上野大樹、リスナーから熱烈な共感を集める理由 挫折や孤独の経験から生まれる等身大の言葉
瑛人、優里、Saucy DogなどZ世代の支持から世に広まったアーティストが多く登場してきた。ネクストブレイクとして今注目を集めているのが上野大樹だ。2020年に発表した「ラブソング」や「て」がリスナーの共感を集め、どちらもYouTubeで300万回以上の再生数を記録。昨年12月に2ndアルバム『帆がた』をリリースした。現在はライブツアー『帆走-hansou- tour』を開催中で、4月23日には福岡での追加公演が決定。また、人気ダンスユニットs**t kingzの結成15周年舞台『HELLO ROOMIES!!!』のコンセプトソング「心躍らせて」に、作詞と歌唱で参加して話題。そして、自身初のドラマ主題歌「面影」(BSテレ東・テレビ大阪の真夜中ドラマ『今夜はコの字で season2』)を4月9日に配信リリース。飾らない楽曲と胸に染みるやさしい歌声が、さらなる広がりを見せている。
上野大樹は1996年9月21日、山口県宇部市に生まれた。もともとはサッカー少年で、U-14の西日本選抜に選ばれるほどの実力だったという。しかし病気と怪我でサッカー選手への夢は絶たれ、家に引きこもる日々でふと兄のギターを手に取ったことが、彼の音楽人生の始まりとなった。当初はいきものがかりやコブクロなど当時流行りのアーティストの曲をカバーし、ツイキャスでこっそり弾き語り配信も行い、次第にオリジナル曲も作るようになったという。高校3年生の時には、ヤマハ主催の音楽コンテスト&音楽オーディション『Music Revolution』でオリジナル曲を4曲歌い、見事グランプリを獲得。人生で人前で歌ったのは、その時が初めてだったという。
名前が知られるようになったきっかけは、「ラブソング」という楽曲だ。ピアノと語りかけるような歌声だけで構成され、〈あの子は電車に飛び込んで この世をそっと去ってしまった〉という歌い出しが衝撃的。しかし続くフレーズでは、その死を愛溢れる解釈と言葉でやさしく包み込む。子どものような無垢さで死と向き合った同曲は、2020年にYouTubeで公開されると「生きる意味を考えさせる曲」として口コミで広がり、メジャーデビュー前でありながら300万回を越える再生数を記録した。
上野の歌は、シンプルで率直だからこその輝きが、心の隙間に飛び込んで来る。粗く絞ったレモン汁が喉の奥をヒリつかせるように、その生々しさが心をザワつかせる。楽曲の多くは実体験や身近にあった出来事が元になっている。「ラブソング」も自分が乗ろうとしていた電車が人身事故で止まってしまったことがきっかけだった。また2019年の「青」は、知人の赤ちゃんが亡くなるという悲しい実体験が元になった。2020年の「おぼせ」は、東日本大震災に対する思いが書かれ、上野と同様に地方から上京した友人への思いが、郷愁や都会の空虚さと共に歌われた「東京」という楽曲もある。
人の痛みに寄り添い、その人の心の深淵に触れることが許されるのは、上野自身が挫折や孤独を経験したことがあるからだろう。だからと言って、それを声高に訴えたりすることは決してない。自分とは全く関係の無い遠くの誰かがたまたま同じ痛みを持っていて、それを静かに自分だけで楽しむような、そんな絶妙な距離感がある。心の機微に敏感で押しつけを得意としない傾向にあるZ世代のユーザーから多く支持を得ているのは、共感はするけど干渉はしないといった程よい距離感がきっと心地良いのだろう。