。
――イラストや音楽関係のお仕事をすることを目標にされていたのですか?
ますだ:音楽プロダクションのPRや広告の仕事に興味があって、就活では音楽関係の企業だけを受けていました。でも、とある企業の最終選考の時に「ますださんは広告したい側じゃなくて作りたい側だよね」って言われて、「あ、そうなんだ」と思ってそこですっぱり就活を辞めました。
――では、最初からイラストレーターを志していたわけではないんですね。
ますだ:当時はSNSで作品を発信してそれを仕事にするというケースが周りにほとんどなかったので、心配の方が強かったんです。なので、イラスト自体を仕事にするのではなく、大学時代にやったイラスト仕事の実績は、あくまで就活の武器として使おうと考えていました。
――ますださんは、2021年に公開されたSaucy Dogの「シンデレラボーイ」のMVを担当されています。このMVのストーリーも、ますださんが考えたものだそうですね。
ますだ:元々先方とご縁があって、いつかMVを作りたいって話をしていたら、「新曲が出るからこの曲で作ってみない?」という話をいただいて。それで曲を聴いてすぐにプロットとVコンを作って、初めての打ち合わせで流したんです。ありがたいことにそれをほとんど採用していただいて。
――MVのストーリーを追っていくことで視聴者が彼氏の浮気の事実に途中で気づくような作りになっていたり、仕掛けが施された内容になっていますね。
ますだ:今って考察するような感想をよく見かけますし、私自身それを読むのも好きなので、自分もコメント欄で意見を出してもらうようなものを作りたいなと思いました。元々イラストを描く時は、見ている方が想像できるる余白を作るようにしていて、「ここまでは提示したから後はお好きに、自分で考えてください」っていうスタンスだったんです。それで、私のイラストを見た方に、「自分はこういう環境だったからこういう受け取り方をした」と言ってもらったのがおもしろくて、お仕事でもいつもそれを意識するようになりました。
――「シンデレラボーイ」は3000万回再生を突破する大ヒットとなりましたが、その反響を見ていかがでしたか?
ますだ:制作から公開までの1カ月くらいずっと胃が痛かったです(笑)。アニメーションだけの動画ならセリフがないから見ている人が好きに受け取れますが、ああいう漫画仕立てで、セリフまで具体的に提示してしまっているので、見ている方と解釈が違ったりしないかなと不安でした。でも、ここまで動画が伸びて、Saucy Dogがこの曲で歌番組などに出られているのを見ると、やってよかったなと思います。
――ちなみに、ますださんが思うご自身の絵柄の強みはどこでしょう?
ますだ:正直、かわいらしい絵ではないと思いますが、その代わり絵の中に毒を仕込むことを意識しています。ただ“かわいい”で終わる絵じゃなくて、漫画だったりイラストだったりを通して、闇や人間らしさがある、と感じ取ってもらえるようなものを意識して描くようにしていますね。
――高校時代から音楽が好きだったとおっしゃっていましたが、具体的にどんな音楽を聴いていましたか?
ますだ:それこそボカロは好きでしたね。中学の時に転校したんですが、人見知りで新しい環境がすごく不安だったんです。その頃がちょうど初音ミクが出だした頃で、私は「みく」なので、クラスの子から「みくっていうの? 初音ミクじゃん」って言われて。そこからボカロの曲を教えてもらったり、曲を作っている友達がいたりして、おもしろい文化があると思ってニコニコ動画にハマりました。その中で、今回動画を制作した40mPさんの楽曲も聴いてたし、須田景凪(バルーン)さんを聴いた時も衝撃でしたね。綺麗だけどちょっと毒があって。
――ボカロが好きでMVを作りたかったますださんにとって、MECREは願ってもない企画だったのでは?
ますだ:ボカロ曲のMVを作りたいとはずっと思っていたんです。でも、そこに繋がる知り合いがいなくて、どうやってMVが作られているのかもわからなくて。自分でも色々調べてみたんですけど、憧れの方と繋がる方法がなくて、諦めかけていたんですが、その時にボカロPさんのTwitterでMECREのことが流れてきて、すぐに応募しました。自分の絵柄はあまりサムネ映えしないので、正直ダメだろうなと思っていて、当たって砕けろ精神で応募したので、採用されてすごくびっくりしました。MVが作れるんだとわかった時は本当にワクワクして、打ち合わせが楽しみでした。
――実際に打ち合わせに参加していかがでしたか?
ますだ:それまでのMVのお仕事は代理店を通していて、他のクリエイターの方と1対1でお話しすることがなかったので、すごく貴重な機会でしたね。ボカロPさんともそうですし、動画クリエイターやコーラスの方とも関わることになって、「皆さんこういうお仕事されてるんだ」と間近に感じることができました。
――動画制作は具体的にどのような形で進んだのでしょうか?
ますだ:私はヤマモトガクさんの「ファストミュージック」と40mPさんの「新人類」、ふたつの楽曲を担当させていただいたんですが、ヤマモトガクさんは最初からかなりイメージが決まっていて、「こういうものを描いてほしいです」と提示していただいて、詳細なイメージを擦り合わせていきました。
――「ファストミュージック」はシティポップ調のメロウな楽曲で、ますださんのアンニュイで生活感のあるイラストとの相性がぴったりですね。MVはますださんの1枚絵をベースにしたものになっています。
ますだ:ヤマモトガクさんに関しては、動画やアニメーションではなくというとイラストで採用された側面が強かったと認識しています。その中で私の良さも出しつつ、ヤマモトガクさんの曲のイメージを大切にすることを意識していました。日頃からヤマモトガクさんの曲を聴いていて、MECREに参加されていることを知った上で応募したので、仕上がった映像を見て、ガクさんの歌声に乗って自分の絵が動いているのを見て本当に嬉しかったです。
――実際にMVがYouTubeで公開された時はいかがでしたか?
ますだ:プレミア公開で見ました。制作側としてプレミア公開を待つことはなかなかないので、緊張しながらカウントダウンを見ていたんですが、「雰囲気が好き」とかポジティブなコメントを見ることができて、改めて「世に出てよかった」と思いました。
――もう1曲の「新人類」はエレクトリックなサウンドにファンタジックな世界観で、「ファストミュージック」とは全くタイプの違う楽曲ですね。最初に聴いた時の印象はいかがでしたか?
ますだ:“今まで聴いてきた40mPさんの楽曲だ”という印象が強かったので、「このMVを担当できるんだ」という楽しみが強かったですね。40mPさんにはかなり自由にお任せしていただいたんですが、メッセージ性の強い楽曲なので、40mPさんが伝えたいことは揺らがないように、「全体の雰囲気を見ながら」ではなく、「これを伝えたいから全体をどうするか」と考えていました。
――「新人類」の制作はどのように行われましたか?
ますだ:40mPさんは、歌い手さんが決まってからその声を聴いて、その方がどういう歌を歌いたいかをヒアリングして曲を作るという流れでした。なので、最初の時点ではどういうものを描くかは全く決まっていなくて。音源ができてない状態で抽象的なところから色々ご相談して、トライアンドエラーしながら作っていきましたね。
全体の打ち合わせは一度だけで、後はスタッフの方と映像を制作されたたいすけさんと私の映像グループだけで相談しながら進めました。物語の流れは私に完全にお任せいただいていて、動画については「ここはアニメーションを動かした方がいい」とか、色々ご意見をいただきながら制作しました。イラストメインだった「ファストミュージック」に対して、「新人類」はストーリー仕立てのアニメーションだったので、それも挑戦でした。
――ますださんはリアリティのある恋愛をモチーフにしたイラストを描かれるイメージが強いですが、「新人類」のようなファンタジックな世界観の作品に携わるのは初めてだったのではないでしょうか?
ますだ:そうですね、今まで現実的な物語しか描いてこなかったので、ファンタジー寄りの「新人類」はすごく挑戦的でした。みなさんの反応が楽しみでもあり怖くもありましたが、自分のファンの方が見て下さった時に、「こういうものも描けるんだ」と思ってもらえたら嬉しいですね。
――今までと系統の違う作品に挑戦することに抵抗はありませんでしたか?
ますだ:私は、ずっと同じままっていうのがすごく苦手なんです。漫画でもイラストでも少しずつ変化をつけていきたいし、ステップアップしていきたい。そう考えていた時にこの機会をいただけたので、むしろすごくいいチャンスだと思って取り組みました。